第24話 実りの収穫
先日種を蒔いた畑は、ものの見事に成長を遂げていた。
たわわに実った胡瓜やトマトが、太陽の光を浴びてぴかぴかに輝いている。
畑に到着したセレヴィは、桶を足下に置いてYシャツの袖をまくった。
「これはまた……見事なものですね」
「わー、大きくなってるー」
ロネははしゃぎながら畑に足を踏み入れて、手近なところに生えているトマトを手に取った。
「ねえ、これ全部採っていいの?」
「いいですよ」
「やったー」
帽子を脱いでそれを袋代わりに、ロネはトマトを1個ずつ手でもいで入れていく。
セレヴィも身支度を整えて、畑に入り野菜を収穫していった。
胡瓜。トマト。茄子。とうもろこし。
どれも実が詰まっており、粒が大きい。
良質の肥料を与えて丹精込めて作った作物と寸分劣らぬ出来栄えだった。
「肥料がなくても生育には問題がないのですね……これも血眼者の能力の影響によるものなのでしょうか。ううむ」
まっすぐに伸びた胡瓜を手に、セレヴィはぶつぶつと口内で小さく呟いている。
学者は探究心の塊だ。些細なことでも目に付いたことは気にせずにはいられないようである。
「んんー」
ロネはとうもろこしを両手で掴み、もごうと腕に力を込めている。
茎が大きく撓り──ぱきっと音を立てて、とうもろこしは綺麗に茎から離れた。
「取れた!」
収穫した野菜たちは、ひとまず畑の外に積んでおく。
小さな畑であるにも拘らず、収穫量はかなりのものになった。1度でキャンプには運びきれない量だ。
大体の収穫を終えた2人は、山になった野菜を見つめて、ほうと一息ついた。
「結構な量になりましたね」
「ミラノのところに持ってく?」
「そうですね。少しずつ運びましょうか」
「はーい」
両手で抱えられるだけの量を抱え上げ、2人はミラノが待つキャンプへと戻った。
ミラノは竈の前で、薄切りにした鹿肉を焼いていた。
ロネが声を掛けると、彼女は顔を上げて彼の方を見て、
「え……畑から採ったやつ? 随分大きいわね」
「まだまだいっぱいあるよー」
麻袋を地面に敷き、その上に収穫物を置く。
すぐに畑に踵を返すロネの背中を見送って、セレヴィは掛けていた眼鏡の位置を正した。
「結構な量があります。傷まないように保管する方法を考えなければなりませんね」
「そうねぇ」
とうもろこしを1本手に取り、ミラノはしばし考え込んだ。
「冷蔵庫があれば良かったのに」
「川の水で冷やします? 何もしないよりはましになると思いますが」
「そうね。現状だとそれくらいしか方法ないわよね」
川がある方向をちらりと見て、彼女は言った。
「こういう時荷車があると便利なのよね。調達できないかしら」
「……流石にそれは難しいのでは」
「作ってもらうって手もあるか。何にせよ、今のままじゃ色々と不便で仕方ないわよ」
ぱちんと竈の火が爆ぜた。
焼いていた肉を裏返しながら、彼女はふうと息を吐く。
「土地を開拓するにしても、まずは周囲の環境を整えなきゃ。何もない状態だと、それこそ何もできないじゃない」
「……そうですね」
野菜を両手に抱え戻ってくるロネを見つめながら、セレヴィは呟いて思考を巡らせる。
ミラノの言葉に、何か思うところがあったようである。
しばし考えた後、急に弾かれたように、彼は天幕へと向かった。
「アノンさん」
カーテンを寛げて、中にいるアノンを呼ぶ。
怪訝そうに視線を向けてくるアノンに、セレヴィは言った。
「御相談したいことがあるのですが──」
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