第26話:然るべき脅威
最悪の寝起きだった。
今日一日平和に過ごせるか心配になるような最悪の寝起きだった。
まぁ全てあの季子のせいな訳だが...。
で、今俺は学校にいるのだが....。
「伊藤季子です。よろしくお願いします」
紫髪のショートウルフ。
淡い赤色の瞳。
そしてうちの学校の女子生徒制服。
どう考えても季子だ。
「俊介の前の席空いてたよな、そこに座ってくれ」
教師の指示で殺人鬼が動かされる...正直シュールな光景だ。
随分都合よく席が空いてたものだ。
まぁ席が固まると話せる時間が増えるから楽でいい事に変わりはないのだが。
「俊介の時も疑問に思ったんだが、お前らどうやって入学したんだよ」
「俺は普通に...ね?」
「ね?じゃねぇよ。どうやって入ったんだよ」
「どうせミレイさん辺りにお願いしたんでしょ」
「お前みたいな勘のいい殺人鬼は嫌いだよ」
ミレイ・ノルヴァをどう使ったら編入出来るんだほんと....。
「で?お前は?」
「正式な手順を踏んだだけよ、理由は県外からの転校。編入試験に関しても国語と数学と英語だけだったから余裕だった」
あ~そうい言うことか。そりゃこいつだったら編入試験で驚異的な点数を取るぐらい余裕だろ。
余裕の入学。羨ましいなほんと。
こいつの頭の良さは知っているが、その頭のせいで苦労する事ってないのだろうか?
まぁとりあえずどちらも普通に編入してきてるようだ。
それこそ何の苦労もなしに。
そりゃであってすぐに俺の学校に入って来れるわけだ。
まぁミレイ・ノルヴァが入ってこないのは歳的な問題なのだろうが...。
「なぁ、ところでお前らっていくつよ?」
「16」
これで確信した。俺等が時間旅行したのはちょうど7年前。という事はちょうどこいつが9歳の頃だ。
相手を見て年齢をドンピシャで当てた自分の幸運度にちょっと喜びを感じたが、ちょっとするとそれもなんだか虚しくなった。
「う~ん年齢ないんだよなぁ....強いて言うなら23?」
俊介の突然のカミングアウトにちょっと驚いた。
年齢がないってそれは人間的な意味でということだろうか?
「は?年齢がないってどういうことだよ」
思わず突っ込んでしまった。
「いや、文字通りの意味だよ。天界行くとゴロゴロ居るぞ、不老不死の奴」
不老不死...普通の常識じゃまず考えられないが、コイツに常識が通じないことぐらいは流石に学習済みだ。
「じゃぁもう俊介には寿命が無いってこと?」
季子が聞き返した。
「そういう事」
希子の聞き返しに対して普通に答えたが、もう常識外れとかいうレベルじゃない。
「体が破損したら【ウッドソード】で治せばいいし、残りの寿命自体のパラメーターも【ロストブランク】で0にしてる。そういうことだ」
いや、そういう事だって言われても困るんだが...。
「それって外部から木っ端微塵に壊されたらどうなるの?寿命が来てないのに死ぬ事にならない?」
「ならないさ、ミレイに似た手法を取ればいい。誰かの肉体を一時的に借りて、【ウッドソード】で別の自分の肉体を作るだろ?後はその肉体に入れば完全復活、正直ミレイより効率いい復活方法だと思うけどな」
ここに来て希子の顔には困惑が浮かんでいた。
流石のコイツも【神の常識】の狂気度には困惑を隠せないようだ。
というか理解しきれないようだ。
安心しろ。俺はとっくにチンプンカンプンだから。
「ミレイ・ノルヴァより効率がいいって、ミレイ・ノルヴァはどうやって復活してるんだ?」
普通に疑問に思った。前からミレイ・ノルヴァの一部と言うのが理解できなかった。
「ミレイの本体はただの【概念】なんだよ。特に従者を持つ複雑な神は肉体を持っても大抵の物質はそれに耐えられないから、【概念】という曖昧な存在になってるんだ。だからこそ殺すことは絶対に出来ない。でもね、その一部だけなら肉体に埋め込む事が出来るんだよ。昔俺が倒したミレイはちょうど【運命を司る】部分のみだったけどな、そいで今が【時を司る】状態で....」
そこまで言って俊介は急に頭を抱えた。
目が泳いでいる、左右に高速で泳いでいる。
動揺とはまた違う、恐怖を感じているような【怯えた】泳ぎ方をしている。
「大丈夫?」
俺が言いたかった事を季子が先に言ってしまった。
俊介が深呼吸して、深く溜め息を付いた。
「あ、あぁ、すまん。地雷踏んだ。トラウマって何時フラッシュバックするかわからんな」
俊介はそう言うと、ハハハと乾いた笑いで笑い飛ばした。
「で、そのトラウマって?」
おいぃ!季子てめぇ、お前は鬼か!と内心叫んだ。
トラウマ踏んで苦しんでる人間に対して無慈悲すぎる言葉を浴びせた季子の思考回路に恐怖じみたものを感じたが、もう俺以外のみんなが異次元過ぎて俺がおかしいんじゃないかと思えてきた。
「えーそれ聞いちゃう?言わないとダメ?」
「ダメ」
うん。違うわ、コイツやっぱり鬼だ。
「う~ん。まぁざっくり言うなら俺にとって最も恐怖を感じる存在かな。本来俺は神の資格なんて取るつもりは無かったんだよ。でもそいつのせいで取るはめになったし、更に言えばそいつを作り出したのは俺なんだよ。まぁ原因が【俺】って言ったほうが正しいかな。で、その原因なんだけど。【俺が産まれた事】って言うな。もうとことん理不尽な存在だったよ。まぁ色々あったけど最終的には今の形に落ち着いたわけだし、まぁ結果的に言うならいい経験になったかな」
うん。やっぱりサッパリ分からない。まず俊介が【神の資格】を取るつもりが無かったと言った時点で理解できなかった。
神の資格の取得条件は神殺しの殺神試練なのに、そんな大事をやりたくなかったがやった。なんて明らかにおかしいだろ。
そんな半端な気持ちで取れるものなのか?
「もしかしてそれって...」
季子が何かを悟ったらしく、何かにものすごく驚いている。
俺にとってはチンプンカンプンな内容だったが、季子にとっては相当のビックショックだったらしい。
俊介が俯いた、そして狂気じみた笑みを俺や季子に見せ、こう言った。
「あぁ、俺だ」
...ん?今なんて?
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「貴方..それって...」
「あぁ、【天界離脱許可証】だ。入手自体は簡単だったよ」
男の顔は影になっていてよく見えない。フードが作り出す影は不思議と口だけを照らし、それ以外を闇で包んでいる。
そしてその口がニヤリとしている。
俊介や季子のような人間とはまた違う、そんな笑み。
「ミレイ様は今下界の地球にいる。でも旧肉体はバーミアに放置なされたままだ。俺達はバーミアでご復活なさるものとミスディレクションを喰らっていたが、実際はそうじゃないみたいだ」
「えぇ、そうみたいね」
女の方もそうだ。フードが作り出す影が闇となり、口以外を優しく包んでいる。
「でも貴方正気?下界に降りるって事は相当怪しまれるって事よ?ましてや罪人探しなんて本職の神に殺されてもいいの?」
「あぁ、それぐらいの覚悟は出来てる。それにもし罪人がミレイ様ならそれは俺等にとってすごく頼もしい事じゃないか」
「まぁ貴方がそこまで言うなら信じるわ、ただどうせ下界に行くなら【あいつ】も連れて行くべきよ」
「そう言うと思って【アイツ等】にもすでに声をかけてある」
1組のフードをかぶった男女がそんな掛け合いをしているのと同時に、【彼等】にとても危険な【脅威】が迫っている事に、まだ誰も気づいてすらいなかった。
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