第9話 横一列の仲間
ふー、と息を吹き込むと、ぱちっという弾けた音がして小さな火が燃え上がった。
「点いた!」
ロネは歓声を上げた。
火種が尽きないように、草や葉っぱを周囲に集めて火が燃えやすい環境を作る。
顔を上げると、笑顔のミラノと視線がぶつかった。
「頑張ったわね」
「うん!」
立ち上がり、自分が火を点けた竈を誇らしげに見つめる。
自分も、このサバイバル生活に貢献できた。そう思えることが、純粋に嬉しかった。
ミラノは葉包みから岩魚を取り出すと、まな板の上に置いた。
「さ、料理料理」
「手伝いますよ、ミラノさん」
背広を脱いだセレヴィがミラノに申し出る。
大丈夫、とミラノはかぶりを振って、言った。
「あ、焼くだけだから。大丈夫よ、ありがとう」
「ふぅ」
血と肉の臭いを全身に纏わせたネフェロが、剣を片手に彼らの元へとやって来た。
「いやー、捌くのって結構体力使うんだねェ。こんな風に剣を使うことなかったから、大変だったよ」
純白の鎧は、血が全体に付着してどろどろになっていた。獲物を仕留めた時と比較しても此処まではなるまい。
解体処理された鹿の毛皮を抱えたシャロンが、呆れ声でネフェロを呼ぶ。
「ネフェロ。川に行って洗って来い。臭いが染み込んで落ちなくなる」
「はいはーい」
のんびりした返事をして、踵を返すネフェロ。
何となく興味を引かれたロネは、そんなネフェロの後に付いていった。
「んー、どした? ロネ君」
「洗うところ、見ててもいい?」
「いいよー。面白いものは何もないと思うけどねェ」
川に到着したネフェロは、剣を置き、鎧を脱いだ。
篭手を外し、腰当てを外し、靴を脱ぎ、それらをまとめて川の水へと浸す。
半袖のインナー姿になったネフェロは、鼻歌混じりに鎧を掌で擦って洗い始めた。
「ねえ」
「うん?」
ネフェロの横で三角座りをしながら、ロネは彼に尋ねた。
「どうして鎧を着てるの?」
「あー。これはねェ」
ネフェロは洗い物の手は止めずに、ロネの問いかけに答えた。
「礼服なの」
「礼服?」
「そ。オレの国でやってる祝祭の、礼服」
ざぶ、と篭手を水から上げて、汚れが残っていないことを確認し、川辺に置く。
「メルキムナムドって知ってる?」
「ううん。知らない」
「世界でも南の方にある島国なんだけど、そこでは年に1回大きなお祭があるんだよ。その時に、その国の王族は皆こういう格好をするの。昔からのしきたりみたいなものでさ……今時鎧なんて珍しいもの着るよなって思うよね」
「……王族?」
ロネは目を瞬かせた。
「ということは、ネフェロって王様なの?」
「いや、オレは単なる王位継承者。平たく言うところの王子様ってやつ? 王様はちゃーんといるよ」
綺麗に磨いた鎧を川辺に置き、ネフェロは剣を手に取った。
幅広の刃が立派な両刃剣だ。鹿の解体に使ってすっかり汚れたそれを水面に沈め、彼は丁寧に刀身を掌で磨く。
「あ、オレは王子だけどガラじゃないって思ってるから。威張る気なんてこれっぽっちもないし。だから普通にサバイバルの仲間として扱ってくれると嬉しいかな」
「うん」
「ありがとねェ」
磨き終えた鎧一式を元通り身に着けて、剣は腰の鞘に戻し、彼は川から上がった。
座っているロネに手を伸べて、微笑む。
「洗濯おしまい。戻ろっか」
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