第11話 初めての食卓

 竈に突き立てられている岩魚の串焼きを1本手に取って、ミラノは皆の方に振り向いた。

「魚焼けたわよ」

「その蛇どうすんだ。此処に置いといても邪魔なだけじゃねぇか」

 竈の横に転がっている蛇の死骸を見やって誰にともなく問いかけるフィレール。

 さあねぇ、とのんびり呟いて、ネフェロは腕を組んだ。

「置いとけば肥料になるんじゃない?」

「血眼者だぞ。普通の動物と一緒に扱うなってぇの」

 ちっと舌打ちをして、フィレールは周囲を見回した。

「アノンの奴、処理するなら最後までやれってんだよ。何処行ったんだあいつ」

「クレテラ殿がテントの方に連れて行ったのを先程見かけた」

 ミラノから串焼きを受け取ったシャロンが、言う。

「休んでいるのではないか?」

「……御飯食べないのかな?」

 傍らのセレヴィに疑問を投げかけるロネ。

 セレヴィは小首を傾げて、小さく唸った。

「後で食べるのかもしれませんね」

 串焼きが全員に行き渡ったところで、ミラノがさあと声を張った。

「焼いただけの簡単な料理だけど。頂きましょうか」

「自然の恵みに感謝を」

 串焼きを拝むようなポーズを取り、シャロンは目を閉じる。

 それに影響されたか他の面々も、簡単に祈りを捧げる動作をした。

「いただきます」

 ロネは串焼きを頬張った。

 ぱりっと焼けた皮が香ばしい。炭火焼の芳香が鼻孔を抜けて口の中に広がる。

 程好く乗った脂が食欲をそそる。

 火で炙っただけの簡単な料理ではあったが、全身を動かして疲れた身体には丁度良い脂であった。

 とはいえ、やはり。

「……塩が欲しいねェ」

 唇に付いた髪を指で払い除けながら、ネフェロが呟く。

「仕方ないじゃない。此処、調味料もないんだから」

 ミラノは肩を竦めた。

 傍らに置かれている鹿肉の山を見つめて、

「この分だと、肉料理も味気ないものになりそうね」

「食事があるだけ有難いと思わねばな」

 シャロンは自らの腹を掌で撫でた。

「腹を存分に満たせることの方が少ないのが狩猟生活だ。贅沢なぞ言っていられぬ」

 それは、狩猟民族の彼だからこそ言える台詞であろう。

 恵まれた生活を送ってきた文明人たちには、その言葉は受け入れるにはやや重いものであった。

「……明日にでも、相談してみるわ」

 ミラノは言って、大きな口で串焼きを頬張った。

 こうして初めての狩猟生活での食卓は、時が過ぎていくのであった。

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