10話:口が悪く鋭い目をした悪辣な転生少年

「ハハハハッひぃひぅ、ダメだ、はっ腹いてぇ……クククッ」

 

 ノエルは先程の一件を思い返し、一人腹を抱えて笑い転げていた。

 

「ふぅ、しかし本当に予想が当たるとはな……。

 ここに来ていきなり”ご都合主義的”展開になるとは思わなかったぜ。

 だがコレで俺が何故、家族から厄介者扱いされるのかハッキリ分かったな……」

 

 普通の子供なら自身の出生を呪い、周りにいる人間すべてが敵に見える所だろう。

 だが生憎と俺は転生者だ。グレて自暴自棄になる事はないし誰かを恨むこともない。

 むしろ精々利用させて貰うとしよう。

 それにしてもリード父親には同情するぜ……。

 もし自分がリードの立場だったらと思うと寒気がする。

 母親のマイヤもそんな事するタイプには見えなかったんだがな……。

 初めて会ったときには”優しそうな人”何て思ったぐらいだ。

 相変わらず俺には女を見る目が無い。本当に気を付けよう。

 

「あ~こわっ!」

 

 ノエルは立ち上がると尻についた砂ぼこりを叩き落とし、商品がパンパンに詰まった麻袋をヨイショと肩に担いで歩き出す。

 やがて商店街を抜け自宅物置への道を歩いていると、楽しそうに連れ立って歩く家族連れを多く見かけるようになった。

 

「あぁ今日は光の日・・・だったか」

 

 光の日とは地球で言うところの日曜日にあたる。

 この世界では1日は24時間360日で一週間は7日1ヶ月は30日と12ヶ月で一年となっている。

 ノエルとしては読み慣れたライトノベルまんまの設定に苦笑いをしたが、閏年がないという事はこの世界は球体では無いのか?

と疑問を持ったりもした。

 曜日も実にテンプレで、”火・水・風・土・雷・闇・光”となっている。

 この聖法国では休日である光の日には家族で連れ立って教会へ行くのが慣わしとなっているのだ。

 家族連れをよく見かけるのはそのせいだろう。

 

 流れに逆らうように人混みの中を走り抜け、自宅が見えてくる頃に何やら辺りに焦げた臭いが立ちこめているのを感じる。

 何事かと臭いのする方角を見上げると、ちょうど自宅がある方向から黒い煙がモクモクと立ち上っているのが見えた。

 

「マジか……、家じゃねーだろうな? クソッ」

 

 ノエルは一瞬鋭い目になり眉をしかめると、煙が上がる方角へ身体強化を駆使して全力で走りだした。


 

  

――囂々と燃えさかる物置小屋の前でノエルは呆然として立ち尽くしていた。

 現在、家族に疎まれ厄介者扱いをされているノエルにとって、唯一安心して過ごすことが出来る大事な場所が、無惨にも燃え上がっていたのだ。

 ガサッと言う物音に振り返ると走り去っていく数人の男たちの後ろ姿が目に映る。

 

 おそらくは、今朝の連中だ……。

 

(オーケー、チンピラ共! てめぇらがそのつもりならコッチだって一切容赦はしねーぞ!)

 

 ノエルは拳を握り、鷹のような鋭い眼差しで男達が走り去った後を睨みつけていた。

 

 

 ◇―――――――――――◇

 

 

 

――行き場を失ったノエルはフラフラと村の中を歩いていた。


 思えば今朝の商店街でダズを蹴り飛ばしたのが事の発端だった。

 あの時、ダズなんて相手にせず逃げていれば良かったのだ。

 俺なら逃げ切れたハズなのに……。

 あんなに目立つ場所で派手に立ち回り相手を叩き伏せれば、どんな事になるのか、少し冷静になって考えて見ればわかった筈なのに。

 

 俺は間違えた。どうしようもなく間違えてしまった。

 それこそ取り返しが付かないぐらいに……。

 

 あの後、家の近所の人たちが消火活動に手を貸してくれて二次災害は免れたが、物置小屋は完全に燃え落ちてしまった。

 憲兵や警察の役割を果たす教会騎士の事情聴取にも俺は答えられず、両親が代わりに騎士達の相手をしていた。

 ただ、おかしな事に当人であるはずのダズが人目も憚らず狼狽えて、何やら喚き散らしリードに諫められる一幕があった。

 どうやらダズは今回の放火については何も知らされておらず、裏切られたと思っているようだ。


 そんなダズを眺めながら俺はどうにも彼を怒りきれないでいた。

 ダズの年齢は15歳、如何にこの世界では成人とはいえ俺から見れば、精神的に多感な中二男子でありまだまだ子供なのだ。

 恐らく彼は俺の出生を少なからず察しており、それが原因で妙な奴らと連んでしまったのではないだろうか?

 そう思うと何やら彼に同情心すら沸いてくるのだ。

 とは言えこの火事を切っ掛けに俺の居場所は完全に消えた。

 この一件の後、リードに二度と帰ってくるなと完全に追い出されてしまったのだ。

 こうして行く宛のない俺は一人、村の中をフラフラと彷徨っていた。

 


 

「――おいっ、そこのガキ! ちょっと待て。待てと言っているのが聞こえねーのか!」

 

 ノエルはキョロキョロと辺りを見渡す。

 見たこともない景色だ、どうやら自分でも気付かぬに村の西側まで来てしまっていたらしい。

 

 見ると人波を掻き分けるように、あきからに柄の悪そうな男達が向かってくる。

 思わず顔を歪める。ついてない……、次から次へとなんて日だ。 


「何なんだ……。今日一日で何でこんなに何回もチンピラの相手をしなければならないんだ? いい加減ウンザリだ」

 

 呼び止める男を無視し、ノエルは逃げるように掛けだした。

 

「あっ、待ちやがれコノ糞ガキ!」

 

 スルスルと人波の間を抜けながらノエルは細い路地裏へと飛び込んだ。

 右へ左へと路地裏の道を進む。路地裏の地理など覚えちゃいないが、感を頼りに逃げ続ける。

 待機魔力を解放し身体強化を施すと、更に速度を上げていく。

 

「あれ? ここさっき通らなかったか?」


 逃げ込んだ先は運の悪い事に行き止まりになっていた。 

 

「はぁ、厄日だ今日は絶対に厄日だ……」

 

 肩を落としうなだれるノエルの前に、先程の男達が息を切らせながら立ちふさがった。

 

「はぁはぁはぁ、てこずらせやがって。もう逃がさねーぞクソガキが」

 

「あぁそうかい、これはあれだな? 回避出来ない強制イベントって奴だろ? そいうことだろ? そうなんだろ? いいぜ構わねーよ」 

 

(ここまで来ると何かしらの意思みたいな物を感じる。いいさ、見極めてやる)

 

「あっ? 何言ってんだ? このガキは……」

 

 先程の男が首を捻ると、後ろからさらに2人の男が現れる。


「おいっガキ、それより、その大事そうに抱えた袋をコッチによこせ」


「おら、とっとと兄貴に渡さねーか。この糞ガキが!」

 

 どうやらチンピラ風の男達は全部で3人いるようだ。

  

 静かに目を閉じ「ふぅ」と一つ深く息をするとノエルの瞳は鋭い鷹の目へと変わる。

 

(冷静に……、クールに。前回と同じ鉄は踏まないように状況を見極めるんだ)

 

 ノエルは目線だけを動かし辺りに他にひとけがない事を確認すると、兄貴と呼ばれるリーダーらしき男にいった。

 

「おいチンピラ、お前等が西のギャングって連中か?」

 

「口の効き方に気を付けろよ? 勢い余ってぶっ殺しちまうぞ?」

 

「そうだ、アニキの言うとおりだ、お前は黙ってそれを寄越せばいいんだよ」

 

 リーダーらしき男の後ろにいた手下の2人がジリジリとノエルを囲むように回り込む。

 

「そうだな……。舐められたままじゃ、会話にすらならないか。ほらよ!」

 

 ノエルはリーダーの顔めがけて持っていた麻袋を投げ渡した。

 男がとっさに両手を広げ麻袋をキャッチしようとした瞬間、待機魔力を解放し身体強化を発動させる。

 

 地を這うように駆け出すと宙を舞う麻袋の下に身体を隠すように男に肉薄する。

 すると周りにいた手下二人が「あっ」っと声を漏らす。

 しかしその時には既にノエルの拳はリーダーらしき男のみぞおち辺りに突き刺さっていた。

 

「うぅぅ、うげぇぇぇぇ」


 男は膝を付き腹を押さえて嘔吐しながら悶え苦しんでいた。

 手下らしき男達は突然の出来事に狼狽え、腰が引けている。

 

「きったねぇ物、まき散らしてんじゃねー!」

 

 膝を付き嘔吐している男の側頭部を、回し蹴りで殴打し容赦なく意識を刈り取る。

 

「あ、アニキ! て、てめぇこのく「うるせぇ、ぶち殺すぞ!」なっ……」

 

「お前は黙って俺の質問にだけ答えろ。いいな?」

 

 およそ子供とは思えないその行動に2人の手下は恐怖していた。

 

「お、お前一体な、なんな「黙れと言ったはずだ!」っ!」

 

 ゆっくりと手下二人に目線を合わせ、ノエルは告げる。


「次に勝手に喋ったら、お前らもこうなると思え」

 

 そう、指さした先には白目をむき泡を吹いたゲロまみれの男の姿があった……。

 

「「ひぃ」」

 

 二人はリーダーの哀れな姿を見ると、怯えたような目で頷く。


「よぉし。まずお前等は西を縄張りにするギャングで間違いないな?」

 

「あぁ、そうだ」


 一人の手下らしき男がそう答えたが、もう一人はキョロキョロと視線を漂わせ挙動不審な態度をとっている。

 

「おい、そこの挙動不審なお前。言いたい事があるなら言って見ろ」


 ノエルがつげると男は更に狼狽し、怯えたような顔で後ずさる。

 

「ま、まてまて誤解だ。コイツはまだ入ったばかりの新人で荒事には慣れてねーんだ。勘弁してやってくれ、頼む」

 

「ふ~ん、まぁいい。質問を続けるぞ?」


「あぁ」

 

――西のギャング団は総勢28名で、村のはずれにある酒場を拠点にしている。

 ギャング団に名前はない。理由はリーダーの方針だと言う。

 リーダー曰く、名は体を表す。

『チンピラの集まりに名前など付けてしまえば、一生そこから抜け出せなくなるぞ?』だそうだ。

 彼らの主な収入源は物資の横流しであり、その裏には教会騎士の姿があった。

 そして意外なことに東のギャング団の後ろにも同じ教会騎士の姿があるようだ。

 

「――どうして騎士団が東の連中にまで物資を流してるのかは分からねぇが、恐らくは間違いねぇはずだ」

 

「いいさ、それに関しては大方予想が付くからな」

 

「えっ? 何でか分かるのか?」

 

「はぁ~。だからお前はチンピラなんだよ。いいか? 一つの組織に必要以上に力を付けさせたら制御仕切れなくなるだろうが。

 だから騎士団の連中は、東のギャング達にも物資を流し一つの組織が大きくなり過ぎないようにするわけだ。

 しかもお前等と来たら東と西で互いに食い合って力を削ぎ合ってるときた。

 騎士団とすりゃ笑いが止まらないだろうよ」

 

 告げるや否や見る見ると男の顔は真っ赤になり額には血管が浮き出てくる。

 

「くそがっ! なめくさりやがってぇぇぇぇぇ!」

   

 拳を握り怒声を飛ばす男をニヤリと見るとノエルは口を開く。 

 

「おいっ、チンピラ」

 

 興奮した男は大声を張り上げる。


「なんだっ?」

 

「まぁ、落ち着けよ。そこでお前等に一つ提案がある」

 

 怪訝な顔で男は答えた。


「あぁん?」

 

 人差し指を立て、ニヤリと笑ったノエルは誰も予想だにしなかった提案を口にする。

 

 

 

 

 

――俺を用心棒として雇わないか?――

 

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