第27話:隠蔽の神
夜になった。
時間が経つのが早かったというのもあったが、今日はあれ以来俊介や季子と話さなかった。
というか話す話題がなかった。
気まずかった訳じゃないが、何とも言い表せない。そんなひと時だった。
普通に家に帰る。これと言って何の問題もないのだが、俺は今一つの重大な問題を抱えていた。
「おう。お前何で俺の部屋に居るの?」
「いちゃ...ダメ...?」
随分色っぽい聞き方をしてきた...が。それ以上に不法侵入の恐怖感の方が強かった。
同じ学校で、同じクラスで、席がとても近い殺人鬼。
肩書きだけでくっそシュールなコイツが俺の部屋にいる理由が俺にはさっぱりわからなかった。
「お前さ、どんだけ不法侵入好きなの?今日の朝もカウントするならこれで2回目だぞ?」
こいつの目的がサッパリ分からない。
ただ一つ引っかかってる事と言えば、コイツが俺の部屋にいるのは大抵【夜が近い時】だ。
しかしまぁ学校から帰ってきて、飲み物取りに冷蔵庫開けて、部屋に戻ったらこれだ。
衝撃を受けることが多い日常を送ってる自負はあるが、これほどまでにポンポン不法侵入される経験は無かった。
「なんとなくじゃ理由としては不十分?」
この色欲を誘うようなわざとらしい言い方はどう考えても遊びだ。
いらだちより先に謎が襲ってくる。理解できない事に辛さがあることに驚きを隠せないが、もう俊介と出会ってからはこの辛さを何度も体験した。
「うん。うぜぇ」
「えー釣れないな~」
まず釣る意味が分からない。これほど頭の切れる奴が何故これ程無意味な事を繰り返すのか。
俺にはどうしても理解できない。
「思ったんだけどさ、あんたって堅いよね」
「そうか?」
「自覚ないのね、もうちょい柔らかくなった方がいいんじゃない?」
柔らかくなぁ...思考が堅いのは自分でも若干自覚している。
話し言葉と考えてる思考が違うのは当然として、思考がここまで堅くなってるのはどう考えても俊介やお前が原因だ。と言ってやりたいが、それで違和感を相手に与えているのなら変えなくちゃいけない。
「随分難しい事言うんだな」
この言葉しか出なかった。
簡単に試行錯誤しているとは言え、簡単に答えが出るはずもない。
そりゃそうだ、性格を変えろと言われてポンポン帰れられる奴がいるわけがない。
「そう?」
「うん」
「ところでなんだが、俊介やミレイ・ノルヴァ、そしてお前も自分の能力使うときに能力名読み上げてるだろ?あれ何?」
ずっと疑問に思っていた。
俺の【記憶を改竄する能力】は別に能力名を読み上げないと発動できないわけじゃない。
でもアイツ等はみんな揃って能力名を読み上げている。
「あ~いや、私もそれ気になってたんだけど、逆に何で貴方は能力名読み上げずに能力が使えるの?」
「え?」
「え」
話が噛み合わなかった。
お互いに理解できなかったみたいだ。
「というか貴方そもそも自分の能力名持ってないでしょ?」
ドンピシャで当てられた。
よくよく考えると俺はこの能力の名前すら持ってない。
「あ、あぁ。そもそも俺にとってこの能力の発動条件はなんとなくで分かってたし、そんな能力名を読み上げる必要なんてどこにも無かったから...」
「ほんとに不思議ね、私は自分の能力をはっきり自覚するのと同時に、【ハイド】って言う能力名がインスピレーションとして働いたのよ、でもそれ以外の呼び方じゃ能力はちっとも発動してくれない。だから私てっきり貴方が自分の能力を隠しているものだとばっかり思ってた」
「いや、何回も説明してんじゃん。【記憶を改竄する能力】だって」
「そうなんだけどさ、使って見せる事は一切していないでしょ?だから隠しているとばっかり」
「いや...別に...」
いきなり理解できないことが大量に飛び込んできた。
まず能力名が発動条件になってる異能力者が存在していること。
これは俺にとっては考えられないことだった。
しかし、俊介や季子、そしてミレイ・ノルヴァも能力名を読み上げていたところを見ると。どうも俺だけらしい。
次に能力名はインスピレーションによって決められていたこと。
これが一番理解できなかった。
俺が普通の異能力者と何か違うことがあったとしても、俺にはちっともインスピレーションが働かなかった。
悔しさを感じる反面、ちょっとした劣等感があったのも事実だ。
なんとなくだが、俊介たちについていけない感覚があったが、その理屈がわかった気がする。
「ところで何で俺の部屋にいるんだ?」
能力の話をしていて、すっぽり抜け落ちていた。
なんと言うか...おかしいことが起こりすぎて常識が麻痺してきている。
考え方をしっかり持たないと冗談抜きの命取りになる。気を付けよう。
「急に話戻してくるね、いちゃダメなの?」
「うん。ダメ。普通に不法侵入」
「普通に不法侵入って何?」
「普通の不法侵入、勝手に入る普通に違法の...もう自分でも何言ってるか分からなくなってきた」
「でしょ?つまりどうでもいいって事よ」
そう言って季子は、満点の笑みを見せてきた。
うん。殴り飛ばしたい。
「まぁ、とりあえず今日は帰る。ごめんね、邪魔して」
そう言うと季子はニカッと笑い、指を鳴らした。
「ハイド」
指を鳴らし、能力を使い、彼女はその場から消えた。
完全な消滅...という訳でない事は知っている。
ただ単に認識阻害を喰らっているだけだ。
「はぁ...早いとこ帰れよ」
俺は部屋に響く声でそう言った。
どうせ認識阻害を使ってドアが空いてないところを見れば帰ってないのはまる分かりだ。
まぁ、もうここまで来ると全てがどうでもよくなる。
しっかり意識を保ってこのとんでも過ぎる日常を過ごしきらないとな...と決意した。
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夜。勝治は完全に寝ている。
それもぐっすり、まるで【周りの音が何もかも聞こえてないか】の様に...。
外、勝治の家の真ん前。
雨がうるさく降り、地面には沢山の水溜りが出来ていた。
雨は止むことを知らず。まるで向上欲でもあるんじゃないかと思うほどに強くなって行く。
「バレテナイとでも思ってた?」
右手にナイフを持った女が暗闇に向かって話している。
そしてその彼女の顔は...【狂気の笑み】に満ちていた。
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