第12話 アプリオリについての考察

 アプリオリということばは哲学をやる人は一度くらい聞いたことがあるだろう。カントの「純粋理性批判」に出てくることばで、思考の帰結はアプリオリ(先験的)でなければならないという主張である。これがどうにもぼくには疑問なのである。すごく引っかかるのだ。

 ネットの掲示板では、カントのアプリオリという思想を反駁した哲学者も当然いるといわれたが、探してもさっぱり見つからないので、それを知っている人は誰のどういう著書に書いてあるのか教えてほしい。本が見つからないので素人のぼくの考察を書くことにしたが許してほしい。

 そもそも、アプリオリという単語は、ラテン語であり、古代ギリシャのエウクレイデスの「ユークリッド原論」に最初の記述が見られる。数学書の記述であり、カントは哲学は数学のように先験的でなければならないと主張したことになる。数学が先験的かどうかは議論があるだろう、明確な答えはいまだに見えない。この宇宙を記述するのに、人類は数学を使って物理学を計算して、諸科学に基づく文明を築いている。数学は文明の基礎であるから、哲学も数学のように先験的であるべきとカントが考えたのは当然なのかもしれない。しかし、これは簡単に容認するわけにはいかない。数学が、宇宙の基本原理を反映したものなのか、それとも、人間の認識の原理を反映したものなのかはまだわかっていないのだ。

 当然、数学は物自体を記述するものではありえない。すると、人類の脳の外部に存在する物自体の表象に基づいたものなのか、それとも人類の脳の内部の存在に基づいたものなのかはっきりしない。

 人間の思考が先験的であるか後天的であるかはプラトンの「メノン」に記述が見られる。プラトンは思考を後天的なものとして、先験的な思考を否定する。

 では、カントの「純粋理性批判」をどう読んだらよいのか。これがまた難しいのである。

 二律背反がアプリオリ(先験的)に求められるわけがないのである。

 カントの主張する二律背反の論理。宇宙は無限であるか有限であるか。宇宙には単純な構成要素があるかないか。自由意志はあるかないか。宇宙は最初の一点から始まったかどうか。それらはアプリオリ(先験的)には得られない。それらの論理は深い熟慮の果てに後天的に得られるものなのである。だから、カントの「哲学はアプリオリ(先験的)に答えが得られなければならない」という主張は一見おかしいことになる。まちがっていると一度はぼくが考えたのも無理はないと考えられるではないだろうか。

 だが、よくよく考えると、それがまた考えが逆転してくるのである。カントの主張する二律背反の論理。宇宙は無限であるか有限であるか。宇宙には単純な構成要素があるかないか。自由意志はあるかないか。宇宙は最初の一点から始まったかどうか。これらは、現在は未解明な謎であるが、おそらく、明確な答えがあるのである。宇宙はどちらかで成り立っている。二律背反、すなわち、矛盾した二つの論理がどちらも成立するということはないはずなのである。決して辿りつくことはないかもしれないが、人類が遠い未来にこれらの問いの答えに辿りつく可能性はある。その時、人類は、先験的とはいわないまでも、子供でもわかる常識としてこれらの問いに答えている可能性はある。

 カントはそういう遠い未来の文明を想定していたのかもしれない。それはアプリオリ(先験的)というものとは異なるが、いち足すいちがにになるように、人類のたいていの人に常識として認識されている可能性がある。

 例えば、二律背反の第三の問い、自由意志は存在するか否か。これは現代科学では、人類には自由意志が存在しないとして答えがでそうなのである。そうすると、この問いは、深い熟慮の果てに辿りつく答えではなくなり、誰にも明白な常識として認識されることになる。それは厳密な意味でのアプリオリ(先験的)ではないものの、カントの目指した哲学の形が成立するのかもしれない。

 アプリオリ(先験的)にわかるとは、神経構造によって本質直観されることであるが、それは「純粋理性批判」の論理には成り立たないまでも、カントが主張した理想はなんとなく理解できないこともないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る