第23話 おいでませ採掘道
その坑道は、長らく人の出入りがなかったのか淀んだ空気を内に溜め込んでいた。
当然照明の類もなく、通路を補強するための梁もない。
足を踏み入れた者を容赦なく飲み込む巨大生物の口を連想させる、そんな場所だった。
坑道自体はさほど深くないというアノンの言葉通り、内部を進むとすぐに突き当たりに当たった。
持って来たランプで坑道のあちこちを照らしながら、フィレールは気難しげに眉間に皺を寄せた。
「……迂闊に変な場所を掘ったら崩れそうだな」
携えている麻袋に目を向ける。
これに、採掘した鉄鉱石を一杯になるまで詰めるのだ。それだけの量の石が掘れるのかどうか、坑道を見た限りでは疑問でしかなかった。
「……ま、やるしかねぇか」
「此処、結構柔らかいねェ。剣でも掘れるよ」
ネフェロは突き当たりの壁を剣の切っ先で突いた。
黒ずんだ石がぽろりと落ちてきて、彼の靴先に当たった。
麻袋をランプと一緒に作業の邪魔にならない位置に置いて、フィレールは鶴嘴を構えた。
「オレが掘るから、お前は石を拾って袋に入れていけ」
「はっくしゅん」
返事の代わりにくしゃみをするネフェロ。
すんと鼻をすすって、彼は辺りを見回した。
「ねェ……何か寒くない?」
「ああ? そりゃ山の上の方だからな。寒いのは当たり前なんじゃねぇのか?」
彼らがいる坑道は、標高がそれなりの場所に位置している。
今回は空路を使ったため此処まで来るのに苦労はしなかったが、此処は本来ならばそれなりに登山の準備をして訪れる場所なのである。
ネフェロは剣を壁に立て掛けると、その手でフィレールを背後から抱き締めた。
びくっとフィレールの全身が強張った。
「ちょ、何だよ一体。ひっつくな!」
「やっぱ寒い時は人肌に限るねェ」
狼狽するフィレールを更に強い力で抱き締めて、ふふっと笑う。
まるで恋仲の男女のよう……に、見えなくもない。
鶴嘴を持つ手をぷるぷると震わせて、フィレールは怒鳴った。
「動けねぇだろが! 離れろ!」
「えー、だって寒いんだもん」
「そんなの体動かしてりゃ自然とあったまるっての!」
がー、と両腕を振り上げて、フィレールはネフェロの束縛から逃れた。
「仕事するぞ! おら!」
「えーん、フィレールが冷たいー」
「ガキみてぇに言ったって可愛くねぇからな! いい歳こいてしょうもねぇ真似はやめろ!」
ネフェロの頭を小突いて、フィレールは鶴嘴を構え壁と向き合う。
彼らが真面目に作業に着手するのは、もう少し先のことのようである。
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