全然ファンタジーじゃない童話物語だけど多分これが現実。

@minatu26

第0話 やはりこんな童話物語は間違っている


目の前の「それ」は、こちらを見ると「ぢゅふりぃぃ」と汚い声で嬉しそうに鳴いた。ヌメヌメと粘着質でおぞましい音をたてるゼラチン質の触手は、「それ」の恐ろしさをより一層際立たせている。

こういう生物を、RPGなどではローパーとでもよぶのだろうか。もっともそのローパーが一心不乱に見つめている先には鎖でつながれた少女がいる。状況はRPGというより、凌辱モノのエロゲーといったほうが近いだろう。

・・・うん、我ながらこのふざけた状況を表現するには的を得た素晴らしい表現だと思うがーーー鎖でつながれた少女が自分であるという現実を見ると全く笑えない。その少女・・・即ち私こと、小日向こひなたあかねは残念ながらこの状況で次に何が起こるのかわからないほどのピュアな心は持ち合わせていない。分かってる。きっとこれから私にその汚い触手でいやらしいことする気でしょッ!エロ同人みたいにッ!エロ同人みたいにッ!

「・・・嗚呼」

思わず口からため息がこぼれる。アハハ・・・なんだこれ。やっべー。走馬燈みたいなの見えてきた。記憶の彼方に霞んでた父さんや母さんの面影がみえてくるまである。・・・小さい頃はキャベツ畑やコウノトリを信じる純粋な少女だった。絵本で読んだ王子様に憧れて、彼みたいな人が私の目の前にも現れてくれると信じて待ってたっけ。それが今ではこのざまである。ごめんなさい、父さん、母さん。やっぱり私はまともな世界では生きられないようです。・・・さようなら、私の王子さま。さようなら、純情可憐だった私。さようなら、・・・明るい世界。そしてこんにちは、アブノーマルな世界。いままでありがとう・・・。そして、全ての子供達に・・・。

・・・一人私が脳内で人生のエンドロールを流していたその時。ーーー奇跡は起きた。確かに、この世界は幼少の頃の妄想のような綺麗な世界ではないかもしれない。私の事だけを一心不乱に見つめてくれる王様だって存在しないかもしれない。しかし綺麗でない世界だからこそ、私の能力ちから・・・女神ヒロインの血脈と異能力は世間に露呈されずに済んでいる。王子様はいないかもしれない。しかし、このご都合主義に満ち満ちた世界に女神ヒロインしか存在しないなんてことはどうしてあり得ようか。それこそが、私に切れる最後の切りジョーカー女神ヒロインの対なる存在、英雄ヒーローである。

絶望で塗りつぶされた色のない世界。しかし、かすかに私を呼ぶ声がする。その声に呼応するかのように私の世界は色を取り戻す。

「・・・茜ぇぇぇぇッ!」

彼の声がはっきりと聞こえたその時、色を取り戻した私の視界に飛び込んできたのは先ほどまで壁だったはずの大岩が、ガラガラと崩れていく様子だった。

「茜ッ!無事かッ!」

切羽詰まったような様子で走ってきたのは、さしもの英雄ヒーロー・・・虚口うろぐちさとるだった。よほど焦っていたのだろう、普段の不遜な素振りは全く見受けられない。しかし、近くにきて私の安否を確認すると安心したように顔をほころばせている。だから私はそんな目の前の英雄ヒーロー、悟に今できる最大限の笑顔を作って、言った。

「あなた、私にこんな仕打ちしておいてよく目の前に現れられましたね。」

と。もちろん目は笑っていない。確かに、この状況から私を助け出したのはこいつだ。本来なら感謝してもしきれない相手だろう。・・・。何と、こいつは味方である私を、この変態の住まう洞窟に突き落としたのである。

「なんであんなことしたんですかッ!」

と詰め寄る私に、悟は毅然としてこういった。

「ハァ?馬鹿なの?死ぬの?これがお前の使えない能力ちからを有効活用できるただ一つの手段だろ?こっちは、ずっとこれでやってきてんだよ!」

まるで、違法に賃金を取り立てする闇金業者のように開き直って言い返す悟に私は呆れてものも言えない。すると、悟は勝ち誇ったような顔をしながら

「まぁ、お前も使えないなりにがんばったみたいだし?これから毎日俺を崇め奉るのと引き換えに目の前の触手野郎へんたいやろうをぶっ潰してやってもいいぜ?」

ブチンッ!頭の中で何かが切れた音がした。

「ふざけないで下さいよッ!何ですかッ崇め奉るって小学生ですかッ!仮に百歩・・・いいえッ百万歩くらい譲って私の仕事が危険を予め察知するための炭鉱のカナリア的な役回りだとしてもその仕事はもう終わったでしょ!だったら次は貴方がアレ倒すべきですよねッ!?」

「おまっ・・・まんpって・・・仮にも女子なんだから、もう少し慎みをだなほぐぅッ?!」

鎖を外して自由にしてもらうまでは我慢するつもりだったが無理だった。今入れた蹴りは間違えなく、今までで最高の入り方だと思う。

「っ、つつ・・・καριόλα・・・そんな力あんならお前が倒せばいいだろ・・・」

「あぁん?なんか言いましたかね?」

「わかってる、わかってる。落ち着けって。な?怒るとシワ増えるぜ?」

「あなたのせいでしょッ」

「グゥオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ」

「うるせぇよだまってろ」「うるさいですだまっててください」

「・・・・・・グゥ」

いけない、白熱しすぎてローパーのこと忘れてた。

「はぁ・・・わーったよ。取りあえずアイツ邪魔だし倒してくるわ。」

「さすがにひどい言われようでこのまま殺すのは心が痛みますがまぁしかたないですね。お願いします。」

「・・・お前も大概だがな。別にいいけど。」

そういうと、悟は大きく深呼吸をして、

「・・・やるか。」

その能力ちからを解放した。そして悟は、・・・私の英雄ヒーローはローパーに向かって

「おォォォーーーーーーーーーーい!ロォォォーーーーーーーーーパァァァッ!お前が捕まえたその女は・・・」

「・・・・・・は?」「・・・・・・ブォ?」

ーーー会心の一撃を放ったのだった。

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