21話:俺の厄介事フラグが自重してくれない

 オン婆が去った後、死屍累々と倒れている騎士団の連中を眺めながら、頭の中で疑問に思った点をまとめていく。

 オン婆の故郷とは何処なのか、何故帰らねばならなかったのか、そして俺を連れていけない理由は何なのか。

 それに一番気になるのは、勇者召喚だろう。

 異世界テンプレで言うところの召喚なのか、それとも全く別の物なのか疑問に思うことは、山のようにある。

 本当ならオン婆にそれらを質問したい所だったのだが、状況がそれを許してはくれなかった。

 あまりモタモタしていては次の追っ手が掛けられるかも知れない。


(それもこれもこいつ等の所為なんだけどな!)


 涙目で見上げるランドルフの顔をむにゅっと踏みつけた。


「ノエルぐーん……」


「んっ、反省する」


 

「う゛うぅぅぅ……」



………………。

…………。

……。




――倒れている騎士達にポーションを飲ませて回る。

 これだけの人数を相手に、死なせないように手加減をするなんて離れ業をやってのけたオン婆には本当に感嘆する。

 それにあの精霊もだ。精霊魔導師のことは本で読んだ程度の事しか知らないが、あれ程の規格外とは想像すらしていなかった。

 あれがこの世界におけるチート能力・・・・と言う奴なのかも知れない。

 ならば、俺が目指すべきは、魔導師の遥か先にある精霊魔導師だ。

 今日からそれを俺の目標にしよう。




「ノエル君、ポーションを提供してくれて本当にありがとう。お陰で部下達が大事に至らなくてすんだよ。それと……、オンディーヌさんのことは本当に申し訳ないと思っている。完全に私の力不足だすまない」


 オン婆の残していったポーションを飲み、スッカリ傷の癒えた騎士達を確認するとジャスパーは深々と頭を下げた。

 

「んっ、もういい」


「ノエル君……君って子は……。んっ? なんだい?」


 なにも無いてのひらを差し出すノエルを不思議そうに見て首をひねる。

 

「んっ、俺薬師、聖職者違う」


 言われてジャスパーはヒクヒクと頬をひきつらる。


「そ、それはそうだねハハハッ。だがノエル君、生憎と今は持ち合わせがないんだ、又後日でいいだろうか?」


「んっ、今日のポーションはいつもの2倍する。後払いは利子かかる」


「「えぇぇぇぇぇ」」


ジャスパーとランドルフの声がこだました。





◇――――――――◇




 その後騎士達は、その足で東の外れにあるギャング団のアジトに強襲をかけた。

 俺自身もコッソリ後に付いていき様子を伺っていたのだが、拘束されたギャングの中にはザンバの姿がなかった。

 恐らく事前に察知して逃げたのだろう。

 思っていたよりも連中は数が多く、国の深くにまで入る込んでいるのかもしれない。

 たとえば教会騎士団とかに……。

 しかし、そうなると連中に俺の事がバレている可能性が出てくる。

 なぜなら騎士団とオン婆の一件があったからだ。

 あの一件が連中に伝わっているのなら、俺の存在を怪しく思う奴がいても可笑しくはない。

 どうも感のいい奴が居るみたいだしな……。


「これは、いよいよ村を出る事も考えないといけないかも知れないな……」


 ベットに腰掛けウツラウツラと船をこぐ。

 その手には一冊の本と銀色に輝くショートボウが握られている。

 どちらもオンディーヌがノエルにと置いていった誕生日プレゼントだった。


「まったく、こんなに沢山貰っちまったら今度会ったときにお返しするのが大変だな」


 言葉とは裏腹にノエルの表情は綻んでいる。

 徹夜したせいでいささか寝不足気味のノエルは、オンディーヌからのプレゼントを抱きしめるとそのまま眠りについた。


――翌日スッカリ日が昇った時間に目を覚ますと、早速ジャスパーが訪ねてくる。

 律儀にもノエルが腹いせにつり上げたポーションの代金を、ご丁寧に利子まで付けてをキッチリ払っていく。

 その際に何かあったら自分を頼るようにと、何度も念を押すように言われノエルは素直に頷いた。


 そこで、自分が不安に思っていたことを相談してみることにした。

 それは、オン婆が居なくなって村の薬師の代わりが居るかという問題だ。

 一応自分にも出来る事はあるが、これだけ大きな村の薬を自分一人で賄えるはずがないのだ。

 すると、ジャスパーは前もって薬師の手配を済ましている事を教えてくれた。

 何とも手配の良いことだが、普通これだけの規模の村の調合を一人で賄うこと事態が不可能なんだとか。

 これもオン婆だから出来た離れ技と言う奴なのだろう。


(そうか……。ちゃんとした薬師が来るならいざと言う時、俺が村を出ても問題は無さそうだな)


「オンディーヌさんとの約束もあるし、偶に様子を見に来させて貰っても良いかい?」


「んっ」

 

「それじゃぁ、ノエル君また来るよ」


「またね」


 そそくさと帰っていくジャスパーの後ろ姿を眺めながらノエルは察する。


「色々聞かれる前にさっさと帰りやがったな。まぁバツが悪いのも分からなくはないが」


 その後、手早く食事をすませると裏庭に出て弓の試し撃ちをす事にした。

 オン婆がくれたこの弓は、依然鍛冶屋で見た精霊銀の魔導弓によく似ている。


 魔導弓とは弓自体に属性のエンチャントを掛け、矢を放つ際に予め弓に掛けてあったエンチャントを、矢に付与する事が出来る優れ者である。

 更に矢と弓両方にエンチャントを掛けることで、一本の矢に2属性を乗せて発射することも可能になる。

 

――ノエルはその手の中にある銀色に輝く弓を見つめていた。

 その弓は無数の細かい傷こそ見受けられるが、丁寧に手入れされていたようで今尚その輝きは失われてはいない。


 オン婆は300年前の大戦でこの弓を使ったのだろうか?

 血で血を洗うような激しい戦場で、敵とは言え人の命をこの弓で射抜いたのだろうか?

 そして、そんな思いまでして守り抜いた国に裏切られた時、一体どれほどの絶望を感じたのだろうか……。

 様々な事が頭に浮かんで、ノエルはどうにもやるせない気持ちになってしまう。


「この弓を使う以上みっともない一矢を放つわけにはいかないな」


 深呼吸をすると手の中の弓を力強く握り、流れるような動作で矢筒から矢を抜き弓につがえる。

 キリキリと弓を引くと目を閉じ精神を集中する。

 やがて集中力が高まるとゆっくりと目を開く。

 狙いを定め矢を射ろうとした次の瞬間――。


――ブチッ

 弦が切れてしまい、力一杯弓を引いていたノエルがよろめく。


「えええぇぇぇぇっ!」


 せっかく高まった高揚感に水を差され、思わず突っ込みを入れてしまうノエルだったが、その手の中の弓を見て目を細める。


「そうだよな……、300年も経っているんだもんな。お前だってくたびれちまうよな……」


 裏庭を後にしたノエルは300年もの長い間、使われるのを待ち続けたこの弓に、先ずはメンテナンスをして上げようと思い付きその足で鍛冶屋へ向かう事にした。


「ギャング共も居なくなったし商店街もスッカリ平和だなぁ」


 鍛冶屋があるのは村の東に位置する商店街の外れだ。

 依然ノエルが訪れた際は、まだ早いと言って素気なく追い返されてしまったが、今回は武器を買いに来たわけではないので大丈夫だろう。


――武器屋の扉を開けると上に取り付けられたベルがリーンと鳴る。

 すると奥の鍛冶場から依然ノエルを摘まみ出した男が顔を覗かせた。

 男はノエルの顔を見ると途端にしかめっ面になりうんざりしたように口を開く。


「また来たのか坊主、お前にはまだ早いと言っただろう?」


 男は呆れたように溜息を吐く。

 

(何か苦手なタイプだなぁ……。でも鍛冶屋はここ一件だけだからなぁ……)


「インベントリ――」


 ノエルは弦の切れた弓を取り出すと、両手で大切そうに抱え男に見せる。

 

「んっ、メンテナンス」


 すると怪訝な顔でノエルを見ていた男の目が急に鋭くなる。

 その目はジッとノエルの持つ銀色に輝く弓に向いていた。

 その時、ノエルは男の瞳に何やら魔法陣のような物が浮かび上がっていることに気が付いた。


(なんだあれは? 魔法陣が浮かび上がると言うことは魔法ではなく魔術の類か?)


 男は鍛冶場から出てくるやいなや、まるで絡んでくるような物言いでノエルに詰め寄る。


「おい坊主、それをどこで手に入れた?」


 男の失礼な物言いに少々ムッとするが、他に当てがないのも事実と諦め返答する。


「んっ、師匠に貰った」


「その弓はお前みたいなガキが持って良いものじゃねぇ。俺によこせ!」


「ヤッ!」


 ノエルは隠すように弓を後ろに持っている。


「いいからよこせっ!」


 強引に取り上げようと手を伸ばす男に、ノエルはこれ以上ない嫌悪感を覚えた。

 恐らくオン婆が長年使い続けたであろうこの弓は、普通の人からしてみればただの骨董品だろう。

 しかしノエルには掛け替えのないオン婆からの思いが込められている気がしているのだ。


――それを、この男は俺から取り上げるつもりなのか?――



 ノエルは回転するように素早く身をかわすと、スルリと男の脇を抜けて店のドアから飛び出した。


「あっ、待ちやがれこのガキっ!」


 振り返ったノエルは扉が閉まる瞬間、刺すような男の視線にぞっとしながらも足を止めることなく走り続けた。



………………。

…………。

……。



 男を振りきった後ノエルはその行き場にない怒りを吐き出すように悪態を付きながら商店街を歩いている。


「くそっ、なんなんだアイツは! 胸糞わりぃ……あ~腹立つ、一発ぶん殴っておくべきだったか?」


「おぅ、ノエルじゃねーか。おーい、ノーエールー」


 ブツブツと悪態を付いていると遠くから呼び止められる。


「あぁぁん?」


 自身のキャラ設定も忘れ、思わず乱暴に返事をしてしまうノエル。


「お、おい、なーに怒ってんだよ。俺だよ俺、モーリスだって」


「んっ、誰?」


「モーリスだって言ってんだろ!」


「んっ冗談」


「ったく、何があったかしらねけどよ。俺のラーメンを食えば、あまりの旨さに嫌な事なんて一発で吹き飛んじまうぜ? どうだ食ってかねーか?」


 未だイライラの収まらないノエルであったが、モーリスの作るラーメンは確かに絶品であったことを思い出し、食べて行く事にした。


「んっ、食べる」


「おっ、そうこなくっちゃな。ほれ、座れ座れ」


 モーリスの作るラーメンは、豚骨系のスープが特徴のラーメンで実に旨い。

 麺の方もこの世界では珍しいちじれ麺を使っており、スープによく絡んでくれる。

 チャーシューはかなり大きめに切ってあり、食べ応えも十分と全体的に見ても前世で食べたラーメンに勝るとも劣らない完成度であった。


 一心不乱に麺をすするノエルを見て、モーリスは嬉しそうに訪ねる。


「どうだ、旨いか?」


「んっ、良く出来てる」


「評論家見たいな事言いやがって、くはははっ」


「んっ、スープおいしい」


「そうか、分かるかっ!何たってコイツはオークの骨を10時間も煮込んでだな、そこに――」

「う゛ふぉおっ」


「うわっ、何しやがんだきたねぇな」


 予想外の食材に思わず麺を吹きだし涙目になっているノエルの顔をゴシゴシとタオルで拭きながら、


「まったく、そんなに急いでかき込むからだ。誰も取りはしなねぇんだからちゃんと味わってくえよな」


「んっごめん」

(オーク……。まさかのオーク……)

 

「ところでノエルは何であんなに機嫌が悪かったんだ?」


「んっー……」


 ノエルは先ほどの鍛冶屋での一件をモーリスに話すか話すまいか悩んだが、オン婆の大立ち回りは散々近所に住んでいる人たちに目撃されていたので、今更隠しても仕方がないと思い話すことにした。



「なっ、何だそりゃ。ひでぇ奴も居るもんだな。その弓はノエルの師匠ってーのから貰った大切な物なんだろう?何だってそんなひでぇ事すのかね~」


「んっ、まったくだ!」

 

 話を聞くなり憤慨ふんがいした様子のモーリスとノエルが、鍛冶屋の悪口で盛り上がっていると、突然後ろから肩をつかまれる。


「探したぜ坊主。いきなり逃げ出すんじゃねーよ」


 ギョッとしたノエルは、慌てて男の腕を払い距離をとる。

 そこへ先程の話を聞き、鍛冶屋に腹を立てていたモーリスが間に割って入ってくる。

 

「おぅ、ちょっと待ちなよ。俺の大事な客に何しようってんだ? お前さんはよぅ」


 突然横からしゃしゃり出てきたモーリスを男は睨みつける。


「そのガキはな、人様の物を盗んだんだ。そいつを庇おうってんならてめぇも同罪だぞ? ラーメン屋」


 チラリと振り向くと「そうなのか?」と確認するが、ノエルは即座に「んーんっ」と否定した。


「だそうだ。鍛冶屋の旦那よぉ、悪いが帰ってくんねーかな? 俺にはノエルが人の物を盗んだり、嘘を付いたりするような悪ガキには思えねーんだわ」


 そう言いながら体内の魔力を練り身体強化の準備を始める。

 元々冒険者上がりのモーリスは、魔力操作も身に付けていた。

 ただし、魔力を練って身体強化を発動するには、少しばかり時間が掛かるため、こうして話をしながら発動までの時間を稼いでいたのだ。

 ノエルのように瞬時に身体強化を発動できる者は少ない、よほど魔力操作に長けた者でない限りは。

 その意味ではノエルはその子供の体には似付かわしくない、規格外の力の持ち主とも言える。


「俺が嘘を付いてるっていいてぇのか?」


「俺にはそうとしか思えねぇって言ってんだ」


「そんな訳有るか! そのガキは確かに精霊銀の弓を持ってやがったんだ」


「んっこれのこと?」


 ノエルが弓を取り出すと、鍛冶屋の男は途端に剣呑な雰囲気になりモーリスに向き直る。


「いいかラーメン屋、耳の穴をかっぽじってよーく聞きやがれ」


「あぁぁん?」


「そのガキが持っているその弓はなぁ……」







「この国の国宝なんだよっ!」




「「はぁぁぁぁぁっ?」」

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