第1話「優しいおっさん」

 ——おい、兄ちゃん


 ——兄ちゃん。おーい。


 ——ダメだ、起きねぇな。おい誰か水持って来い。


 ——こんなところで寝られたら困るんだが……はぁ、せーの!


 肌寒いなか、俺は見ず知らずのおっさんに水をかけられ、目を覚ました。


 俺はおっさんの店の前でぶっ倒れていたようだ。それで、邪魔だからということで水をぶっかけられ目が覚めた。


 今は水をかけたおっさんの家にいる。

 服を乾かせてもらっているところだ。ついでに温かいスープも作ってくれた。


 どうしてこんなところにいるか記憶がない。

 そもそもこんな街は見たことがない。

 ほとんどの家が木、もしくはレンガで、できているようで屋根も同じような素材。

 まるで中世にきたような


「意識、安定してきたようだな」


 おっさんが家の中に入ってきた。おっさんはこの街で八百屋?を営んでるらしく。品出しの最中だった。

 そこで、俺が倒れていたのを発見し、水をかけて起こしてくれた。


「おっさん、もうちょっと他の方法があっただろ」

「何が?」

「何って俺に水ぶっかけて起こしただろ」

「邪魔だったんだよ。それに水だっただけでありがたく思え。スラムの酔っぱらい連中だったら蹴り飛ばして起こしてたところだぞ」

「怖いな」

「だから素直に礼を言っとけばいいんだよ」

「はいはい。それはどうもありがとうございました」

 憎たらしく言う俺。

「ったく……」

 舌打ちするおっさん。


「服は乾いたか?」


 おっさんは独り言を言いながら俺の服が乾いたか確認する。


「だいぶ乾いてきたな……ほら!」


 服を投げてきた。手に取ると確かに乾いていた。だが、まだ生乾き程度。


「まだ乾いてないだろ」

「つべこべ言わずにそれ着てさっさとどっかに行きな。店開けたいからよ」

「はいはい。わかったよ」


 生乾きの服を着ようとするとおっさんがまたしても話しかけてくる。


「それじゃねぇよ。そこにたたんである服だよ」


 指差すのは綺麗に折りたたまれた服だった。


「それ来てさっさと出ていきな。あとそこの袋の中に入ってるのも持っていけ」

 またしても指差すおっさん。

 その指先を見ると袋があった。その袋には紅いりんごのような果実。

 身が引き締まっていて、食べ頃のようだった。

 

 俺はふと思った。

 このおっさん意外と優しいのか?と。


「あ、ありがとう」

「おう。その服は返しに来なくていいからな」

「あ、ああ、ありがと」


 お礼を言って家を出る。

 おっさんも見送るためか外に出る。


「おっさん名前は?」

「名前? 名前はハウベルだ」

「……また来る」

「おう。そんときは金もって客としてこいよ」

「ああ。そうするよ」


 優しいおっさんことハウベルと軽い口約束をし、俺はこの街でのすべきことをすることにした。

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