第8話:旧敵と現友
暗い暗い夜道。電灯が一定間隔で並び、ビルがジャングルの木のように無造作に建っている。
暗い暗い夜道を、俊介はただ一人でポツポツと歩いている。
「随分いい人間を見つけたみたいね、俊介」
驚く、心拍数が上がる。
鼓動の音が聞こえてくるようだ。
「てっきり、復活は不可能だと思ってたよ、ミレイちゃん」
平均より少し大きめの女性。
冷たい沈黙が走る。
銀髪、目はピンクっぽい紫色の美しい目をしている。
しかしその瞳は、死んでいる。
ただ冷たく、ただひたすらに俊介の事を睨んでいる。
その女性は腕を組み、少し深めの深呼吸をして、こう言った。
「あの時はどうもね、私を殺神試練の対象にするとは、完全に慢心だった」
俊介はこの女性を知っている。
彼女は彼が会うことすら予想できないような人物だった。
「あ、私はミレイ・ノルヴァじゃないのよ、その分身。貴方もよく知っているでしょう?」
「白紙の...少女...」
「あ~、貴方達はそう呼んでたのね。まぁ、名前が無いのだからなんと呼ばれたって不服は無いんだけどね」
俊介の表情に恐れが浮かんで居る。
彼は、気味の悪さから来る恐怖と戦っている。
「ここに君しかいない、ってことは本体はまだ回復中かな?」
そういうと彼女はにっこりと笑い、首を少し傾げ、こう言った。
「相変わらず鋭いのね、そういう所、殺したくなるほど好きよ」
そう言って彼女は、パチッっと指を鳴らした。
次の瞬間、俊介は身もよだつような恐怖を感じた。
首元に指がつく。冷たく、殺意のこもった人差し指。
背後に人間の気配を感じ、俊介はすぐさま後ろを振り返った。
「あら、人を振りほどくなんて、そんなにひどい人だったかしらねぇ?」
過去のトラウマがフラッシュバックした。
俊介は勝治のトラウマを、未来に繋げるためにほじくり返していたが、これは違う。
殺意が込められている。
「私ね、分身するときに、ちょっと学習したのよ。時を操り、パラメーターをも操れる最強の能力の状態で降臨しなくちゃ、貴方とまともに張り合えないってね」
「貴方の能力はしっかり認めてるのよ?いくら舐めていたとは言え、あそこまであっさり殺されるとは思ってもいなかったからね...」
俊介は圧倒的な殺気に圧倒されていたが、奇妙な違和感に気づいた。
「お前、神の資格を取り返しに来たんじゃないのか?」
彼女から笑顔が消えた、本来なら緊迫するはずだが、俊介はこの時何故か、ほっとした。
「なんで?私は貴方が散々言ってたと通り駄女神だったのよ?周りからも蔑まれ、女神として産まれたのが汚点ってぐらい...」
俊介は、ここで全てを察し、あっという間にペースを戻した。
「そうか...はじめまして、って言うべきか久しぶりって言うべきか...」
「厳密に言うなら久しぶりが正しいかな、現に半分とは言え、元は一体なんだから」
そう言って、彼女はまた再び奇妙な笑みを浮かべた。
「Lost Blank!」
彼女がそう言った瞬間、俊介はその場に倒れ込んだ。
殺したのではない、足の操作権限を、足の【パラメーター】をゼロにされたのだ。
これが彼女の能力、意図した物事のパラメーターを0に出来る。
彼はこの能力をよく知っている。
この能力の恐ろしさも知っている。
俊介の顔に激痛が走る。
白紙の少女が、俊介の顔面を蹴り上げたのだ。
そのまま足を下ろし、俊介の顔面を踏み潰す形になった。
「まぁ、せっかく復活できたことですし、あなたへの鬱憤うさばらしもちょくちょく挟んで行きたいのよね。これぐらいしたって、貴方は痛くも痒くもないでしょう?」
俊介は気づいていた。
彼女の攻撃が痛みに変わっても数秒で消えてしまっていることに。
早めに会話を終わらせたいが故に演技をしていたが、それすら白紙の少女、いやミレイ・ノルヴァには見抜かれていたのだ。
「あ~あ、モロバレだったのね?まぁこれが【万物神】ってやつよ、お前が駄女神やってた時より、断然神っぽいっしょ?」
「まぁ、久しぶりにLost Blankを見て、変な感想だが、ちょっと安心したよ。僕は神になるために実験を重ねないといけない。例えそれで自分の価値を落とすことになっても、それでも神に対しては慎重にならないといけない。」
ミレイ・ノルヴァの笑顔が狂気じみたものになってきた。
「やっぱり最高ね、復活するのにちょっと抵抗があったんだけど、わざわざ人間として転生したのは正解だった」
「まぁ形はどうであれ、これでWin-Winって訳だが、俺に鬱憤を晴らすが為にわざわざ復活したわけじゃないんだろ?」
俊介の心は完全に落ち着きを取り戻した、今ここにいるのは【万物神】としての俊介なわけだが、この落ち着きの速さに疑問を感じているのは、俊介本人だけではない。
答えは簡単。
「まぁ、人の心まで勝手に0にする性格は治ってないみたいだな、ミレイ」
「えぇ、だって貴方も同類でしょう?貴方がイメージ世界で勝治にやった事って、私より非道よ?」
「あぁ、知ってる。」
静かな夜、静かで冷たい空気、ただ、ここにある空気は殺伐とした空気ではなく、ただ昔を懐かしみ、共に悲しむ2人の悲しい神の、言葉で言い表すことのできない神聖な空気だ。
「で、何しに来たんだ?」
「いや、貴方があまりにもいい人間を実験材料にしたもんだから、ちょっと警告をしにね」
そう言うと、彼女の顔は狂気的な顔から一気に静かで、真面目な顔になった。
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