22話:こんなエロハプニングは認めない!

 鍛冶屋の衝撃の一言に、呆気にとられるノエルとモーリスだった。

 しかし次の瞬間モーリスは大笑いし、ノエルは渋い顔で黙り込んでしまう。


「ぶわっはっはっは。バカかおめーは、そんな物がこんな所に有る訳ねーだろ。なぁノエル?」


(いや、有り得る……。何しろ元の所有者が英雄だからな。オン婆、あんた何て物残して行きやがったんだ……)


 渋い顔で黙りこくっているノエルに、モーリスは確かめるように繰り返す。


「そうだよなノエル? そんな大それた物じゃないんだよな?」


 聞くとノエルは渋い顔をしたまま答える。


「んーっ、なくもない?」


「んなっ、マジかよ」


「んっ、その前に話を聞きたい」


 ノエルはこの時点で完全に村を出る決心を固めた。

 こうも厄介事が次から次へとやってきては、堪ったものではない。

 オマケに今度は国宝騒ぎだ、ノエルとしては下手をすれば国に追われる事に成りかねないと危惧していた。


(どっちに転んでもこの弓は誰にも渡す気はないが、村を出るにしても最低限準備をする時間は稼ぎたいよなぁ)


「お、おぅそうだな。おい、鍛冶屋その話もっと詳しく聞かせろ」


「話を聞かせろだぁ? 盗人風情がいけしゃぁしゃぁと、ふざけるなよ?」


「いいから話せ、3度目はない」


 瞬時に身体強化を発動し、体内で水属性と風属性の魔力を練り上げると、不意に肩を掴まれる。


「待てノエル! ったくスゲーなお前、本当にガキかよ? ちょっとチビリそうになったぜ」


 慌てて、止めに入ったモーリスは、ノエルを自分の後ろへ隠すように立つと鍛冶屋の男に言った。


「お前の言い方じゃ只の憶測にしか聞こえねーんだよ。まずはその何だ? 精霊銀の弓の事を聞かせろや。人を盗人呼ばわりしやがったんだ、きちんと話すのが筋だろーよ?」


「チッ……」


舌打ちした鍛冶屋は、仕方がないと語り始めた。



――凡そ300年前の大戦で、危機に瀕していたこの国を救った英雄オンディーヌが、最後の最後で勇者に止めを刺したのがこの精霊銀の魔導弓であり、その最後の一矢は聖なる一矢と呼ばれていて、放った弓は聖弓として代々オンディーヌ家当主に受け継がれているという。


 ここまで聞いてノエルは大体の状況を理解した。

 そしてこれから襲い掛かって来るであろう数々のフラグを思い描き溜め息を吐く。


(オンディーヌ家当主ってのは、恐らく代々受け継がれてきた偽者の英雄だろうな。まったく……、自分の子孫まで巻き込むとは業の深い連中だ。となると、その英雄の一族は間違いなく動いて来るだろうな……。やべぇ、思った以上に厄介だぞこれは)


「聖弓だと判断した理由は?」


 聞かなくても大凡の検討はつくが、一応の答え合わせは必要だろう。


「あん? そりゃぁコイツよ」


 そう言って鍛冶屋の男は自分の目を指さした。


「なっ、おめぇ光魔法まで使えたのかよ」


 驚くモーリスに鍛冶屋の男は首を振る。


「いや、俺のは魔術だ。コイツを覚えるのには大分金が掛かったが、まさかこんな所で役に立ってくれるとは思わなかったぜ」


(やはりあの時、瞳の奥に見た魔法陣は鑑定魔術だったか)


「どうだ? わかったらそのガキをこっちへ引き渡せ! でなきゃお前も罪に問われるぞ?」


 言い返す言葉が見つからず、苦々しい顔で男を睨んでいるモーリスの上着の裾を、ノエルがクイックイッと引っ張った。


「んっ、問題ない」


「も、問題ないってどうするってんだよ」


「騎士団の詰め所へ行けばいい」

 

 ノエルがそう告げると男はニヤリと笑いモーリスは悲しそうな顔をした。


「お前……自首するつもりか?」




「ちげぇよバカ!」


「急にキャラ変えんなよっ! ビックリするだろうがっ!」





――何度も心配ない、問題ないと繰り返し言って聞かせたのだが、モーリスは手早く店を畳むと、どうしても一緒について行くと譲らなかった。


 このオッサンも大概お人好しだなぁと苦笑いをしつつも、しかたがないと3人で騎士団の詰め所まで向かっている。

 

「でも何でノエルの師匠が聖弓なんてもんを持ってやがったんだ?」


 ノエルの左手を握り、まるで親子のように歩いていると、モーリスはノエルのことが余程心配なのか質問責めにしている。


「オン婆はオンディーヌ、当たり前」


「――っ! 成る程、オンディーヌ家の奴だったのか」


「違う、オンディーヌ本人」


「うん? どういう意味だ?」


「説明大変、行けば分かる」


 端から見ればまるで仲の良い親子の散歩にしか見えない2人の後ろを、相も変わらず剣呑な空気を纏った鍛冶屋の男が監視するようについてくる。

 やがて村の中央にある騎士団の詰め所まで来ると、ノエルは堂々と扉を叩く。


「お、おいノエル本当に大丈夫なのかよ」


 心配そうに聞いてくるモーリスに片手を上げて返事をすると、もう一度扉を叩く。


――ギィ

 

「はい、何のご用でしょうか?」


 急拵えで作られたのか、立て付けの悪そうな音を立てながら扉が開くとランドルフが出てきた。


(おっ、ついてるな)

 

「んっ、ジャスパーいる?」


「あっノエル君、どうしたんだい? 団長なら聖都へ報告に行っていて今は居ないんだ。私でよければ話を聞くよ?」


「しょうがない、ランドルフでいい」


「おいノエル、そんな口の効き方して大丈夫かよ?」


 ノエルの物言いに、モーリスは青ざめ鍛冶屋は目を丸くしている。


 3人はランドルフに連れられて、詰め所の中にある応接室へと通されると、早速と言わんばかりに鍛冶屋が口を開く。

 

「俺は東で鍛冶屋をやっているコイルという者だ、早速だが話をさせて貰いたい」


「あぁ、構わない続けてくれ」


 ランドルフは何やら剣呑な雰囲気のコイルに席に着くよう手で促しながら話を続けさせた。


 

「あぁ、すまない。じゃぁ続けさせて貰う。実はそこにいるガキが俺の店に持ち込んだ弓についてなんだが――」


――腕を組み目を瞑って黙ったままコイルの話を最後まで聞くと、「う~ん」と唸る。


 いつものように眠そうな目で平然としているノエルの手を、青ざめた顔で握っているモーリスは、居ても立ってもいられずに必死でノエルを擁護しようとする。


「ま、まってくれ。これはきっと何かの間違いだ。ノエルがそんな悪い事するとは思えねぇ。そもそもまだこんな小さな子供が、英雄様の家にコッソリ侵入して、誰にも見つからずに国宝なんて大それた物を盗んで来れるはずがないだろ?」


「う~む、確かに……、ご協力感謝する。後は此方でこの少年も含めてしっかりと調査させて貰う。いいかな?」


「いや、だがしかし……」


「んっ、そう言えば君は誰の関係者なのかな?」


「俺はモーリスって者だ。商店街でラーメン屋をやっている。今日はノエルが心配で付いて来たんだ……」


 段々と声が小さくなっていき、最後にはとうとう青ざめた顔で伏せるように黙ってしまう。



「モーリスさん、安心してください。我々も子供を相手にあまり無茶な尋問をするつもりはありませんからね」


「信用していいんだな?」


「ええ、何でしたら明日にでも面会に来ると良いでしょう。特に面会を制限するつもりもありませんから。そちらのコイルさんでしたか? あなたも其れでよろしいですね?」


「ああ、俺は構わねぇ」


 そういってランドルフは半ば強引にこの場を収めた。

 コイルは満足げな顔で、モーリスは何度も振り返り心配そうな顔で詰め所を後にする。


 後に残された2人は互いの顔を見ると、ヤレヤレと肩を竦ませた。


「これは流石に参ったね」


「んっ、参った」


 ランドルフは改めてノエルに向き直ると、途端に真剣な表情に変わる。


「ノエル君キミは今、自分が置かれている現状が理解できるかい?」


「んっ、把握してる。その上で聞きたいことがある」


 ノエルの物言いにランドルフは驚いた顔をするが直ぐに何やら考え込むように黙り込んでしまう。

 そんなランドルフにお構いなしにノエルは話を続けた。


「今回のことが外に露呈して、オンディーヌ家が動き出すまでどれぐらい猶予があると思う?」


「参ったな、頭の言い子だとは思っていたが、ここまでとはね……。今回の関係者に口止めしたとしても、もって2週間が限度だろうね」


「んっ、それだけあれば良い」


「其れは一体……」


言い掛けてランドルフはハッとして身を乗り出すように詰め寄る。


「まさかノエル君は村を出るつもりなのかい?」


「んっ、ほかに手はない」


「つまり、その弓を手放す気はないって言うことかな?」


「んっ、当然」


「ふぅ……。まぁ、君ならきっとそう言うだろうと予想はしていたけどね。せめて団長が戻るまで、村に留まるわけにはいかないのかい? このままだと私が団長に叱られてしまうよ」

 

 深々と椅子に座り直し眉間を押さえて首を振る。

 これは始末書程度では収まらないかも知れない。


「ん~、状況しだい?」


「まぁ、それはそうだろうね……。それにしても……」

 

「「参った」ねぇ」







――その後も特に拘束されるような事はなく、詰め所の中の一室を貰いうけた。

 どうやら団長が戻るまでの間、部屋の中で大人しく待っていろと言う事なのだろう。

 ノエルは一人、ベットの上に寝そべるとこれからの事を考え始める。


(オン婆はなぜこんな厄介な物を俺によこしたんだ? あのオン婆の事だ、こうなる事は始めから折り込み積みだったんじゃないか?

 俺を村から出て行かせるため? いやむしろ国外へ出ろと言う意味か?

 分からない……、だが何か意味があるはずだ)


「インベントリ」


 ベットから体を起こすと、弓を取り出しジッと見つめる。

 弦の切れた弓は、先ほどランドルフに張り替えてもらった。

 どうやらこの聖弓とやらは歴史的価値はあるものの、取り立ててすごい力がある訳では無いらしい。

 依然武器屋で見かけた魔導弓よりは使われている精霊銀の含有量が高く、値段で見ると2倍はするとの事、だがそれだけ・・・・の違いしかないとも言える。

 あくまで少し高級な魔導弓でしかないこの弓を、わざわざ国から追われるリスクを承知で、ノエルに託したオンディーヌの真意は何なのか、どうしても分からなかった。


(だめだな……、これ以上考えても今の俺には分からないだろう。それより今やるべき事を済ませてしまわないとな)


「インベントリ」


 弓をしまいローブを取り出すと、部屋の窓から抜け出し屋根伝いに西へと走り出す。

 騎士団がザンバを取り逃がして以来ずっと気がかりな事があった、それはゴルドー達の安否だ。

 ノエルは手出しをしないと言うザンバとの約束を破った事への報復を恐れていた。

 自分の素性が未だバレていないとすると、報復の矛先はザンバ達、西のギャング団に向かうと考えるのが妥当だろう。

 嫌な予感が拭いきれないノエルは身体強化を更に強化し、飛ぶように速度を上げた。



――やがて西のギャング団の根城である酒場に着くと、焦る気持ちを抑えながらもう一度体内で魔力を練り直す。


「ふぅ……。よし、行くか!」


 息を整えると不気味なまでに静まりかえった酒場の戸を押し開く。


「なっ! くそ、遅かったか……」


見ると、そこには十数人の男達が死屍累々と横たわっていた。


「落ち着け、切り替えろ……。死にたくなければ集中しろ!」


 自身に言い聞かせるように呟くと、垂れ下がるローブの袖を託し上げナイフを取り出し右手に握る。

 横たわる男達を避け、ゆっくりと進みながら周囲に耳を澄ませると、視線を奥の階段へと向ける。


――2階から微かに音がする。


 一気に駆け上りたいとする気持ちを押しとどめ、周囲を確認しながら足音一つ立てずにゆっくりと上っていく。

 一歩一歩階段を上りながら、ノエルは覚悟を決めるように自分に言い聞かせる。


(これから始まるのは問答無用の殺し合いだ。殺さなければ殺される、仕方がないんだ)


 この世界に再びの生を受けてから、ノエルはいつか人を手に掛ける日が来ることを覚悟していた。

 その為、まだベットから起きあがることすら出来ない赤ん坊の頃から、人を”殺す”ことをイメージし続けていた。


 相手を思い、相手に殺される。

 そんな馬鹿げた生き方は二度とごめんだ。


(殺す相手と会話をするな。罪を背負おうとするな。相手に感情移入するな。相手は魔物だ……そう思いこめ!)


 一歩、また一歩と階段を上る度、自身の心が冷えていき、全身の感覚が研ぐ済まされていくのをのを感じる。


――やがて2階へ上がると廊下の奥にある扉の前で立ち止まる。


 ――居る。


 何者かの唸るような声が聞こえてくる。

 怪我をしているのだろうか? だとすれば急いで治療しなければならない。

 だが問題は怪我をしていると思しき男の他に、もう一人の気配があることだ。


(よし、いくぞ!)


「ひゅぅ」と息を吐くと同時に、気配を隠すために体内で練り上げた状態で、待機させていた魔力を風属性と水属性に変換させる。


「ふんっ」


――ドカッ


左足で扉をぶち破ると一気に風のエンチャントで中に突入し、圧縮した左掌てのひらにある水球を、目の前にいる”ベットの上で絡み合う男女”に向けた。



「「「えっ?!」」」


――言いしれぬ静寂が続く中、アルル村の西の外れにある酒場から、甲高い女性の悲鳴が轟いた。




◇――――――――◇



「いやー、すまんすまん。てっきり敵の襲撃を受けたのかと勘違いしたわ。ぶわっはっはっは、許せっ!」


「許せっ! じゃねーよ、このエロガキが! マジで死ぬかと思ったわ!」


 覚悟を決め、全神経を尖らせていざ突入してみれば、そこにいたのはザンバではなく、ゴルドーと下の酒場で働くウェイトレスのノーラだった。


 扉を蹴破り全身から殺気を漂わせて現れたノエルに当初、二人は動くことは疎か声を出すことさえ出来ずにいたが、ほんのりと顔を赤らめるノエルを見て、ノーラはたまらず悲鳴をあげた。

 その後、ノーラは謝り倒すノエルを追いかけ回し物を投げつけ散々怒鳴り散らしたが、其れを見ていたゴルドーは怒るタイミングを逃し、ボリボリと頭を掻くばかり。



「まぁまぁ、そう怒るなって。マジ謝るよ、スマン!」


「ったくよぅ。で、そのザンバってのは本当にここを襲撃するつもりなのか?」


「わからん、分からんが警戒は必要だろうな」


「そうか……、わかった。暫くの間は、ここの見張りを増やすなり対処しよう」


「そうしてくれ、それよりジン達はどうした?」


「んっ? アイツらなら下で宴会してんじゃねーか?」


「宴会? なんかあったのか?」


「有ったも何も、おめーが騎士団と交渉してきた報酬の話が通ったみてぇでな、それを祝して皆でドンチャン騒ぎがおっぱじまったって訳よ」


「あぁぁ、成る程。だが暫く浮かれるのはお預けだ、わかったな?」


「あぁ分かってる……。またお楽しみの最中に襲われても困るからな」


「それは、マジでスマンかった……」




◇―――――――――◇


――ゴルドーに今後のことを話し、予め用意していた用事を頼むとバツが悪かった事もあり、そうそうに詰め所に帰ることにした。


(マジでヒドい目にあったわ……。ついてねぇ、ここの所マジでついてねぇ。まさかオッサンの情事に出会でくわすなんてな……)


 風のエンチャントを纏い、屋根の上を飛び跳ねていく。

 ノエルは未だ小さな子供の為、体重が軽い。

 風を纏っての跳躍はかなりの飛距離を叩き出している。


その時――体中の毛穴が広がるような寒気が全身を包む。

 殺気だ……。

  

(1、2,3,……5人か。何者だ?心当たりが有りすぎてわからねぇな……)

 

 いつの間にか随分と敵だらけに成ったものだと苦笑いする。

 つかず離れず付いてくる追跡者達の中に、覚えのある魔力が混じっていることに気付く。

 ネっとりと、絡み付くような殺気を帯びたその魔力の方角に視線をやると、ノエルは詰め所を通り越し、村の東の方角に向かって速度を上げた。


(戦う相手は選べなくても、鉄火場ぐらいは選ばせて貰うとしよう)


「インベントリ」


取り出した精霊銀の弓は、待ちに待った戦いの空気に歓喜するが如く、キラリと月の光を反射した。

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