第16話 早急の課題
「そうか……」
それなりの量の塩を持って帰還したアノンにブリスタの一件を伝えると、彼は特に驚いた風もなく返事を返した。
「俺のことで迷惑を掛けたな」
「それは全然構わねえんだけどよ」
フィレールはがしがしと後頭部を掻きながら、アノンが手にしている剣を見た。
「作業の邪魔になるのが血眼者だけじゃねぇって、また厄介なことになったもんだな」
「それに関しては大丈夫だ。連中は、俺以外には見向きもしないからな」
アノンは雑然としている生活用品の山に手を伸ばし、蓋の付いた瓶を選んで手に取った。
膝の上に乗せていた葉包みの紐を解き、中に入っている塩を少しずつ瓶へと移し変えていく。
塩は、瓶が一杯になる程度の分量があった。
瓶を傍らに置き、彼はフィレールに視線を向けた。
「連中が開拓の作業を妨害してくることはない。そこは安心していい」
「ブリスタは『武器』にしか興味がないんだな。開拓に関してはどうでもいいって考えてるんだな」
持ち帰った袋の中身をひとつずつ広げていくクレテラ。
ハンマー。釘。植物の種。何かの苗木。木の桶。年季の入った品々が次々と顔を出す。
「そういえば、開拓の方は順調なんだな?」
「とりあえずはな」
クレテラの問いかけに、フィレールは頷いて答えた。
「木の切り出しをメインに今やってるところだ」
「種と苗木が手に入ったから、畑が作れるんだな。食糧確保のためには畑は必須なんだな」
「分かった。そっちはセレヴィとミラノにやらせる」
クレテラが差し出してくる植物の種と苗木を、彼は受け取った。
「鍬とかは流石にねぇよな?」
「シャベルならあるんだな。鍬は……あった方がいいんだな?」
「あった方がいいだろうな」
フィレールが口を開くよりも先に意見を述べるアノン。
彼は生活用品の山からシャベルを見つけて引っ張り出し、それをフィレールへと渡した。
「鉄が手に入れば、道具が作れるようになる。それまでの間はそれで我慢しててくれ」
「分かった。なるべく早めに頼むぜ」
シャベルを肩に担いで、フィレールは天幕の外に出て行った。
「……鉄の確保が早急の課題だな。やはり採掘は早めに行かせた方がいい」
呟くアノンに、渋々といった様子でクレテラは頷いた。
「……分かったんだな。早いうちに皆に話をして、人選するんだな」
「そうしてくれ」
雑多な品々に目を向けて、アノンはゆっくりと息を吐く。
今ある物資だけで開拓生活を乗り切るのは難しいと、改めて実感した彼なのだった。
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