第28話:大変なことになりました。

「バレテナイとでも思った?本気で?」


狂気の笑みに満ちている彼女は冷たい視線で闇を睨む。

闇から輪郭が現れ、その輪郭は腕、足、そして指へとその線を伸ばしていった。


フードをかぶった若い男女の2ペアがそこに立っていた。

真っ白のフード。

神聖な何かを感じる線が、そのコートには刻まれていた。


顔はよくわからなかった。

ただフード越しでなんとなくで理解できたのは、2人ともとても華奢である。という事だけだった。


「ミレイ様に俊介。それは理解できていたが罪人のお前らは何者だ?」


「貴方、そんななりして話の筋の通し方も知らないの?相手に理解される話し方しないと...死ぬよ?」


「ハイド!」

季子がそう唱えると、狂気の笑みをしていた季子は完全に闇と同化し、完全に消えてしまった。


「流石ですね。」

女の方が冷静にそう言った。


「でもまぁ、足りないな」

男のほうが続けてそう言った。


空中に無数のナイフが浮き、2人組の男女に向かってすごい勢いで飛んでいった。

しかしそのナイフは当たらずに、全て地面に落ちた。


地面に作られていた水溜りが、水のバリアーを作ったのだ。


姿もナイフの軌道も、完全に察知されていないはずだった。

しかし彼等は、そんなチートじみた攻撃を、いとも簡単に防いでしまったのだ。


闇の中から石が飛んだ、殺意も何もこもっていない普通の石。

これも当たることなく。水溜りによって作られたバリアによって防がれてしまった。


視界だけでないことは明らかだった。

視界や聴覚...五感で察知できる範囲をはるかに超えている。

彼らには360度全て理解できているのだろう。

認識阻害を使っているとは言え、五感以外が存在しているのなら、その正体が分からない限り、季子は認識阻害を使えない。


女のほうが腕だけを空に向け、手を握った。その手を開くのと同時に、季子は命の危機を強く実感した。


「ファシズム」


開かれた手に炎の弾が出来上がっており、その火の玉は形を求めて変形を繰り返している。

空に打ち上げられたその不定形の火の玉が、一瞬にして人型に変わった。


メラメラと燃える人型の人魂から、一人の人間が出てきた。

そう。季子だ。


メラメラと燃え、もう動くのは困難かと思えた。

後は死を待つのみ...この状況はその言葉でしか表せなかった。


ハイドで認識阻害を行い、足音すら消したというのに....この2人組は、それさえも理解し、あっという間に一本取ってしまったのだ。


2人組の男女はすっと闇に消えて行った。


残ったのは静寂と、赤く燃える炎だった。

その火はゆっくりと消えた....

強く降り続ける雨に打たれて、シューッと音を立てて消えていった。


後には何も残らず。残ったのは静寂だけだった。


===================================

「ご報告いたします」


「たった今入った情報によりますと。ミレイ・ノルヴァの直属の部下と思われる人間が、罪人との接触を始めました。目的は分かりませんが敵対している様に見えたそうです」


「...そうか、あいつの直属の部下....仕方ない。追加で5人分の【天界離脱許可証】を用意させろ」


「分かりました」


===================================

朝になった。

季子はもう部屋にはいないようだった。

机の上に置き手紙があった


「ちょっと、やばい事になりました( ^_ゝ^)天界人の追っ手を舐めてたせいで、ちょっと痛い目見たんで休んできます(/∀\*)」


うん。うぜぇ。主に顔文字が。

それより気になったのが、この文面だ。

やばい事になった?天界人の追っ手?


言ってる意味が分からない。


外に異変は無く、部屋の中にも特に気になる事は無かった。

俺は俊介にこの事を話そうと思い、置き手紙を持って学校に行った。


学校に行くと、そこに季子の姿は無かった。

教師は熱が出たから休んだ、と言っていた。


俊介もこの手紙の内容に関して苦い顔をしていた。


「お前、これいつの手紙だ?」


「今日だけど」


「...文面の通りだよ。これは流石にマズイ」


言ってることが理解できなかった。

天界....この言葉は以前俊介から聞いたことがあった。

でも、そこの住人が追っ手としてやって来るって事はもう予測していたんじゃないのか?


「ちょっとだけ昔話をしてやろう。俺は1度だけ天界に行ったことがある...まぁ正確に言うなら2回なんだが、今は回数なんてどうでもいい。天界人の上下関係は、天界に属した時点で決まる。それこそ出世なんて無い世界だ。属した時点で上司に当たる人は一生上司。部下に当たる人は一生部下。これが決まりだ。だからこそ神同士は寛大な心で生活する必要があるし、それ故にあのクソみたいな世界で格差社会が起こらないんだ」


「下界では時々神のルールから外れた行動をする人間が現れる。鳥や魚、全ての生物が神のルールから外れる可能性を持っている。だからこそ、神はそのルール破りの生物を存在ごと消滅させようとする訳だが、存在ごと消滅させるってのは神でも難しくてな?ゆっくりと時間をかけて消して行くんだ」


「おい待て、それじゃ俺等は...」


「あぁ、時間旅行の時点で神のルールからすごい勢いで外れている」


「で、ルール破りの生物は皆揃って【罪人ツミビト】と呼ばれる。俺らは充分立派な罪人な訳だが、少なくとも俺は、まだ探索段階だとばっかり思っていた」


「探索段階?」


「過去と未来、そして今を全て監視して、無数に広がる可能性の中から、最も危険な可能性を見つけ出す段階の事だ。時間が経てば可能性は1つに絞られて、それは【事実】に変わって行く訳なんだが、未来の可能性は、それこそ無数にある。だから探索にはそこそこの時間が必要なんだ」


「でも....」


そう言うと同時に、一瞬視界が暗転した。

教室じゃない。学校でもない。

かと言って俺の知っている場所じゃない...。


「どこだ...ここ?」

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