第13話:無意識殺人。
テンパる。予想外が引き起こす、引き起こされたくない感情。
テンパる。これが起こってしまえばもう思考回路はその効果を成さない。
そして俺は今。
現在進行形でテンパってます。
心臓の鼓動が一発、ドクッと大きく鳴る。
血管破れたんじゃね?と思うぐらいの衝撃が一瞬体を駆け巡った。
!!?
さっきまでのテンパっていた自分が消えている。
冷静そのもの、むしろテンパる前より落ち着いている。
「どうだい勝治、落ちついたかい?」
俊介のその一言で、今。たった今起こった事を理解した。
「ロストブランク。人の精神までコントロールできるのかよ」
「あぁ、昔ミレイが俺に乱用してた技だ。こう見えても昔は若くてな、俺だってすぐテンパった」
俊介の見た目は高校生ぐらいだ、見た目で言うなら相当若いが今いくつなのだろうか?
「お前の能力って、どこまでゼロにできるんだ?」
俺は俊介をもっと知っておかなくてはならない。
理由は簡単だ、俺が目指しているのが神の資格の取得だからだ。
だからこそ俊介は俺の手本でもあり目標なのだ。
「ん~?あぁ、それをパラメーターと認識できればどこまでも。人の命をパラメーターとしてみるならそれを0にすることだって出来るし、波形を使った攻撃とかだって攻撃をパラメーターとして見るなら0にできる。一番恐ろしい事と聞かれれば、ダメージ概念を0に出来る事とかかな」
バリバリチート能力だ、なんで俺以外の奴らはみんなそんなに優れているのだ、神の資格を手に入れている者ならそれは当たり前の事なのか?
「まぁ今は先に現状説明をしてもらおうか」
そりゃそうだ、俺は刃物でメッタ刺しにされてて、目の前に動くことのできなくなった殺人鬼が倒れているのだから。
「いや、彼女は殺人鬼だよ。確か季子とか名乗ってたけど、本名かどうかは分からない。下校途中にバッタリ遭遇して気づいたらターゲットにされてたから、俊介にもらったネガティブックでちょっと挑発したら、気付いた頃にはメッタ刺し。記憶を改竄して攻撃をやめさせることさえ出来なかったよ」
そう説明すると、俊介は深くため息をついた。
そりゃそうだ。自分で説明してて自分が情けなくなるほどの情けなさだ。
「ただ俺は犯人の特徴から、ここ最近の通り魔事件の犯人は全部揃ってあの元女神さんだと思ってたんだけど、まぁこうもバッタリ真犯人と合うとは思ってなかったよ」
俊介は何かに気付いたように眉間にシワがよって下を俯いた。
「なぁ勝治、お前がその通り魔事件の事を知ったのって何時の話だ?」
「え?今日の朝、先生からだけど...」
俊介の表情が更に濃くなった。
「いや、それはおかしい、いくらなんでも偶然がすぎる。知った日の帰り道に通り魔の真犯人がお前をターゲットにした、いくらなんでも出会い方に違和感がありすぎだろ」
俺もそう感じてはいたが、それ以上に...
「いや、もっとおかしいことだってある。彼女が本当に通り魔の真犯人だったとしたら、もっと手際よく殺せたはずだ、刺された時になんとなくだが慣れていないような....違和感みたいなものを感じた」
そう言うと俊介は何かに閃いたような素振りを見せた。
俊介の口元に笑みが浮かぶ。
「あ、そういうこと。簡単だよ勝治、君はミレイから運命の決まりみたいな事聞かされてないかい?」
全く聞かされていない。俺が聞かされたのは警告だけだ。
「ミレイは神の中じゃ優秀な部類だったんだ、だからこそ世界の法則を作るレベルの仕事はポンポンやってのけた。そこで彼女がやった仕事の中に、過去と未来の決まりごとみたいなのがあってな?【過去で出会った人間は形はどうであれ、未来でその姿を見る】ってのがあるんだ。」
「例えば、テレビのインタビューの後ろで通り過ぎた人間が中学時代の同級生だった~みたいな感じだな。お前、この殺人鬼の顔に見覚えあるだろ?」
そう言って、俊介は殺人鬼の被っていたフードを外した。
黒髪のショートボブ、目は赤に近い色をしている。
その冷たくも奥に何かが光っているその熱い目はギラリと俊介の事を睨んでいる。
「おぉ、こわいこわい」
そう言って俊介は殺人鬼に顔を近づけた。
「お前、勝治に会ったことあるだろ?どこで会ったよ、えぇ?初対面の相手殺すのもどうかと思うが、知ってる人間殺すのもどうかと思うぞ」
「あぁ、すまん口聞けないんだったな、今解除してやるよ」
俊介は狂気的な笑みを浮かべた、あんな顔で脅されたら、俺だったららちびる。
「ウッドソード・ロストブランク」
俊介がそう唱えた瞬間、殺人鬼は俊介に噛み付こうと飛びかかってきた。
「いや、お前さん。馬鹿だろ?」
そう言うと俊介は殺人鬼の顔面を肘で殴った。
殺人鬼は頭を地面に強打し、痛みに苦しんでいる。
この時の殺人鬼の悲鳴を聞いて、俺は何故か安心した。
「おい、俊介やりすぎだろ」
「お前、こいつにメッタ刺しにされてたんだぞ?これぐらい返しのうちにも入らんだろ」
あっさり言いくるめられた。
まぁ、俊介の言っていることに間違いはなかった。
「殺す...絶対に....殺す...」
殺人鬼が弱りながらも必死にそう唱えるので、流石の俊介も違和感に気付いた。
「お前さんあれか、最初から意識無かっただろ?」
俺は俊介の言っている事が理解できなかったし、俊介が理解できている事に対して理解不能だった。
「意識がない?どういう事だよ」
「お前、さっき記憶を改竄出来なかったって言ってたよな?あれの理由教えてやるよ」
「こいつには記憶そのものが無いんだ」
記憶喪失って事でいいのだろうか?
「ウッドソード・ロストブランクで意識以外のパラメーターを全部0にしたのにもかかわらず、こいつの殺意は0にならなかった。つまり、こいつの意識そのものが殺意なんだ。殺意で動かされて、殺意で生きている。だから実質【無意識殺人】なんだよ、コイツは」
無意識殺人...聞いたことすらない。
無意識で生きる事なんて可能なのだろうか?
「でも待て俊介、俺はそいつの顔を知らない。多分だけど過去に会ったことなんてないと思う」
「え?」
俊介がフリーズした。
先に進めないこのイライラ感はなんとも言えない不快さがある....。
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