第3話「感傷に浸る中で」

 集めた情報を整理し終えると辺りはだいぶ暗くなっていて、風が強くなってきていた。


 今は河原でただ、何もせずに突っ立っている。

 もちろん、することがないからだ。


(ぐぅー)


「腹も減ってきたなぁ」


 おっさんにもらった紅いりんごのような果物は、情報収集している時に食べてしまってもうない

 今、手元に食べ物は何もなかった。


 この空腹は普段どれだけ自分が贅沢をしていたか分かるくらいだ。


 空腹に耐え抜くというのは、一日程度なら、簡単だろうが、それこそ今、行く宛もない俺にとっては不安要素の一つでもあった。


 家もなければ、食べ物もない。


 お金がないので宿に泊まることもできない。かといって、頼れる友人も居なければ、話し相手すら居ない。


 普段なら妹が「お兄ちゃん!遊ぼ!」とか「お兄ちゃん!コンビニ行くよ!」とか言ってきて、とにかく何かと理由をつけては俺にかまってオーラを出してくる。


 だけど、その妹も今は居なくて、本当に俺は一人だ。


 だが少しだけ妹が心配になる。


「あいつ元気にしてるかなぁ」


 少し感傷に浸りながら上を見ると、そこは辺り一面を覆う満天の星がそこにあった。


 まるで、異世界に来た俺を祝福してくれていると、そう思い込ませる程の星空だった。


 声も出ずに見惚れていると後ろから透き通るような声が聞こえてきた。


——綺麗な星空ですよね。


 振り向くと、そこには銀色の髪をしていて、肩くらいまでの長さで、大きな瞳をもった、可愛い少女が居た。


 いや、かわいいというより、美しいのほうが合っているかもしれない。


 服装は庶民的なドレス。


 おそらく歳は俺と同じかそれよりも下くらいだろうか。


 この美しい少女を俺はどこかで見たような気がしなくもない。


 美しい少女は、ただ星空を見ていた。


「この美しい夜空の下でも、人間とエルフは争いつづけてるんですよね……」


 遠い目をして何かの感傷に浸っているようだった。


「…………」


 俺は無言のまま、立ち尽くしていた。


「まぁ、見ず知らずの少年に言っても仕方のないことですけどね」


 そう言うと、少女はニコッと笑い、街の方に行ってしまった。


「…………」


 ——誰だ? どこかで会ったような気がする。


 俺の頭の中には、その疑問だけが残っていた。


 考えながら河原を歩いていると橋を見つけた。


 木製だが、丈夫そうで、風を凌げそうな感じだった。


 ホコリっぽいのは、この際我慢するとしよう。

 寝れる場所を見つけたので、そこで一晩明かすことにする。


 寝る前の俺の頭の中はあの少女のことと妹のことでいっぱいいっぱいだった。

 

 あの少女は誰だったのか。

 あの銀色の髪そしてあの服装どこかで見た気がして仕方がなかった。


 あと妹が心配だということ。

 新居に一人残してしまったが元気にやっているのだろうか。

 てか今頃あっちの世界ではどうなってるのだろう。

 俺は失踪扱いなのだろうか?


 疑問を持ちながら俺の異世界転移の第一日は終わりを迎えた。

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