2日目

「お~!相変わらず賑わってるな!!」


「本当だね。受験勉強で全然来てなかったから…何ヵ月ぶり?」


「わっかんね。まっ行こーぜ!」


 日曜日になって私達は水族館に来ていた。


 凄く大きい施設…というわけではなく、こじんまりとした施設だ。

 だけど休日になると多くの人がやってくるから、とても賑やかだ。


「ケイト。最初どこから行く?」


「んじゃあ…ヒラメだな!」


「おおぉ…?随分と渋いとこいったね…」


「そーか?」


 ケイトはいつもチョイスが微妙だ。


 それはそれでケイトらしいというか…


「あっ…マグロ食べたい」


「なんで今魚が食べたくなったの!?」


「いや、泳いでるの見てたら新鮮魚旨そうだなって…お前もそう思うだろ?」


「あんまり思わないけど…?」


「なんで!?」


「こっちがなんで!?」


「…ははっ」


「…ふふっ」


 今は何も悲しいことなんてなくて。楽しくて。


 私はケイトの病気のことも忘れて沢山笑っていた。


 そんな私の顔を見て、ケイトは少し寂しそうな顔をしていたが、私はその事を特に気に止めることはなかった。


─────


「あーっ疲れたぁ…」


「かなり歩いたもんね。あそこのカフェで休憩しようか」


 水族館に来て2時間近くが過ぎた頃──


 そろそろお昼時なので何か食べたかったから、と言う理由もあり、すぐ近くのカフェに入った。


 それぞれ食べたいものを注文し、暫くの静寂。


 その静寂を破ったのは、ケイトだった。


「…楽しいな」


 そう、小さく呟いて。


「え?もちろん楽しいけど…いきなりどうしたの?」


「──いや、なんでもない。あっほら、パンケーキ来たぞ!」


 ケイトは、話をそらすようにパンケーキを食べ始めた。



『思い出を作りたい』



 …思い出……か。


 今のこの楽しい思い出は、いつまでも覚えていられるのだろうか。


 もしかしたら、些細なことがきっかけで忘れてしまうかもしれない。


 バッグの中を見ると、腕時計が丁寧にハンカチにくるまれてある。


 先日返せなかった腕時計。


 今日こそ返そうと思っているが自分の思うように声が出ない。


 どうしてか。答えは簡単。


 多分私自身がこの腕時計を手放したくないからだろう。


 あの時の夜には威勢の良いことばかり言ったが、やはり返すのは…と、ためらってしまう。


「おーい、どうした?食べないのか?」


「あっ食べるよ!…って私の分まで取らないでよ!いつのまに!!」


「ははっ!俺の分も食っていーからさ!」


「…言ったな~?」


「えっいや、あんまり取らないで…っおい!取りすぎだろ!!」


 私は考えるのをやめて、パンケーキにかぶりついた。


─────


 その日の夜。


 結局腕時計は返せなくて、机の引き出しの中にしまった。


「…」


「……っ」


 あぁ、なんでこう、私は泣き虫なんだろう。

 涙を止めることもできない。


 まだ何日もの時間はあるのに。


「…ケイトは、私がずっと泣いているって知ったらどうするのかな?」


 多分明るく笑って慰めてくれるだろう。


 だけど、それだけじゃいけない気がする。


 いつかは、自分自身でこの涙を止めなくてはいけないのだから…


「ケイト、また明日ね」


 そう言って、私は無理矢理に目を閉じて、ゆっくりと眠りについた。


 なんでもメガティブに考えすぎないようにしなくちゃ…ね?

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