第13話 塩を手に入れよう
「……んー」
朝、ロネが目を覚ますと天幕の中はもぬけの殻だった。
足が不自由だと言っていたアノンの姿もなかった。
ロネは寝癖の付いた赤毛を引っ張りながら、帽子を片手に天幕の外に出た。
「あ、起きたね。おはよー」
ふりふり、と片手を挙げて気さくに挨拶するネフェロ。
皆は、壊れた竈を囲むようにして集まっている。その中には、剣を左手に握り締めて地面に座するアノンの姿もあった。
まさかまた血眼者が出たのか、と思いつつ、ロネは帽子を被って金髪頭が居並ぶ場所へと歩いていった。
「……で、本当に何とかできるの? 調味料」
ミラノは期待を込めた眼差しでアノンのことを見つめていた。
調味料?と訝りつつ会話の輪に入るロネをちらりと見つめ、アノンはゆっくりと頷いた。
「塩くらいならな」
言いながら彼が取り出したのは、此処ら一帯の地形が記されている古めかしい地図だ。
彼は地図を地面の上に広げ、ある一点と、陸地の端を線で繋ぐように指差した。
「此処からそう遠くない場所に海がある。海水を調達できれば、それなりの質の塩が作れるだろう」
「塩だけかよ」
「他の調味料は、作るとなるとまず畑から興す必要がある。すぐに作れるものといえば塩だけなんだ。流石にクレテラも、調味料までは調達できないだろうしな」
そのクレテラは、席を外しているのか一同の中には顔がなかった。
昨日毛布や食器を持って来た時のように、何処かへと出かけているのだろう。この何もない環境下で物資が手に入る行き先があるというのが驚きであるが。
「塩が必要なら、今から海に作りに行ってくる。その間は此処を留守にすることになるが……万一血眼者が襲ってきた時は、あんたたちで対処してもらうことになるが、大丈夫か?」
ミラノたちは互いに顔を見合わせた。
血眼者は、基本的にアノンが持つ武器でなければ致命傷を与えることはできない。
男たちはある程度ならば戦う技術を会得してはいるが、相手が血眼者となると、一筋縄ではいかないのだ。せいぜい相手を追い払う程度に留まってしまうだろう。
それを聞かされていた彼らは、気難しげに眉間に皺を寄せた。
「2、3時間くらいだったら、血眼者が来ても我らだけで対処できるとは思うが……長時間となると厳しいな」
いの一番に懸念を漏らしたのはシャロン。
この面子で最も戦い慣れしているのが彼だ。その彼が難色を示すとは余程今回の申し出が問題のあることなのだろうということが、ロネにも理解できた。
「塩、そんなに必要か? ま、あった方がいいってのは分かるけどよ」
腕を組み、ミラノの顔をじっと見つめるフィレール。
そんな彼に、ミラノは堂々と反論した。
「何言ってるのよ。ずっと味気のない食事ばっかりってのは嫌でしょ」
「確かに、味のない料理は嫌だねェ」
かりかりと後頭部を掻いてネフェロは竈を見つめた。
あれから吹っ飛んだ石を集めて組み直したのだろう。少々歪ではあるが元通りに組み上げられた竈の上に、肉の塊が置かれている。
どうやら、この肉をどう処理するかで持ち上がった話のようだ。
「塩ってさ、そんなに作るのに時間がかかるものなの?」
「海水を大量に此処に運べれば、そう長時間は此処を空けずに済むんだが」
ネフェロの問いに答えるアノン。
「まともに使える容器が鍋しかなくてな。まとまった量の塩を確保しようとなると、どうしても現地で作りながらじゃないと効率が悪くなるんだ」
「成程ねェ」
「……ったく、仕方ねぇな」
はあ、と溜め息をついて、フィレールはアノンに視線を移した。
「行くならとっとと行って来い。その間はオレたちだけで何とかやってみせるからよ」
「了解した」
アノンは頷くと、剣を持つ手に力を込めた。
黒い翼がアノンの背に現れる。彼はそのまま宙に飛び上がると、天幕へと移動していった。鍋を取りに向かったらしい。
「というわけで、飯だ飯。ロネ、おめぇは串の代わりになる木の枝を拾って来い。セレヴィは水汲みだ、ぼさっとすんな。ネフェロは──」
フィレールの指示を受けて、皆は頷いてそれぞれの仕事ができる場所に散っていった。
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