第22話 いざ、鉱山へ

 翌日。その日も朝から空は綺麗に晴れていた。

「それじゃ、これ。お弁当」

 ミラノは大きな葉で作った包みをフィレールに手渡した。

「怪我には気を付けなさいよ」

「ああ」

 鶴嘴を担いだフィレールは片手で包みを受け取り、見送りに集っている一同の顔を見回した。

「オレらがいない間、しっかりやるんだぞ」

「シャロン、皆のこと宜しくねェ」

 ネフェロの言葉にシャロンは腕を組みながら頷いた。

 2人の後方では、アノンが地面に座った格好で待機している。彼らの挨拶が済むのを待っているようだ。

「いーっぱい石採ってくるから、期待しててよ」

「遊びに行くんじゃねぇんだ。ちっとは気を引き締めろよ、お前は」

「あはは」

 フィレールに肘で脇腹を小突かれ、ネフェロは後頭部を掻きながら笑った。

「そんじゃ、行くか。──アノン、頼む」

「了解した」

 剣を握り締めるアノン。

 黒服の若者から一瞬で巨大な竜に変身を遂げた彼は、地面に伏せる格好を取った。

 翼の付け根の辺りにフィレールが跨り、更にその後方にネフェロが座る。

 2人を乗せたアノンはゆっくりと首を持ち上げて、翼を大きく広げた。

「行ってらっしゃいー」

 ロネは3人に向けて大きく手を振った。

 宙に舞い上がったアノンは、南の空に向けて飛行を開始した。人を乗せているからか随分とゆっくりした羽ばたきで、森の上すれすれを撫でるように飛んでいく。

 ロネたちの視界内からその姿が完全に消えたところで、シャロンが口を開いた。

「さて、我らも仕事をせねばな」

 腰のナイフを抜き、彼は材木置き場の方へと歩いていった。

 セレヴィは背広の上着を脱ぎ、竈の傍に置かれていた木の桶を手に取った。

「私は畑の方を見てきますね。アノンさんの仰っていた通りなら、作物の収穫ができるはずですから」

「ぼくも手伝うね」

 セレヴィの隣に移動して、彼の顔を見上げるロネ。

 セレヴィは微笑み、頷いた。

「宜しくお願いします」

「そういえば、クレテラは何処に行ったの? 朝から見かけないんだけど」

 ミラノの疑問に、セレヴィは小首を傾げた。

「言われてみれば……今日はお見かけしていませんね」

「また出かけるなら次は調理道具を持って来てって頼もうと思ってたのに」

 クレテラはこの場を留守にすることが多かった。

 その殆どが物資調達のためなのだが、彼は一体何処からどのようにして道具や備品を手に入れているのだろう。

 格好といい言動といい、謎の多い人物である。

「……ま、いいわ」

 ミラノは肩を竦めて、竈の前でしゃがんだ。

 焼け残っている薪を掻き出して竈の中を綺麗に掃除し、新しい薪を入れる。

 これは毎回料理の仕度をする前に彼女が行っていることだ。

 何度もやっているためか今ではすっかり慣れた火点けの作業を行い、竈に火を点して、竈の上に水を満たした鍋を置く。

 火を眺めつつ、顎に手を当てて彼女は呟いた。

「さて……昼御飯は何作ろうかしら」

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