第4話:時を司る神

「ようこそって言葉はおかしいんだけど、君に色々説明したいこともあるからここではあえてようこそ、って言わせてもらうよ、【君の脳内へようこそ、勝治。】僕はこの日を楽しみにしていたんだ」


理解できない状況が続いている、でも、やっと理解できたことがひとつある。

ここでは常識は通用しない、いわゆる【アンリアル】が【リアル】で起こっている。


話を整理しよう、俊介の話を聞く限り、ここは僕の脳内のようだ。

僕の思っていた脳とは形が違うのだが、これは内蔵としての脳内なのだろうか?


「脳...って言うとあの髑髏どくろ巻いてる?」


「ん?違うよ、ここで言う【脳内】ってのは、君の脳が作り出す、【イメージ世界】の事なんだ」


「イメージ世界?」


「うん、君の考えや記憶、更にはトラウマなんかがぎっしり詰まった世界」


彼の放つ言葉のひとつひとつが意味不明だ、でもリアルなアンリアルと考える事でなんとなくだが、分かる気がする。


「そうだ勝治、一つおもしろいものを見せてあげよう。君が今まで生きてきた中で、一番辛かった思い出を思い浮かべてごらん」


辛い思い出、嫌な思い出、どれをとっても、これしかない。


【僕が殺人を犯した記憶】


能力の恐ろしさと、退屈な人生という名の無期懲役を喰らうきっかけになった事件だ。


するとどこからか、綺麗なシャボン玉のような物が飛んできた。

シャボン玉、それは本当に綺麗で、周りの景色を色鮮やかに、鮮明に写していた。


鮮明に...ハッキリと...


ツッ!


このシャボン玉が映し出しているのが、周りの景色でないことにはすぐに気がついた。

この映像は....彼女が死んだ日の.....


「ウッドソード!」


彼が呪文を唱えるかのようにその単語を唱えると、目の前にあったシャボン玉は、あっという間に恐ろしい姿へと変わっていた。


それは悪魔のようでもあり、世界そのものであるような、怖い。怖い。滅茶苦茶に怖い。


「ここは君の世界だ、君のイメージが作り出す世界、だから君のイメージで僕に危害を加えることもできるし、僕そのものをこの世界から追放することだってできる。でもね、僕はこれでも【神になる資格を持つ者】なんだ、今、君のシャボン玉に映った君のトラウマは、僕の能力で君を殺すほどに恐ろしいものになっている。君の世界さえもコントロールできてしまうのが【神】なんだよ」


そう言って俊介は指を鳴らした。


その瞬間、無茶苦茶に恐ろしいシャボン玉は割れ、僕の心から無期懲役の執行猶予が作られた。


「君はさっき神について聞いたときに【存在していないけど存在している存在】と言っていたね、あの答えはあながち間違いじゃないんだよ」


僕は呼吸を整えるので必死だ、今まで17年も生きてきたが、ここまで恐ろしいものは見たことがなかった。


もう鼓動の音がうるさすぎて、どっか破裂してんじゃないかと思うぐらいに胃が危険信号を出している。

ゲロらなかったのが奇跡だ。


しかし、こんな状況にもかかわらず、彼は淡々としゃべり続ける。


「【神】ってのはね【概念そのもの】なんだよ、運命・時・愛。君たちが日常的に何気なく感じたり使ったりしているこれらが全て概念であり、神なんだよ。そして人間もまた一つの概念なんだ。男・女・子供に老人。沢山の概念が存在している。そして僕等【神の資格を持つ者】ってのは、その概念による影響を唯一受けない者の事なんだ」


まて、今コイツ僕等って言ったのか?

聞きたいことが山ほどあるのに、鼓動が邪魔して声が出ない。


「例えば時を止める超能力者がいたとしてだ、そいつは【時】という概念の影響を覆している事になる。普通の人間なら、時という流れの中で、ただ過ぎてく時間を食い潰す事しか出来ない、時間には逆らえないんだ。でもそいつは時を【止める】ことによって、時という概念の影響を受けていないんだ。こういう人間を【神の資格を持つ者】と僕等は呼んでいる」


「さっきの例でいくなら、時を止める人間は【時を司る神】となる、そして、君は【記憶を司る神】なんだよ」



え?


あ、なる程。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る