第3章:異次元すぎる奴ら
第15話:罪の現場
普通の常識では測れない世界。【神の常識の世界】そんな何でもありんクソみたいな世界の常識に、俺はなんとなくだが慣れを感じている。
人間が手の届かない人間や物が美しかったり、かっこいいと思う理由はとても簡単だ。
根本的な【手が届かない】というところに答えがある。
その位にいるからこそ、その位で初めて分かる常識がある。
引越しでもそうだ。地方レベルで引越しすれば、前の地方の常識がほとんど通用しなかったり、全く違う相違点を見つけて困惑することだってあるだろう。
だからこそ俺は、この神の常識に慣れなくちゃいけない。
でも現在進行形で俺、困惑してます。
「あぁ、すまん。えーとな...うーん...取り敢えず勝治、お前いまこの状況どこまで理解できてる?」
俊介の軽い反応に、全く。と即答してやりたい気分になったが、そうしたところで進まないだけだという事は流石に学習した。
「えーと取り敢えず場所はそのままで、時間だけ移動したってことぐらいかな」
「それだけ分かってりゃ十分。まぁ行けば分かるってやつだ」
俺は困惑した表情のまま、ミレイ・ノルヴァを見た。もっと詳しい説明が欲しかったのだ。
「あ、私説明苦手だから」
雑にあしらわれた。何故か辛辣な気がする..気のせいだろうか?
と思ったが、次の瞬間その理由を強く痛感した。
目の前に死体が3体、犯人と思われる大柄な男が二人、どちらも仮面をつけていて顔までは分からない。
しかし仮面が仮面だ。覆面ではなく、ピエロのような仮面をしている。
そしてその大柄な2人の男は一人の女の子の首を絞めている。
「止めに行かないのか?目の前で殺人が起こってるんだぞ?」
2人はひどく冷静だ、冷酷すぎる。この殺人現場を見てなにも感じないのだろうか?
「なんでそんなに冷静でいられるんだよ!今目の前で殺人が起きてるんだぞ?あの女の子を助けないと」
テンパる。心拍数がすごい勢いで上がっていく。
ミレイ・ノルヴァが呟くかの様にこう言った。
「Lost blank」
一瞬でさっきまでのテンパりが消えた。こんな経験をついさっきしたばっかりだった。
本当にこの二人は人の精神をいじるのが得意みたいだ。
ふざけんなマジで...次第に人の事を狂わせるような気がしてしょうがないのは俺の思い過ごしだろうか?
「落ち着きなさい勝治。冷静になって考えるの、まずね、私達は彼女が一番恐怖を感じていた、まぁLost blankで俊介が弄りきれなかった殺意の原点の時間に移動したの。そして彼女が、最も恐れいている時間が今。貴方がネガティブックを使った時出た言葉はなんだった?」
「両親についての事か?」
「そう。彼女が最も嫌う事は両親について探られること。そして目の前の殺人現場、両親と兄弟は既に殺されている。生き残ったのは一人の女の子、ここまで言ったらもう分かるかしら?」
すべて理解した、頭に電流が走る気分というのは、恐らくこういうことなのだろう。
彼女が【お前が...】を連呼していた理由もなんとなくで分かった。
「じゃぁ尚更止めにいかないと!あれが殺人鬼だからって見殺しにしていい訳じゃないだろ?」
そう言うとミレイ・ノルヴァは深くため息をついた、俊介の方はイラっとする笑みを浮かべている。
「貴方は亡霊にメッタ刺しにされたの?彼女がここで殺されたとしたら未来で生きているはずないでしょ」
「あ!なるほど」
情けない声が漏れてしまった。でも心の底からなるほどと思ってしまった。
「なるほどね!じゃないわよ...貴方がそこまでバカとは思わなかった」
「いや、なんか冷たくないっすかミレイさん...」
「ミレイさんはやめて。あんまり好きじゃないのよその呼ばれ方」
辛辣だと思ってたのは気のせいでは無いようだ、もしかして気が立っているのだろうか?
俊介のニヤケがさっきからすごく俺を苛立たせている。
「なんでそんなにニヤニヤしてんだよ俊介」
「いやね、彼女が君に【神の常識】のノウハウをどう教えようか奮闘している姿を見てるとなんか微笑ましくてね」
そう言うとミレイ・ノルヴァはちょっと恥ずかしそうに俯いた。
「あのね、俊介。私これでも元女神よ?もうちょい態度わきまえてもいいんじゃない?」
恥ずかしながら怒られても女神の威厳はそこには無かった。
俊介のニヤケの理由が分かったが、やはり腑に落ちない。
「うっ...お前...お前!」
男の苦しみ悶える声が聞こえた。
俊介もミレイ・ノルヴァも声の方をすぐ振り返り、目を丸くしていた。
「私の名前は季子...伊藤季子いとうきこお願いだからさ。もう...許してよ...許してよおおおおおおお」
生き残った女の子が、手に持っていたナイフで男を刺したのだ。
顔には涙が、涙でグシャグシャになるとはこの事なのだ、と理解できる程にグシャグシャになっている。
もう一人の男が飛びかかろうとしている。これは流石に死ぬだろ...
右を向いても俊介がいない、左を向いてもミレイ・ノルヴァもいない。
彼等は殺人現場の方に走って行ったのだ。
彼女は生き残っても、殺人犯が死ぬ所までは予測できなかったらしい。
「Lost Blank!」
「ウッドソード!」
2人の息ぴったりな行動によって、少女は完全に守られた。
俊介のウッドソードで壁が、ミレイのロストブランクで犯人の動きが封じられた。
と...思っていた。
少女の顔が狂気に満ちていた。今まで色々な狂気じみた顔を見てきたが、これほど狂気満ちた顔は初めて見た。
「お父さんも..お母さんも...お兄ちゃんも....全員死んだ、お前の...お前達のせいでぇ!」
彼女の顔は笑っている。俊介の表情に恐怖が写った、ミレイ・ノルヴァも同じだ。
彼女は持っていたナイフをロストブランクによって動かなくなった犯人に突きたて、そのままメッタ刺しにした。
俊介とミレイ・ノルヴァも何故かそれを止めなかった。
でも俺は嫌だった、この環境が、この状態が。全てに恐怖を感じた。
気づいたら俺は走り出していた。ナイフでメッタ刺しにしている彼女に飛びつき、腕を拘束し動きを封じた。
「今なら...」
俺は彼女の記憶を読んだ、1日までならなんとか読めた、でもそれだけでは足りなかった。
彼女の家族を殺した殺人犯は路地を歩いていた、家族を待ち伏せし、飛びかかったようだったが、その経緯を知りたかった。
季子が暴れだす。拘束を強くした。彼女が握っているナイフは俊介が回収した。
「やめておけ、お前時間に干渉しすぎだ。拘束したのはちょっと不味かったな」
俊介の顔は呆れ顔になっている。
ミレイ・ノルヴァもため息をついている。
「不本意だけど仕方ない、【ロストブランク・ウッドソード】」
そう唱えると、彼女の動きは止まった。意識ごとパラメーターを0にしたようだった。
彼女の体はピクリとも動かない。生きた人形みたいにピクリとも。
「勝治、お前の能力でこいつの中にある俺達の記憶全部消しといてくれないか?」
時間の干渉....昔理論雑誌で見た事があった。
神の常識でも時間に干渉することは倫理に反しているのだろうか?
今は言われた通りにするしかなかった、これ以上事態を悪化させる訳には行かなかった。
俺は右手を彼女の眉間に当てて、記憶を改竄した。
急に壁が出てきた事実は彼女の中から消え、犯人が急に倒れた事実も消えた。その時に写った2人の男女も彼女の記憶から消され、急に飛びかかり腕を拘束したのは俺ではなく犯人だった。という風に彼女の記憶は改竄された。
「まぁ、これで少なくとも、警察の調査が入った時に矛盾は起きないはずだよ」
「うーん、どうしたもんか...」
俊介が悩んでるのが見て取れる。俺は本当に何をしたのだろうか?
「とりあえず戻りましょうか」
そう言ってミレイ・ノルヴァは指を鳴らした。
地面から無数の数字が浮かびあり、俺等を包み込んだ。
気が付くと夜になっていた。
真っ暗だ、しかし過去に戻った後と今とで相違点があった、俊介の腹にナイフが刺さっていたのだ。
「あ、ごめんな今僕悩んでるんだわ、今は相手している余裕ないだ、ごめんね」
そう言って俊介は背中からグッさり刺さっているナイフを引き抜きウッドソードで消し去った。
「Lost blank」
ミレイ・ノルヴァがそう唱えると殺人鬼...いやもう季子と呼ぶべきか、季子は倒れた。
この光景を見るのはもうこれで3度目だ。
季子は生きた人形の様にピクリとも動かず、ただその場に倒れていた。
「勝治、時間の干渉は基本的に神の特権なんだ。そんなことを神でもない俺等がやった...」
「わかりやすくイメージしてみてくれ、自分の所有するグループがあったとして、そのグループだけが蛇の飼育を許可されたとしよう、そこで全く許可もなにもない別のグループがやってきて、蛇に得体の知れない餌を与えるんだ、どうだ?不快感しかないだろ?犯人を潰したくなるだろ?」
なんとなくとは言え、彼等の言いたいことが分かった。
「お前がいくら記憶を改竄しても、お前の能力じゃ事実までは改竄できない...」
「俺らはやっちまったんだよ....」
ミレイ・ノルヴァは深くため息をついて勝治を睨み、こう言った。
「追っ手が来る」
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