9話:店主は頭を抱え、少年はほくそ笑む

 この世界にはいったい何人の転生者がいるのだろうか?

 モーリスが見たと言う帝国の戦車を作ったのは、間違いなく転生者だしラーメンもおそらくそうだろう。

 迂闊だった、転生したのが自分だけなんて勘違いも甚だしい。

 どこかで、自分は特別な存在だとでも思っていたのだろうか? 

 いや、思っていたのだろう。

 考えを改めよう、俺ごときが特別なんて有ろうはずがない。

 

「前世じゃ散々な目に遭ったってのに、こりねーな俺も」

 

 しかしこの世界での転生者の立ち位置が気になる。

 戦車なんて物を生み出すぐらいだ、国に拘束され管理下に置かれるなんて事も十分に考えられる。

 

 そう言う意味ではノエルの判断は正しかったのだ、無口で無愛想な少年の演技は身の安全に繋がったのだから。

 ノエルはライトノベルを読むのが好きなのであって主人公のような波瀾万丈の人生を望んでいるわけではない。

 むしろ生涯村人Aで十分だとすら思っている。

 ただし、好むと好まざるは関係なくこの世界ではある日、突然に命の危機が迫ってくる何て事もあり得るのではないかと思っている。

 過剰なまでの自己鍛錬は、そのある日突然への備えなのだ。

 

(しかし現状ほかの転生者については調べようがないんだよな。

 下手につついて藪蛇ってのは勘弁だしな……。

 それより今考えるべきはダズのことだ。

 この世界のギャングが俺の知っているギャングと呼ばれる連中と同じだとしたら面倒な事この上ない。

 あの手の連中はプライドだけは一流だからな、対面を保つためだけに襲ってくるなんてことも考えられる)

 

「あー面倒だ、いっそ殺すか? いや、それこそ藪蛇か……」

 

 腕を組み「うーん」と頭を捻りながら歩いているとカンカンカンカンと言う金属音が聞こえてきた。

 見上げると剣と盾をあしらった看板に武具屋の文字が見える。

 ノエルは考えが纏まらず看板を眺めながら頭を捻っていたが、やがて「よしっ」と呟き店の戸を開いた。

 

 店内は思いのほか広くきれいに整頓され、種類別に展示スペースが置かれており、その奥からは先程店外まで聞こえていた金属音が一際大きく鳴り響いていた。

 

(なるほどね、ここで鍛冶もやってるのか。見学とかさせてくれないかな?)

 

 ぐるりと店内を見渡し武具を眺めながらノエルは考えた。

 果たして自分にはこれらの武具を扱えるのかと。

 

「テンプレでいくと片手剣かバスターソード辺りか?」

 

 そう思い展示スペースに並んだ剣を眺める。

 

「だめだな、片手剣ですら大きいぐらいだ。となるとダガーかナイフかな?

 あぁ、ダガーは持ち手が太すぎる、この手じゃ扱いきれないな。

 ナイフは……うん、握れるな、でもこの短い腕じゃ届く気がしないな……)

 

 更に店内を見渡し長物のスペースを見つけるが、どれもこれも大きすぎて論外だろうと諦めた。

 ふと見ると、ハルバードが並んでいる横にこじんまりと投擲武器や弓が置いてあるのを見つける。

 

(弓か、良いかもしてないな。弓なら距離を取って戦えるし身体強化を使えば、ショートボウぐらいの大きさなら鉄弓だって引けるはずだ)

 

 様々な弓が並ぶ展示スペースで、一際輝く弓が目に映る。

 その銀色に輝くショートボウのには、簡単な説明書きが置いてあり精霊銀の魔導弓・・・・・・・と書かれていた。

 

(かっけー、精霊銀ってもしかしてミスリルか? 欲しい……、滅茶苦茶ほしいぞぉ!)

 

 銀色に輝く弓のあまりの美しさに思わず見惚れ、手に取ろうと手を伸ばすと、後ろから店員らしき男に声をかけられる。

 

「おい坊主、お前それが何だかわかってるのか?」

 

「んっ」

 

「んっ、じゃねーよ分かってねーだろ?それはな、殺しのための道具だ。

 お前みたいなガキが手にしていい代物じゃない。分かるか? 坊主」

 

「問題ない」

 

「問題だから言ってるんだ。とにかく武器が欲しければもう少し大人になってから出直してくるんだな」

 

 男はノエルの後ろ襟をまるで猫でも持ち上げるように掴むと、店の外へと追い出した。

 ノエルが何とか交渉しようと口を開くと、「シッシッ」と手を振り取り付く島もなく店の扉を閉められてしまう。

 

「だー、マジか。村の武具屋はここ一店舗しかなかったはずだ。

 むぅ、ほかの道具屋を見て回るか? 剣や槍はなくても中古の弓ぐらいなら売ってるかもしれないしな。

 にしても、精霊銀の魔導弓……、格好良かったなー……うぅぅ……」

 

 先程の魔導弓に後ろ髪を引かれ、何度も後ろを振り返りながらもしぶしぶ露天商や道具屋を回っていく。

 

 意外な事に露天や道具屋にも中古ながら剣や槍、大弓やはたまた杖、などと言う物のまで販売していた。

 この世界は今まさに戦国時代なのだ。

 戦場で死んだ敵国の兵士の武器や防具を引っ剥がし、売り払われた物が流れ流れて世界各地を回っているのだろう。

 しかし、ノエルとしてはどれを見ても”気に入らない”のだ。

 あれほど完成された弓を目の当たりにしてしまえば仕方のない事なのかもしれない。

 

「だー、気に入らん! どれもこれも、気に入らん! 何かこうグッっと心を掴んでくるような物は無いものかねー」

 

 とはいえ、露天も道具屋も粗方回りきってしまい途方に暮れていると、細い路地の奥に古ぼけた赤い屋根で、杖とフラスコの絵の間に魔導具店と書かれた看板が目に入った。

 

「魔導具店……だと……。これは、行くしかない! 行くしかないぞぉ、行かないでかぁぁぁ!」


 足早に路地裏に入り魔導店の具店の前についた頃には、もはや武器を探していたことなど頭の隅に追いやってしまっていた。

 興奮も冷めやらぬまま店の扉を勢いよく開くと、丁度正面にあるカウンターに頬杖を付きこちらを眺めている店主らしき男と目があった。

 男は、目が合うや否や鋭く鷹のような目を真ん丸と見開き「ノエ……ル」と呟く。

 

(んっ、なんだ? こんなオッサン知らんぞ? 何処かであったか?

 うーん……、無いな。あ、まさかさっきのギャング連中の関係者か?)

 

 店内にはほかに客はなく、男とノエルは数秒ほど見つめ合っていたが、ハッっとしたように我に返った男は突然キョロキョロと目を泳がせながら顔を隠すように俯いた。

 

(げせぬ……何なんだこの挙動不審なオッサンは……。まさかショタコンか!)

 

 ノエルは2度3度と頭を捻った後、店内を見渡し感嘆の声を上げる。

 そこには杖や明かりの魔導具、コンロやテントなど魔石を使う魔導具のほかに、見た目以上に物が入る魔法の鞄や、ホルマリン漬けの何か《・・》、などなど様々な商品が所狭しと置いてあった。

 武具屋の時とは違い、商品の陳列は一貫性もなく一見乱雑にも見える。

 しかしそれがまたファンタジー世界の魔導具屋、という如何にもな雰囲気を醸し出しているように思えた。 

 

(おおお、凄いな……。一日中でも見てられるな、マジで。

 あれ? あそこにあるのもしかして魔導書か?)

 

 乱雑に並んだ商品の一画に、ガラスケースに入った魔導書らしき本がならんでいる。

 その一画だけは特別に区切ってあるらしく、スッキリと整頓され床には魔法陣が赤く輝いていた。

 

(防犯用の魔法陣かな? 下手に近づかない方が良さそうだな……。

 何かさっきからスゲー背中に視線感じるし。ここは大人しくしておこう)

 

 チラリと後ろを振り返ると、先程の店主らしき男がカウンターから身を乗り出すようにノエルを見つめている。

 又も目があった瞬間、男はキョロキョロと視線を泳がせ顔を伏せた。

 

(マジ何なんだ? あそこまで反応されると流石に気になるな)

 

 ノエルは男をマジマジと眺めると顎に手を当て「う~ん」と3度呟いた後ハッと目を見開き男に背を向ける。

 

(まさか!いや、まてまて、流石に出来すぎでは?

 しかしな~俺は今日まで必要最低限の人としか関わらないようにしてきた。

 ならば可能性は……あるか……)

 

 ノエルは自信の推理を確認するため、作戦を考え始める。

 もしこの推理が正しければ、”この男は使える”

 ここ最近悩んでいた事を一度に解決できるかもしれない。

 ゆっくりと店内を回り魔導具店の雰囲気を味わっていると、黒く艶やかに光るショートボウが目に映る。

 

(おっ、いいなこのショートボウ。なんの素材で出来いるのかさっぱり分からんが……)

 

 ふと手にとって構えてみると、まるであつらえたように手に馴染む。

 一見木製のようにも見えるが手に取ってみると、まるで鋼鉄のように重くて堅い不思議な素材で出来ている。

 不思議な素材、そのファンタジー感がノエルの購買欲をかき立てる。

 

(ちょうど良い、コイツを使って一丁カマを掛けてみるか)

 

 ノエルは先程の黒い不思議なショートボウの他に矢を100本、見た目以上に矢が収納で得きる魔法の矢筒、刃渡り28cm程度の肉厚なナイフと鞘それに砥石を一つと、小さな両手に目一杯抱えてカウンターに向かう。

 

 どう考えても手持ちのお金で買えるような量ではない。

 しかし、ノエルの推理が正しければ、寧ろお釣りが来る筈だ。

 

「んっ」

 

 両手いっぱいに抱えた商品をカウンターへ乗せる。

 いくつか転げ落ちるが拾い上げ商品の山の上にちょこんと乗せて会計を促す。


 男とノエルの間に妙な沈黙が入る。

 やはりこの男は自分を知っている。

 ノエルの中に確信めいた感情が生まれた。

 

 男は一瞬目を細めると商品を丁寧に確認していく。

 かなりの量だ、とても銀貨17枚程度で買えるような代物ではないだろう。 


「金貨5枚と銀貨6枚になります」

 

 ノエルは「んっ」と左手を差しだす。

 するとそれを見た男が途端に鋭いまなざしへ変わっていく。

 

「お客様ソイツは一体何の冗談です?」

 

 男の声は剣呑な空気を醸し出していた。

 それもそのはず、ノエルの手の中には銀貨15枚しか置かれていなかったのだ。

 

 またも男とノエルの間には妙な沈黙が続く……。

 そんなピリピリとした空気の中ノエルはボソリと呟いた。

 



「……お父さん」

 

「ななななな、何言ってやがんだこのクソガキ。わわわ、わけが解らねぇよえぇぇぇぇぇ?!」

 

 男は大声をだして立ち上がると2歩3歩と後ずさり、ついにはカウンターの後ろにある商品棚に背中を仰け反らせてガラガラと商品をぶちまけてしまう。

 

「あんた! 何かあったのかい?」

 

 店の奥から女性の声が聞こえてくる。

 男は慌てたように振り替えり「な、なんでもねー、ちょいとつまづいただけだ」と答える。


「そうかい、気を付けな」

 そう女性の声を聞きくと、気を取り直すように「ゴホンッ」と咳払いをし、精一杯剣呑な空気を纏いゆっくりと低い声で言った。

 

「金貨5枚と銀貨6枚になります」

 

 半ば脅すような態度の男に、ノエルはたっぷりと数十秒ほどため、今度は確信を持って口にする。


「パパ……」

 

 ジッと男の目を見つめていたノエルはそっと俯き肩を振るわせている。

 泣いている。男の目にはそう見えていた。しかし……。


(だ、だめだ、堪えろ。素数だ、素数を数えるんだ)


――ノエルは笑いを堪えているだけだった……。

 

 二人が更に数十秒見つめ合っていると、男は突然カウンターに並べられた商品を乱暴に袋に詰め始め、ノエルの左手から銀貨を引ったくり商品を投げるように差し出した。

 ノエルは表情一つ変えることなく「んっ」と頷くと、くるりと男に背を向け店の出口へ歩いていく。

  

 イスに崩れ落ち突っ伏すように頭を抱える男の耳に「又、来る」と言う少年の声が聞こえ、ギョッとして出口を見るがそこにはすでに誰の姿もなかった。

 

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