第14話:時間旅行。
「マジで?」
「マジで」
俊介がフリーズしている。ミレイ・ノルヴァが作り出した【過去と未来の決まり事】からおもいっきり離れているせいだろうか?
しかし本当に殺人鬼の顔に見覚えがないのだ。
会ったことも、おそらく見たことすらない。
しかし、神以外で記憶が改竄できない人間がいるとは思わなかった。
「なぁ勝治、ネガティブック貸してくれないか?」
突然ネガティブックを要求されたので、ちょっと困惑したが、俺はすぐに本を渡した。
「お、おう。はい」
手に直で触れるとネガティブックが作動するので、服で掴んだ。
よく冬場、寒い時に使うあれだ。
「ありがとな.....」
俊介の表情が濃くなる。
困惑しているのだろうか?
どちらにせよこの奇怪な状態は、神の常識を持っている俊介でさえ理解しがたい状態なのだろう。
「困ってるなら、困ったなぐらい言ってくれればよかったのに」
後ろから声と足音が聞こえる。
俺と俊介はすぐに音の鳴る方を向いた。
銀髪の無造作ロブ、淡く濃いピンク色の美しい瞳。
ミレイ・ノルヴァだ。
「お前の手を借りるつもりは無かったんだけどな」
俊介の第一声がそれだった、この二人は仲が悪いのだろうか?
「あらら?割と辛辣なのね、一番簡単な解決方があるのに」
俊介の表情が既にNOと言っている。
眉間に皺がより、より濃い表情になっている。
完全に困惑している表情だ。
「一番簡単な解決法?」
「えぇ、私はこれでも元女神、時間旅行ぐらい簡単に出来るの。どう?やってみない?」
【時間旅行】とつぜん出てきたそのワードに、俺は困惑を覚えた。
やはり神の常識は我々常人にとって理解しがたいものだ。
「やめとけ、お前リスク分かって言ってるのか?」
俊介の口調は、呆れそのもののように感じた。
「大丈夫、ちょっと見るだけよ。記憶も改竄できない、意識も無い。こんな状態で彼女のことを知ろうとしたってまともな収穫はないんだから」
ミレイ・ノルヴァの口調からは、なんだかワクワクしてるような感じがする。
感覚的なもののせいでハッキリとは分からないのだが、遠足に行く小学生みたいな精神テンションだ。
「まぁ、今のお前を止めても意味が無い事ぐらいもう分かってるよ、そりゃ君にとって初めての時間旅行だ。きっかけがあったら行きたくなるのが筋だわな」
俊介の口調が急におかしくなった、これも一種の【呆れからくる精神崩壊】なのだろうか?
「じゃぁ決まりね、早速行きましょうか...じゃ、そこから動かないでね」
そう言うとミレイ・ノルヴァは右手をかざした、もはや誰の話も聞く様子はなかった。
地面から数字が大量に浮かんできた。
大量の数字に俺たちは包まれた。
ミレイ・ノルヴァの表情に子供のような純粋な笑みが浮かんでいる。
彼女がそんな表情をするなんて思ってもいなかった。
こっちに気付いたミレイ・ノルヴァがこっちにほほ笑みかけてきた。
「優れた女神ねぇ...」
俺は小声でては言え、ちょっと本音が漏れてしまった。
「ん?何か言った?」
「何も」
俺等を包んでいた数字は一気に周りに広がった、それこそ爆発でもしたんじゃないか?ってぐらいにすごい勢いで広がった。
普通に驚いた。
さっきまで下校途中で真っ暗だったのに、気づいたら朝になっていた。
場所は変わっていない。
しかし殺人鬼はいない。
俊介やミレイ・ノルヴァは居る。
時間旅行に成功したようだ。生まれて一回もこんな経験をしたことがない。
服もなにも変わらずに、時間だけが変わったようだ。
理屈では説明出来ない。ここまで来ると理論すら立てられない。
一体どんな原理で時間を旅行してるんだ?と聞かれたら、【神の力です】としか言い様がない。
「さ、成功したみたいね」
「一体何時に移動したんだ?」
流石神の常識人....冷静そのものだ。
時間旅行だけでテンパってる自分が恥ずかしくなるほどに、二人は冷静だ。
「彼女が最も恐れてた時間よ」
「どうやって調べたんだ?」
俊介に驚きの表情が上書きされた、この表情の俊介は割と珍しい。
というかそれ以上に、会話についていけない。
取り敢えず時間が移動した。と言う事を理解するだけで相当時間がかかるのに、すごいテンポで話が進むんだ。マジで勘弁してくれ...。
「Lost blank、ありとあらゆる物のパラメーターをゼロにする能力」
「あぁ、なるほどね。流石だな」
待て待て待て、隠語を使うな隠語を。
訳が分からなくなる。
「あの、どういう事っすか....」
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