つわものどもの夢の中 2

 地獄のような追いかけ玉入れが終わると、二人三脚リレーが始まる。

 開始直後、すごい勢いでガタいのいい相方を抱えて走って行く青組のペア。

丸島まるしまだ」

金城きんじょう生きてっかな」

 後ろからヒソヒソと声がする。彼らの健闘もあって青組がトップに躍り出た。

 順調にレース運びが行われ、いよいよ最終ペアが走り出す。若干白組がほかの組から遅れをとっていた。

「安藤くーん!」

 斜め後ろから黄色い声援が束になって聞こえる。どうやら冬樹先輩とペアを組む安藤あんどうという人の応援らしい。

 白組の女子からの応援がほとんど安藤先輩のものになっていくので、大きく息を吸って一言。

「冬樹先輩頑張れー!」

 なぜか一緒に聖斗も叫んだ。俺たちの声が響いたせいか、黄色い声は止んだ。

 一番にゴールしたのは赤組だった。

 レースが終わって俺と聖斗の周りはお通夜のように静かだった。

「逆転できそうだったんだけどな」

「でも2位だから大健闘だよ」

 雑談をしていたら後ろの釘宮くぎみや一真かずまに肩をつかまれた。

 後ろを振り向こうとすると止められる。2年の女子たちはドン引きしているのがチラリと見えた。

「だってうちの部の先輩だから応援しないと」

「だってうちの部の先輩だから応援したくないし」

 俺と聖斗の言い分に、一真は盛大なため息をついた。

「さあて、次の種目はぁ! 3年男女による『呼ばれて飛び出てランデブー!!!』

 人を探してカードに書かれたお題をクリアしましょー!」

 耳を塞ぎたくなるくらいの音量のアナウンス。これ白石先輩だな?

 応援の声が小さくなったのは次が3年生の競技だったのもあるらしい。借り人競争が始まった。

 2年2組の人、朝にパンを食べてきた人、野球が好きな人、絶好調な人、など様々な人が借りられて行く。

「おっとー、こちらに向かってきたのは? デカパンだー!

 赤組にもかかわらず青のデカパンをはいてゴールしようとしている!」

 そこはどうでもいいだろうよ。

「負けるな負けるな! こっちはピンポン球すくい!

 オレンジのピンポン球を手に取りました。きっと今日のラッキーカラーはオレンジだ!」

 知らねえよ! 近くにあったからだろうが!

「おーっと! 今度はなんだなんだ? 走り縄跳び! お姉さん、大きな帽子が飛ばされないように注意してください!」

 篠田先輩が客席の方へ行ってお姉さんとは言いがたい年齢の女の人を連れてきた。大きな帽子をかぶっているので帽子をかぶっている人、だろうか。それにしても見たことあるような……。

「お次のペアのお題は……花咲かじいさんのようです!」

「どういうお題!?」

 カードを首から提げた生徒が、放送席から連れてきた逢坂おうさか先生に紙吹雪を散らしている。連れてきた人にゴールするまで紙吹雪を浴びせるってことか。ゴールした後、逢坂先生は手で顔を覆ってしまっている。

「全身赤コーデの人、って、んなのどこにいるんだよー!」

 戸川とがわ拓郎たくろう先輩の絶叫に用具係の人たちがクスクスと笑う。後ろに控えている田村先生が赤帽子、赤シャツ、赤のチノパンだったからである。すぐに気づけばビリにならなかったものを。

 しかもお題がおんぶだったようで、田村先生がヒーヒーいいながら戸川先輩を背負ってゴールした。あってるのか?

 その後はつつがなく借り人競争が終わり、次の障害物競走に移った。

 ミニハードル、網くぐり、グルグルバット、ピンポン球運びとオーソドックスながらも、先に競技を行っている女子は苦戦している。

「今走ってるあの女子のことだが」

 残り2レース分となって、急に隣から宇山に話しかけられる。

「誰のことだよ」

「よく一緒にいる、さっきも一緒にいた。ほら、髪横で縛ってるの」

 澄香のことか。網くぐりに大分苦戦しているようで、なかなか出てこない。

「澄香がどうした?」

「おまえの彼女か?」

「ちげーよ!」

 応援以上の声が出てしまう。

「幼なじみで同じ部だけどそれ以上でもそれ以下でもないから」

 言えばいうほど、宇山の顔はむすっとしてくる。

 というか少し目を離した隙にみんなピンポン球に行っちゃってるじゃんか!

「がんばれー! 白組ー!」

「逃げんな!」

「おまえも応援しろよ!」

「澄香ちゃんか?」

喜屋武きゃんだよ!」

「キャンって誰だ!」

「ウチのクラス! ってちげー! おまえは同じクラスの女子を応援しろ!」

「おまえら声通るからやめた方がいいぞ」

 前に並ぶまゆずみ浩輔こうすけに諭される。すみませんでした。

 明らかに俺たちに目をつけているであろう田村先生が「男子準備」と告げる。

 俺たちのやりとりが知られないでほしいと願いながら入場門をくぐり抜けていった。

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