第3話

そのほんの数秒後、スウーっと、一呼吸した彼女の口からは、信じられないくらいリアリスティックな言葉が弾丸のように僕に向かって吐き出された。


「ニンゲンにはあるんだよ 裏表の顔

 ねえそれも嘘なんでしょ 信じれない♪」


初っ端からあの話のことが出てきた。ここから詞を広げていったのだろう。


「『君のすること 間違ってない』

 そんなことない 周りよく見ろ 考えろ♪」


ああ、ここだったのか。「『間違ってない』って言ってくる奴」が周りにいるから、ちゃんと人を見て考えろってことか。


「ああ日々は小さいあたしに気づかずに

 他のものだけ流してく♪」

「ああせめて心の痛みだけでもいい

 私から消し去って♪」


サビの悲痛な叫びが、心にズドンとくる。


「夢なんて 辞書的には 美しいけど

 現実的にはちっとも 綺麗じゃない♪」


ドキリとする。確かに。夢なんて、叶えようと行動に移しだしたらもう現実だ。それもかなり重たい。この歳でそれを感じてしまうとは。


「『君のすること 間違ってない』

 そう言う奴が 間違ってる 気付いたんだ♪」


間奏なのか、少し間が開く。目を瞑っている彼女の頭の中には、確かにメロディーが流れているのだろう。


「ああ日々は小さいあたしを見逃して

 他のものだけ流してく♪」

「ああだからって立ち止まっているのは

 自分が足を踏み出さないから♪」


綺麗なビブラートが朝の静寂の中に響く。

ーーやはり、彼女の声には、力がある。初めて耳にしたときの様に、身体がビリビリと震える。


「ああ日々は小さいあたしを流さない

 だから自ら飛び込もう♪」

「ああ顔上げて 前に進むためには

 ほら光が見えるはず♪」


…あれ、そういえば大サビは落ち込んでいる少女の心境ではない。むしろプラス思考ではないか?

「…最後の大サビあたりはね、お兄さんに会ってから考えた。お兄さんに会わなかったら、この歌できてなかったかも。」えへへ、と嬉しそうに言う。

「手段は違うけど、同じ人を救うって夢を持ってて。自分の歌に力があるって応援してくれて。お兄さんみたいな人、初めて。オーディションの審査員も、親友まであたしのことを認めてくれなかった。でも、お兄さんが強く認めてくれたおかげで、すごく自信がついたよ。」

ウロウロとしながら話していたのが、急に立ち止まった。そして今日一の笑顔でこう言った。

「ありがとう。今日お兄さんと出会えて、本当によかった。あたしすごい幸せ者だよ。」

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