第4章:女神の部下

第23話:殺人鬼なマジシャン。

現代に戻ったようだ。外は暗くなっていて、過去に戻る前の場所に戻っている。


「おかえりなさい」


!!?


【立っていた。】この時の俺の思考じゃこの言葉しか出てこなかった。


それぐらい衝撃が強かった。


紫髪のショートウルフ。

赤のロングスカートと黒いブラウスを着ている。

まるで赤と黒のグラデーションのようなファッションをしている10代ぐらいの女子がそこに立っていた。


そう。あの殺人鬼が、9歳じゃない彼女が。


今。俺等の目の前に立っているのだ。

衝撃とか言ったレベルじゃなかった。

俺を刺したあいつだった。俺をメッタ刺しにしたあいつだった。

9歳ぐらいの頃の面影をしっかり残したあいつだった。


「あぁ、ただいま」


俊介が何事もなかったかのように普通に返事をした。

この状況が理解できない。

過去が変わったから未来も改変された?

そんな簡単な話じゃないはずだ。


「貴方。今まで何人殺したの?」


次に口を開いたのはミレイ・ノルヴァだった。

何の繋がりもない、まるで何かを確認するかのような断片的な会話。

もはや俺はこれを会話として認識できなかった。


「23人。貴方達に出会ったあの日から今日まで一切過去は変わってない」


殺人鬼の彼女の目は生き生きとしていた。

その目に俺はどこか、俊介と出会った時の俺に似たようなものを感じた。


「誰かに意図的に変えられたんじゃなくて、貴方達に出会った。という事以外変わってないの。これって貴方達が作ったルール見たいなものじゃないの?」


やはり会話が断片的だ。

俺はなんとかして俊介達の会話を理解しようと必死だった。


「なるほどね、だってよミレイさん。あんたの部下そこそこ有能じゃん」


ミレイ・ノルヴァは一つ大きなため息をついてニコリと笑った。


「そうね、よくやってると思う。でもそれって裏を返せば私の後継者がいるって事よね、私。後継者なんて作った覚え無いんだけど?」


俊介の顔に困惑が浮かんだ。彼は全部を知っているわけではないのだろうか?

そこまで考えて俺はある一つの事に気づいた。


彼女が俊介達と断片的な会話をしている理由だ。


断片的な会話をわざとしているんじゃなくて、そっちの方が効率的なのだ。

回りくどい喋り方をせずに、ただ必要な情報のみのトレードを行っているだけだったのだ。

なんで俺が理解できないのかとも思ったが、簡単な理由だった。


彼女は【神の常識】を理解していて、俺は理解していない。それだけの話じゃないか。


なんだか悔しい気持ちにもなったが、それ以上に彼女のあの驚異的な頭脳に疑問を抱いた。

彼女は本当に何者なのだろうか?

彼女は俗に言う【賢者】なのだろう。


俺が分かっている事と言えば彼女の御家族が2人のピエロの仮面をつけた男達に殺された。という事だけだった。


「そうそう、結局君の能力が分からなかったんだけど、君の能力って何?」


俊介が質問を飛ばした。


「私の能力?【ハイド】の事?確かあの時にもそんな話しなかったっけ?」


「いや、あの時は君が異能力を持っているって事しか確認できなかったからさ、で。その【ハイド】ってどんな能力なんだい?」


俊介達にしては珍しく建設的な話をしている。

俊介の思考ペースが落ちたのが原因だろうか?


「私の能力は【ハイド】ただの隠蔽能力よ」


「隠蔽能力?」


思わず声が出た。俊介達の会話だから割り込みたくは無かったのだが、思わず割り込んでしまった。


「えぇ、ただの隠蔽能力。感覚をジャミングする能力って言ったらわかりやすい?」


うん。サッパリ分からない。


「ごめん...さっぱり」


彼女の顔に困惑が浮かんだ。始めて彼女の困惑する表情を見たかもしれない。


「んーーーっとね。例えばそこにある小石を誰にも見られたくない!って思ったとするじゃん?」


そう言って彼女は地面に落ちていた小石に指を刺した。


「ちょっと思いっきり上に投げてみて」


俺は地面に落ちていた小石を拾い、空に投げた。


「ハイド!」


彼女がそう唱えたかと思うと、投げた石は完全に夜の闇に消えて後には静寂だけが残った。

地面に石の落ちるコトッという音もならずに、後には静寂だけが残った。


「これが君の能力?」


「うん、そうだよ」


そう言って彼女は何かを拾うような仕草をした。

仕草だけで完全に拾ったものは空気な訳だが...。


そう言って彼女は両手を被せて俺に手の甲を見せてきた。


「はい、いち、にの...さん!」


彼女が手を広げるとそこにはさっき投げたはずの小石があった。


「私ね、この異能力使ってマジシャン出来る気がするのよ、でも一発屋になるのは目に見えてるからやらないんだけどね」


そう言って彼女はニカッと笑った。

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