3日目

[ケイト side]


 俺は、実のことを言うと…突然に告げられた言葉をまだ理解しきれてない。


 “余命1ヶ月”?


 あいつには心配させないようにカッコつけた言葉を繋ぎ合わせながら話をしていたが…そんな自分自身に笑ってしまうよ。


 中学校の卒業式が終わり、至って普通の生活を送って。

 もう少しで高校生活が始まるという直前の俺が、何でいきなりこうなったか。


 先生も詳しい原因がはっきりと分かってないらしい。


 家族にも、友達にも…あいつにも、沢山の人に迷惑をかけて。


 それでも最後に思い出を作りたい、だなんて。

 我が儘過ぎる自分が情けない。


 なんだよ、思い出なんて。

 どうせ死んだらそんなものなくなるのに。


 分かっているのに苦しくなる。

 …いや、分かっているからこそ苦しくなる。


 そんな俺をずっと笑顔で支えてくれるあいつは、俺が見てないところでどうしているのかな。


 泣いてるかな?

 迷惑だなって笑ってるかな?


 きっと優しいあいつは、俺のことを気にかけていると思う。


 自意識過剰かもしれないけど、そう思う。


 だから水族館に誘った。


 俺以外の男友達が出来る前に、せめて一回だけでもいい。


 一緒に遊びたい。


 その思いが届いたのか、あいつはいつも通りの笑顔で頷いてくれた。


 あぁ、日曜日が楽しみだ。


 …これで、少しは、苦しくなくなるかな?


─────


 日曜日になり、俺達は近くの水族館に行った。


 そこまで広くない空間に、人が沢山いるのを見ると、少し面白いと思ってしまう。


 そんなことを思っていると、あいつがどこから見たいか聞いてきた。


 どこからでも良かったが、ここは少し甘えて自分の見たい所を言った。


 魚を見ながら笑い合って。

 次どこ見る?と言い合って。

 最近こんなことがあったよ。なんて会話をして。


 楽しかった。もっと見てたかった。


 したらあいつがカフェに行くことを提案した。

 もう少し見ていたかったがお腹がすいたのもあって二人でカフェに入った。


 そんな時だ。


 あいつのいつも俺に見せる笑顔が消えてしまった。

 悲しそうな、泣きそうな顔をした。


 話しかけても反応はなく、何か考え事をしてるとすぐに分かった。


 これは俺の推測だが、あいつも俺と同じことを考えているのかもしれない。


 だって。


 俺は見てしまったから。


 ハンカチにくるまれてある、俺があいつにあげた腕時計が。


 確か、返さないでいいと言った筈。

 なのに持ってきたということは。


 ──俺に、返すつもりなのかな。


 正直に言うと、前までは返されたらそのまま俺がずっと持っていたと思う。

 少し気にいっていたから。


 だけど今は。


 返してほしくない。

 返さないで。


 それをずっと持っててほしい。


 俺のことを、忘れないでほしいから。


 例え、俺との思い出を忘れてもいい。

 忘れてもいいから…



 おれのことだけは、わすれないでほしいよ。


 おねがい、わすれないで。



 …なんて、ガキみたいなことを考えながら。


 俺は届いたパンケーキを食べ始めた。


 ──今度は、どんな言葉をかけようかな。


─────


 その日の夜。


 結局腕時計は返されないまま、1日が終わりそうで。


「…あーあ、なっさけねぇなぁ」


 なんて、誰もいない病室で一人。


 ポツリ…と、呟いた。


 あいつは今何してるかな。


 腕時計返せなくて、落ち込んでるかな。


 そんなどうでもいいことを少し、想像して。


 俺は眠った。


 ──あぁ、俺の命は後…

        どれくらいで尽きるのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残り1ヶ月 星鎖 @siro1212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ