第18話:能力使いの殺人鬼

なぁ勝治、お前の出来る罪滅ぼし教えてやろうか?」


俊介は上機嫌でそう言った。


深く下げていた頭をゆっくり上げて、俊介の顔を見つめた。

表情に驚きが入ってるのは気づいていた。

それ以上に俊介やミレイ・ノルヴァの落ち着いた表情が俺の心を落ち着けさせる。


「僕等にひたすら付いてくる事だ」


この一言を聞いた瞬間、体の底から喜びが這い上がって来る。さっきまでは気持ちが逆流してゲロりそうになっていたが、今は違う。

温かい何かが体中を駆け巡る感覚。


これが【喜び】なのだろう。


「いいのか?俺は付いていったらいつまた迷惑かけるか分からんぞ?それこそ今回みたいに重大なヘマこいたらどうしたらいいのか俺には分からない」


そう言うとミレイ・ノルヴァは鼻で笑い飛ばし、笑顔でこう言った。

「貴方にとっての重大なヘマは、私達にとっちゃ全然重大じゃないの」


本当に冷たいが、今はこの冷たさが逆に俺に安心を与えてくれる。

流石は元女神と言った所だろうか。


「まぁ、そんな所だ、僕は神の資格を持つ者を増やしたいと思っている。ミレイは復活のために頑張っている。お前は神の資格を手に入れるために奮闘している。目的は違えど目的地はみんな同じってこった、よろしくな勝治」


そう言って俊介は手を差し伸べた、ビジネスマンのような手つきだったが、この時の俺にはとても頼もしく、かっこよく写った。


「あぁ、よろしく」


そう言って俺は俊介が差し伸べた手をギュッと握り締め、俊介の肌身の温かさが握られた手越に伝わって来る。


あの重かった空気はどこにもなくなった。

短時間でこんなにもコロコロ空気が変わるのも、神の世界では常識なのだろうか?


最も、俺はこれから神の常識に触れる事になるのだが、近くに神に最も近いと言っても過言ではない人間が2人も付いていてくれるのは、この上なく頼もしい事だ。


「あ、やべ。忘れてた」


そう言って俊介は指を鳴らした。

倒れていた殺人鬼の少女が立ち上がり、ふらふらと俊介の方に近づいてきた。


「まぁ待てや季子さんよ、お前さん人を殺す事に恐怖は感じないのか?人間なら当たり前の様に感じる感情だが、お前さんはなんだ?快楽殺人か?」


俊介の質問に答えるつもりもなさそうだったが、ただひたすらにふらふらと俊介に近付いてい行く。


「なんで...私の...名前」


それだけ言って殺人鬼の少女は倒れた、能力を使ってる葉数はなかったので、疲労かなにかだと思った。


この時はそう思った。


「さ、このまま放置して帰りましょうか」

ミレイ・ノルヴァから発せられた無慈悲過ぎる言葉に驚きを隠せないといえば嘘になるのだが、冷静に考えれば相手は殺人鬼だ。別になんの問題も無いように感じられた。


しかし、何故かこの場から離れては行けないという勘が働いたのだが、まぁ所詮は勘だ、まぁ気のせいだろう。


しかしこの焦げ臭さにみんな気づいてないのだろうか?

そんな事も考えていたが、とりあえず次の目的地があるらしく、俺はただ約束通りにただついて行った。


これが俺の罪滅ぼしだから。これが俺の近道だから。


目的地までの移動中で俺はこんなことを聞かれた。


「ところで勝治、さっきの殺人鬼の娘に違和感を感じなかった?」

ミレイ・ノルヴァがそう言うと俊介がそれに続けた。


「そうそう、あれほど露骨な違和感は無いって程に分かりやすかったが理解できてた?」


いや、理解してたか?と言われても...まぁ違和感と勘は違うだろうが、違和感を本能的にキャッチして、それに対し、勘が反射的に反応したのかと考えれば、なんとか説明が付く。


「あの焦げ臭い匂いの事?」


なんとなくではあるが、思い当たる事を言った。

みんな気付いていないのかと思っていたが、実際は気づいていたのかもしれない。


「う~ん、15点」


厳しい採点を喰らった。


「いやね、まずあの臭いだが、焦げ臭い訳は簡単で、文字通り燃えてるから臭うんだ」


「でも見た感じ燃えてるものなんてなかっただろ?」


「そう、そこが違和感の正体だ。あのレベルで臭ったって事は必ず近くに火元があるとはずだ、でも近くに炎は無かった。じゃぁ何処にあったと思う?」


さっぱり分からない。


「さっぱり分からない」


思った事がそのまま口に出た。


「だろうな、答えは簡単だ。あの殺人鬼の下敷きだよ、あの状態で、あそこまで周りに燃えそうな物が沢山あったのに、火元が何処にもなかったとしたら、もうそれしかありえない」


「でも煙一つ出さないなんてことが可能なのか?」


「不可能だろうな、僕等みたいな人間を除けば」


言ってることが理解できなかった。

僕等?...あぁ、能力者か。


ちょっとのタイムラグがあったが理解は出来た。でも更に謎を呼んだ。


「じゃぁ、あの殺人鬼は能力者で、俺と同じで【神の資格を持つ可能性を持つ】って事か?」


「そうなるな、ただ向こうの能力が分からない以上は下手に干渉することはしないほうがいい、だから別の場所へと移動したんだ」


下手な干渉。この言葉は若干トラウマになっている。地雷を踏まないように気をつけよう。


「まぁ、また合う事になるでしょうね、あの殺人鬼と」


ミレイ・ノルヴァの不穏な発言に、俺はちょっとした恐怖を覚えた。

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