第21話 アノンの期待
「──帰ったんだな」
天幕のカーテンを寛げて、クレテラは背負っていた荷物を中に運び入れた。
「使えそうな道具を探すにも一苦労なんだな。まあ、何もないよりはいいけれど」
「お帰りー」
天幕の中にはアノンの他にネフェロがいた。
座を移すネフェロの横に荷物を下ろして、クレテラは一息ついた。
「これだけあれば、当面は凌げそうな感じなんだな?」
「──鶴嘴(つるはし)か」
椅子から降りてアノンは床上に広げられた荷物に手を伸ばす。
鶴嘴。鋸(のこぎり)。草刈鎌。どれも長く手入れをされていなかったのか錆が浮いてぼろぼろだ。
鶴嘴を手に取り、軽く振り下ろす動作をして、彼は言う。
「新しい道具を作るまでの一時凌ぎだな」
道具に興味を示しているネフェロの方に身体の正面を向けて、
「──そういうわけだ。あんたには、明日鉄鉱石を採りに山の方に行ってもらいたいんだが」
「オレ?」
自らの顔を指差すネフェロ。
アノンは頷いた。
「フィレールと2人で行ってもらう予定だ。1日だけだし、現地までの送迎は俺がやる。そう難しい仕事じゃないと思う」
「1日だけでいいんだ?」
「あまり長期に渡って此処を留守にされても困るんでな」
鶴嘴をネフェロに手渡し、地図を取り出すアノン。
紙面を広げて、下の方に描かれている山を指差す。
「モノイの北部──此処に鉱脈がある。以前にも何度か掘りに行った場所でな、坑道は今でも生き残ってるはずだ」
「ん。分かった」
鶴嘴を片手にネフェロは立ち上がった。
「あ、オレたちの方で何か準備するものはある?」
「特にない。強いて言うなら現地で食べる食事くらいだな」
「りょーかい。ミラノにお願いしてくるねー」
ネフェロは天幕の外に出ていった。
「2人で大丈夫なんだな?」
小首を傾げるクレテラに、アノンは地図を畳みながら答えた。
「力仕事を任せられるのが他にいないんだ。1日限定なら、少人数でも何とかなるだろう」
確かに、セレヴィやミラノには力を使う仕事は向いていない。
ロネは子供なので論外。シャロンはセレヴィたちと比較すればまだ動ける方だが、彼はどちらかというと手先を使う仕事の方が向いている感がある。
使える人員が限られているので、どうしてもそういう考えになってしまうのである。
「2人だけでどれだけの石が掘れるか、そこが懸念といえば懸念だが──」
アノンは元通り椅子に座り、背凭れに身を預けて深呼吸をした。
「いつかは誰かがやらなければならない仕事だ。成果に期待して任せようじゃないか」
「了解したんだな」
クレテラは頷いて、草刈鎌と鋸を天幕の隅の方に片付けた。
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