第21話:理解。

殺人鬼を仲間にする。

これだけ聞けばとても恐ろしく、危なく。なにより狂気じみてると感じるが、俺にとっては違う。

俺にとって、あの殺人鬼はやっと見つけたほぼ同レベルの仲間だ。


ミレイ・ノルヴァに俊介。

この二人は圧倒的に上の位にいる。それこそ俺の手の届かないところに。

肩身が狭かったワケじゃない。でも、それでも。この2人の間にいると圧迫されそうになるようなそれがあった。


それが仲間が増えることで解決されると考えると、この上なく嬉しかった。


「まぁ、そんな事より、先に仕事よ、ちょうどいい機会だからよく見ておいて」

見るだけで本当にいいのか?とも思ったが、仲間が入ってくるならばそれこそ今以上に【神の常識】や、戦い方。精神状態の保ち方とかも全部勉強しなければいけない。


そんな呑気なことを考えてる間にも、俊介達は仕事を終わらせようとしていた。

彼等がやろうとしている事はなんとなくとではあるが分かっている。

彼女の能力を調べることと、性格の改竄だ。


彼女の狂気じみたあの【無意識殺人】は、どう考えても過去のトラウマから来る物だ。

そのトラウマを改変してはならない、なぜならそれが彼女の人生を決めていて、それを歪めると、既に決まっている【真実】を捻じ曲げることになるのだから。


しかしそれはトラウマに対する防衛反応だ。

つまり、彼らが考えているのはおそらくではあるがこうだ。


・一度トラウマを植え付け、時間のルールを守った上で彼女の性格を変え、新しい時間軸を作る。

・性格を変えることで仲間にし、追っ手に対する言い訳を作る。


まぁこんな所だろう。頭の中の整理がついた。

何故だろう、いつの間にか整理する力が付いた気がする。


全てが頭の中で整理されゆく。今までの事、今起こっている事。これから起ころうとしている事。

人間の頭はスライムのように柔らかく、ありとあらゆる状況に柔軟に対応できる事を知った。


今まで整理つかなかったことがあっという間に解決していく。

ここまで来るともはや快感だ。


俊介が神の資格を持ってるのに神にならない理由。

ミレイ・ノルヴァが元女神でありながら、時間旅行にさっぱり慣れてない理由。

そして、彼等が俺を選んだ理由。


解決しなくちゃいけない問題と、それのなんとなくの解決策。その全てが整理される。

殺人鬼のイメージ世界の、この現実離れした狂気じみた世界で。俺の脳が変形してゆくような感覚をピリピリと感じる。


そして、ここまできて、やっと理解できた。

俺の目指している神は、軽々と世界を変えられるレベル。つまり俊介やミレイ・ノルヴァを圧倒的に超越する必要があるということだ。


「おい、もう喋れるか?」


俊介が殺人鬼に声をかけた。

殺人鬼はその身の回りにナイフを浮かせている。早くもイメージ世界で出来る事を理解したようだ。

驚異的な学習能力。俺が仲間に引き込もうとしている奴は、もしかしたらとんでもなく賢い人間なのかもしれないと思った。


彼女の浮かせているナイフが飛び交う。

俊介は全てを回避し、ナイフを逆向きにした。

殺人鬼は飛んでくるナイフを全て素手で掴んだ。

手から血がたれている。

痛みはないのだろうか?怯む様子が見えない。

狂気じみた戦い方をしているが、俊介の顔には何の恐怖も浮かんでいない。

恐らく戦闘において、こんな経験を幾度となくこなして来たのだろう。


だってアイツ等は神にかなり近い存在なのだから。

狂気じみた戦闘。

整理がつき、やっと全てを飲み込めたが。

次から次へと、新しい課題や試練が生まれるものだ。

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