第22話:異次元すぎる奴ら。
狂気じみた戦闘。
殺人鬼のイメージ世界で、俊介と季子は恐ろしいを通り越して気持ち悪い戦闘をしている。
圧倒的な力と圧倒的な知力。
神の世界に身を置く俊介の戦闘は冷静で、それの対の様に戦っているのが季子。
殺人鬼は神に近い人間を相手にしても尚、全くといいていいほど態度を変えない。
もしかしてだが、もう既に無意識殺人が始まってるのではないだろうか?
「なぁ、別にしゃべれない訳じゃないだろ?俺とトークしようぜ?」
俊介が完全にナンパのノリで殺人鬼に話しかけた。
命懸けのナンパなんて聞いたことねぇ....。
「...」
一方殺人鬼である季子は終始無言を貫いている。
今更気づいたのだが、彼女(殺人鬼)のイメージ世界に入ったのは、過去と現在の俊介と、今のミレイ・ノルヴァ。そして俺の計4人だけみたいだ。
過去の勝治と、ミレイ・ノルヴァは外に置いてきぼり。
となると俺をこのイメージ世界に連れてきたのは意図的という事になるわけだが...。
ミレイ・ノルヴァに自重しろと散々言われてきたんだ。下手な行動はせず、じっくり見学させてもらおう。
9歳ほどの少女が、あっという間に殺人鬼になる。
それもベテランの通り魔に。
しかし未だに理解できないのが、彼女のターゲットが揃って男子高校生だった。という事だ。
彼女の家族を殺したのが仮にあのピエロの大男2人組だとしたら、話に筋が通らなくなるのだ。
彼女の動機が見つからなくなる。
何のために男子高校生に絞って殺していたんだ?
なんで俺をメッタ刺しにしたんだ?
そう考えた時、俺の脳裏に稲妻が落ちる感覚があった。
ヒラメキだ。
もしかしてだが、彼女は【模倣犯】だったのではないだろうか?
これはあくまで推測の域を出ないが、根拠のようなものは皮肉にも充分揃っている。
まず俺を刺した時のあの素人感。
殺人に玄人があっても困るが、完全に致命傷を負わせる気のない、【加減が入った】殺人。
トリガーとなってるはずの【動機】がさっぱり分からない事。
記憶が読めず。無意識で殺人を行っているのに、しっかりターゲットが定まっていること。
まだこれは仮定の域を出ない...しかし。
もしかしたら、彼女を操る【能力使い】がいるのでは無いだろうか。
彼女に何らかしらの能力があると俊介達は踏んでいたが、彼女に能力があったからあの焦げ臭い違和感があったのでは無く、彼女に掛けられた能力によるものなんじゃないだろうか?
まだまだ推測の域を出ない。
でも現状証拠を並べると、どうしてもこの結果にたどり着く。
==============
過去の俊介...だと思う方が指を鳴らして消えた。
恐らくイメージ世界から離脱したのだろう。
何故このタイミングで外に出たのか分からなかった。
しかし、これでこのイメージ世界に残されたのは俺とミレイ・ノルヴァと俊介の3人。
最初に戻った。
ナイフが弾幕のように飛び交う。
無数のナイフが俊介めがけて一斉に飛んできて、それを回避すべく俊介は右手を振った。
ナイフは全て地面に落ち、俊介は次の攻撃に備えた。
「ウッドソード」
俊介がそう唱えると、地面に落ちた無数のナイフは一つの塊になり。小型の拳銃のようなものに変形した。
俊介が拳銃を装備したのを見て、殺人鬼の方も右手に拳銃のようなものを出現させた。
イメージ世界とは言え、俊介が好きに物を出せるのではなく。
季子がイメージし出した物を変形させて自由に動かすことしかできない様だった。
すごいスピードと迫力だ。
俊介がどう考えても命中するような弾を打っても全て回避された。
さすがはイメージ世界。何でもありだ。
季子は自分に弾が当たる瞬間。つまり俊介が引き金を引いた時点で、自分以外の時間をゆっくり進ませて、絶対当たらない位置に移動している。
本当に何でもありだ。
俊介の顔に焦りが全く見えないのだが、これは余裕があるからなのか、ポーカーフェイスで相手に余裕を与えないためなのか、全くと言っていい程見当がつかない。
それより恐ろしく感じているのが、あの季子だ。ここが自分のイメージ世界だということを理解しただけで無く。どんな事が出来るかまで、戦いながら学習している。その様はまるでディープラーニングみたいだった。
人外過ぎる学習能力を見て、俺の中にあった心配がコップから溢れそうになった。
いくら神に近い人間といえど。圧倒的に知的で、恐ろしい罠でも張られたら終わりだ。
俊介が拳銃を上に投げた。意味がないと判断したのだろうか?
「ウッドソード」
俊介がそう唱えると、その拳銃のようなものは鎌へと変形した。
その鎌のようなものを装備した俊介は、その釜で殺人鬼に斬りかかった。
しかし彼女は指でその釜を止めた。
ありえない、いくらイメージ世界だといえ、こんなことはありえない。
現実離れした力すぎる。
俊介が笑みを浮かべた、殺人鬼がため息を付いた。
「はぁ...一つ聞いても?」
殺人鬼がいきなり口を開いた。
何が起こったか理解できなかった。
「あぁ、なんでもどうぞ」
俊介がニヤニヤしている。
なんだか嬉しそうだ。
「なんで私を選んだの?」
「簡単。君、自分が異能力持ってることに気づいてる?」
何もなかったように会話を続けているが、その光景は異常だ。
俊介が釜で襲い掛かり、それを季子が指で押さえている、そしてその状態で時間が止まったかのように固定されている。
季子は俊介を見上げながら、俊介は嬉しそうな笑顔で。
この奇怪な会話に違和感を感じてはいるが、季子でさえあんなに冷静なんだ。俺だって。
「能力...異能力なら気づいては居るけど、私以外ににも何人もいるでしょうに」
9歳程の少女が指で鎌の先を抑えながら上を見上げてしゃべっている。
俺は何故かこの光景に【かっこよさ】を感じた。
「いや、君だからいいんだよ。日本人で能力使い。そっちのほうが彼の為にもなるしね」
「彼?」
そう言って彼女はこっちを見た。
完全に驚いた表情をしていた。
気づいてなかったのだろうか?
「貴方、いつからそこにいたの?」
9歳の少女とは思えないようなリアクションだ。
釜を指で押さえたまま、首だけこっちを向いて話しかけてきた。
いい加減釜下ろせよ...と思ったが。
本当に何者なのだろうか?
「ず、ずっと前から、強いて言うなら君がこのイメージ世界に来てからずっとかな」
正直内心くっそビビってる。
でもビビってばっかりじゃいけない。
俺は頑張ってなんとか笑顔で、冷静を装って彼女の質問に答えた。
「驚いた。全くと言っていいほど気付かなかった」
いや、そりゃあんな激闘してたら俺みたいに何もしない見学者なんて...
あれ?今さらっと煽られた?
「あ、そうだ。聞くの忘れた。貴方達は何者なの?異能力者で、仲間を集めてるって所まではわかってるんだけど。何?何かと戦ってんの?」
「君にとって神ってなんだい?」
俊介は、どう考えても噛み合わない、急な話を持ち込んできた。
しかし、その発言に対して、彼女は鼻で笑い飛ばし、こう返した。
「何?貴方達は神か神に近い人間だって?」
「ご名答。」
何故会話が成り立っているのか、俺にはちっとも理解できなかった。
すごく断片的な会話をしている。
「そう。で、私はどうすれば良い訳?貴方達についていけばいいの?」
「話が早くて助かるよ。そうだね、7年後に君にまた声を掛けるよ。」
ここに来てやっと彼女は困惑した顔を見せた。さすがの彼女もここまでは予想してなかったのだろう。
ちょっと内心ホッとしたのは...自分の心の中にしまっておこう。
「じゃ、そういう訳だから。また7年後」
そう言った瞬間。俊介は指を鳴らしイメージ世界を終了させた。
気づくと外にいた。過去の俺等もそこにはいなく。殺人鬼も居なかった。
「じゃ、帰りましょうか」
ミレイ・ノルヴァが指を鳴らすと地面から無数の数字が浮かび上がってきた。
元の時間に帰るのだ。
「なぁ勝治。どうだった?人のイメージ世界に入った気分は」
俊介が俺に聞いてきた。もう俺以外のレベルが異次元過ぎてなにも言えない。
「なんかドッと疲れたよ」
それだけ言って俺は深くため息を付いた。
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