俺はハーレムなんて望まない!

プロローグ

「俺もついに一人暮らしかー」


 地元からバスに揺られて約3時間、バス停からタクシーに乗って約30分。

 おおよそ3時間半をかけてついた場所は新築のマンションの一部屋。

 一人暮らしに3LDKは少し贅沢だと思うが、俺の苦節3年間を思えば当然のことだ。

 俺の名前は坂本蓮。今年から大学生だ。

 家族構成は普通の家と変わらない4人家族。

 父、母、妹、そして俺。


 今日は記念すべき引っ越しの日だ。


 引っ越しの主な理由は大学への進学。

 だが表向きで、本当の理由は他にある。


 俺の学校は何故か極端に人が少なかった。


 女子12人に対して男子1人つまり男子は俺のみ。


 そう。まさに『ハーレム』


 俺も初めはハーレム最高!なんて思って浮かれていた。

 だが、だんだんとハーレム状態を過ごしていくうちに嫌になっていく。


 女子の喧嘩に巻き込まれるし、俺は遊びたくもないのに、勝手に俺と遊ぶ順番を決めだす。


 挙げ句の果てには、会話相手も決められ会話する時間も決められる。


 こんな毎日をくりかえして行くうちにクソみたいな学校が嫌いになっていった。


 俺の憧れは普通の朝。普通の学校生活。そして普通の夜。


 朝起きてリビングに行くと、母が朝食の準備をしていて、父は新聞を読みながら目覚めのコーヒーを飲んでいる。

 そして妹はテーブルにできていく朝食を並べていく。


 俺が「おはよう」と言うと家族全員がすぐに「おはよう」と返してきてくれる。

 

 そして、和気あいあいとした雰囲気で朝食を食べ学校にいく。


 学校では普通に授業を受け、普通にノートを取る。


 学校が終わり、夕方妹と仲良く家に帰ると、母が夕食を作っていて、美味しそうな匂いを家に充満させている。


 夜になると、父が帰ってきて家族みんなでご飯を食べる。

 食べ終わりあとは風呂に入って寝る。


 こうして一日が終わる。


 そんな生活に俺はずっとあこがれていた。


 だが現実は甘くない。


 朝起きると横で寝ている幼馴染。

 リビングに行くと学校の先輩が、朝食を作っていて、妹はそんな二人を追い出そうとするものの、口論で負け俺に泣きついてくる。


 それをなだめ先輩が作った朝食を食べると学校へ。


 俺の学校は全体で13人しか生徒がいない他に学年もバラバラなので基本は自習だ。

 席の移動はなぜか自由。

 そのため、俺を含まないクラス全員による席の取り合いが始まる。

 もちろんその席とは俺の隣だ。


 席の取り合いが終わりようやく勉強に集中ができると思った瞬間にチャイムがなる。


 これが受業のたびに起こる。


 夕方になると、何故か全員で俺の家に帰る。

 本当にわけがわからない。


 家に着くと先ほどまで一緒に居たはずの先輩がエプロン姿で料理を作りはじめている。


 夜になり晩御飯を共に囲むのは家族ではなく、クラスメイト達。


 それを食べ終わりようやく、みんな帰っていく。


 だが、ここでも争いが起こる。

 誰が俺に送ってもらうか、でた。

 もちろんながら俺は送るなんて一言も言っておらず俺の意見は無視。つまり強制だ。

 その争いが終わるのが夜の10時過ぎ。

 

 その勝者を家まで送り家に帰ると夜中の12時を回っている。


 結局一人の時間が1分もなく、風呂に入り俺は眠る。


 そしてまた朝になり、幼馴染が横で寝ているところから一日が始まる。


 その繰り返し。


 ちなみに父と母はかれこれ2年くらい帰ってきていない。


 たまに手紙がお金と共に送られてくるが、在住不明のところから送られてくるためどこにいるかはわからない。


 そんな生活に嫌気が差したため、高校卒業と共に引っ越し、および一人暮らしを決意した。


 そして今に至る。


 無論、学校の女子や妹には俺が引っ越したことは秘密だ。

 てか俺の引っ越しを知っている人はいないと思う。

 

 ついてからおおよそ30分ほとがたった。

 部屋の整理をしはじめようとすると2回ほどインターホンが鳴る。


(ピンポーンピンポーン)


「はーい。今開けますよ。……こんな時間に誰だ?」


 ダンボールでいっぱいの部屋を出て扉の前に立つ。

 重い扉を開けると妹の姿がそこにはあった。


「馬鹿にい来たよ。中に入るね」

「…………」

 

 俺は無言のまま扉を閉めようとする。だが妹は足を挟んで対抗してくる。


「なんで閉めようとしてるのかな〜?」

 妹は笑顔だ。だがその笑顔の中には鬼がいるようだった。


「な、なんとなくだ」


「ふーん……じゃあ……」


 妹は力いっぱいに扉をこじ開ける。

 俺も負けじと対抗する。

 だが敗北は明らかだった。


* * * * * * * * *


 扉をこじ開けられ家に無断で入られた俺は今、お茶の準備をしている。


 もちろん妹の分のみだ。


「早くしてよー馬鹿にいー」

「今いれてるよ」


 呪文をかけながらお茶を入れる。不味くなれ不味くなれと。


 入れたお茶を持って行くとここに座れと言わんばかりの目をしている。

 素直に座ると、妹は俺の目の前に座り説教を始める。


「なんで私に黙って引っ越しなんかしたの?」

「それは……」

「あーもういいや。言い訳なんか聞きたくないし、私も今日からここに住む。いいよね?」

「いやそれは困る」

「いいよね?」

「……はぁ」

「ありがとやっぱりお兄ちゃんは優しいなぁ」


 妹は笑顔で俺に抱きついてくる。

 

 妹の名前は坂本葵

 年齢は17で俺の一つ下だ。

 とびっきりの美人で、歩いていると周囲から視線を集めるほど。


 身体能力も高く、中学の時は部活動で軟式テニスで個人全国ベスト8に輝くほどだ。


 それだけ聞けば完璧超人だ。

 だがたった一つだけ残念なことがある。

 それは『ブラコン』だということだ。


 ほんとに残念なやつだ。

 ちなみに怒ってないときの俺への呼び方は「お兄ちゃん」怒っている時は「馬鹿にい」だ。


「お兄ちゃん、お風呂入ってくるね」

「ああ」

「あ、そうだ。下着忘れたから買ってきて」

「なんで俺が!」

「お願い優しいお兄ちゃん」


 媚びるような口調で言う葵。


「はぁわかったよ。どこに売ってる?」

「そんなのコンビニでもどこでも売ってるよお兄ちゃん大好き!」

「はいはい」

「なんでそんなふうに言うの?ほんとに好きなのに……はっ! わかった! 照れ隠しだね! お兄ちゃんは可愛いなぁ」

「はぁ……一人で言ってろ」


 そう言うと俺は金だけを持って家を後にした。


* * * * * * * * *


 季節は冬。

 冬の風が俺を凍えさせる。


「なんで俺がこんな目に……」


 言われた通りコンビニで、女用の下着を買ったが、その時の女の店員さんの見る目といえば、もう思い出したくない。


 土地勘がない場所を彷徨って早1時間くらいがたった。


 コンビニが見つかるのは早かった。流石は都会。

 だが、来た道を戻っても何故か家にはたどり着けず、それどころか街並みはどんどん過疎ってきているような気がする。


 辺りはとてつもなく暗い。なぜなら街灯がないからだ。

 田舎では街灯が数百mずつとか、一つもないところもある。

 だが、ここは都会だ。

 なのに街灯が一つもない。


「どうなってんだ……」


 ついには都会ではなく、田舎でもない場所にたどり着いた。

 河原だ。

 辺りはすっかり明るかった。

 朝になったからではない。星が月が、今まで見たこともないくらい綺麗に光り輝いているからだ。

 日本では見れないような星空。


「綺麗だな……」


 俺は草むらに腰を下ろす。

 雄大な星空の下。たった一人の世界。誰に縛られることもない俺だけの世界。

 

 深夜だからか。少し眠くなってくる。それに疲れてもいた。慣れない土地をずっと歩き回ったのだから。

 まぶたが落ちてくる。

 寝てはいけないと本能が言っている気がする……


 だが「少しだけほんの少しだけ」と自分に言い聞かせる。

 こうして俺は、深い眠りについてしまった。

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