赤ハチマキと白色鉛筆 3

 何で入れちゃったんだろう。

 アキちゃんとユッコとしゃべりながら順番待ちをしていたとき、2人が私が塾に行く日にやっているドラマの話で盛り上がり始めたので、ふと机の中を覗いたら、ノートらしきものが見えた。

 何だろう? と思ったとき、配り係が昼休みの終わる寸前に日記を配り始めていたのを思い出した。おそらく無意識に入れてしまったのだろう。

 机の中のものを取り出す。やはり日記帳だった。

 2人に断って教室に戻しに行くことにした。億劫だが仕方ない。ロッカーでいいかと思って近づくと、上に手紙らしきものが乗っていることに気づいた。

 何だろ、これ。

 開けてみると、笑ってしまうくらい下手な文章の手紙だった。定規で線を引っ張って「ウンドウカイヲチュウシシロ」と書かれている。

 うっかり笑いそうになったが、本人は真剣なんだろうな、とやるせなくなった。

 ふと教室の机を眺める。

 私の隣の席の篠田真弓。その隣の山口千代子。

 もし、これだけで何かが運動会やらなくてよくなるんだとしたら。学級会になったら素知らぬふりしていればいい。

 手紙を元の形に戻して、山口千代子の席に入れた。篠田だと疑われそうだし。

 自分のリュックの元へ向かったとき、太田先生の声が聞こえた。やばい。さっさと日記を入れないと。幸い自分の日記も持ってきていたのでリュックにしまうだけだだ。

「本田ー!」

 太田先生に呼ばれて急いで日記をリュックに押し込み、教室から出る。ユッコとアキちゃんが私の分の机と椅子まで運んでくれていたので、ちょっとだけ申し訳ないな、と思った。

 結論を言えば運動会は中止にならなかった。

 間の悪いことに帰りの会の前に山口千代子は大騒ぎしてくれたので、なかなか帰れないな、と肩を落とした。

 山口千代子と昆野美咲が怒り、配り係ずと呼ばれる、要は配り係にでもして無理矢理仕事をやらせないと何もやらない、ちゃらんぽらんな男子たちが中心になって応戦した。罵り合っている男女の中には美濃輪もいた。ユッコも言い返した。

 アキちゃんは泣いていた。見ていたくなかったろうに。先に逃げ出したのは昆野実咲だった。意外だったのは篠田真弓が彼女を追いかけたことだ。山口千代子が四面楚歌だけど?

 鶴岡はもっともらしいことをいってとりあえずはクラスは落ち着いたが、当然犯人捜しをあおるだけだった。

 山口千代子は篠田ではないとかばった。彼女曰くずっと一緒にいたらしい。では誰か、となると、クラスの半分くらいは小野さんの方を見つつ、自分じゃないことをアピールし始める。アリバイがあった、ただただ1人では行動していなかったことを言ってただけだが。しまいには珍しくメガネをかけている大林に目をつけ、1人で教室に戻ったとして犯人扱いした。ひっどい。私のせいだけど。

 だいたいの反応を見ていてあれを書いた人の検討はついた。そんなにリレー出たかったのか、あんた。出てよ。やっぱだめだ。アキちゃんとの約束があるし、ユッコにも怒られそうだ。その日は結局太田先生がうやむやにして終えたはず。

 次の日から、水面下では犯人捜しが始まっているのは知っていたが、私も疑われていると知ったのはアキちゃんからの密告だった。

「イチカが日記を戻しに行ったのを結構見られてたみたい。イチカ本人が話をしに行ってもらうのはユッコに反対されると思ったし、何もしないと昆野さんから突っかかってくるかもしれないと思ったから。黙っててごめんね」

 かまわないよ、と答える。むしろありがたかった。

 ユッコには言わない方がいいし、昆野実咲の手が伸びてきたらしつこそうだ。

 ただ引っかかったのは、話を聞きに来たのは1年生の知らない女子だという。横ポニの子には覚えがない。篠田真弓の紹介だというが、なぜそんな子が話を聞きに来たのだろう。

 その子らしき女子生徒が掃除用具入れの前で声をかけてきたとき、もっと危機感を持てばよかったんだと思う。

 お天道様、じゃないな。黒幕は、私の行動を言い当ててきた。

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