第3話人間の村にたどり着いたそうですよ?

アルスは森に転移してわずか数分後、ある生き物に襲われていた。


 「グギャアアアアアアアアアアア!」

 「ぬおああああ!」


 その生き物の名は『魔獣』。体に魔素と言う物質を取り込み、凶暴化した獣である。


 「グルアアアア!」

 「危なあああああ!」


 今アルスを襲っている魔獣の名は『キラータイガー』。体長2.7mの巨体で有りながら、虎だったときの身体能力が魔素により強化されて三次元立体機動を可能にした危険度S+の化け物である。アルスの周りを木々を利用して飛び回り、死角から必殺の一撃をお見舞いしてくる。


(このままでは不味いな・・・くそ、速すぎて直前で回避するのが精一杯だ!何かないのか?何か・・・)


 アルスはズボンのポケットの中をまさぐる。そして手に当たった物を勢い良く取り出した!


「ハンカチ~(ダミ声)!駄目だ使えない!財布~(ダミ声)!くそ、全財産32円の我の財布に何を期待しろと!?」


 ・・・意外と余裕そうである。


「セイラにお小遣い止められてたのだっ、たあああああ!?」


 そんなどうでもいい事を思い出しつつ、アルスはキラータイガーの攻撃を避けながら十円玉を取り出す。


「くらうがいい!セイラに隠れつつ『ラノベ』なるものを読んでヒロインの技を格好いいと思って真似したら家の壁に穴をあけて雑草生活一ヶ月を言い渡された我の全財産の約三分の一の必殺技!」


超電磁砲レー〇ガン!」


 ・・・まんまである。

 兎も角、とある科学のようにアルスは十円玉を人差し指にセットして親指で弾く用意をする。同時にキラータイガーがアルスの後ろから飛び掛かったが・・・


「攻撃がワンパターン過ぎであるぞ、猫風情が(キリッ)」


 アルスはキメ顔を(誰も見てないにも関わらず)しながら親指で十円玉を弾く。次の瞬間、キラータイガーの頭は跡形もなく吹き飛んだ!

 力なく崩れ落ちた首のないキラータイガーを見ながらアルスは呟く。


「さよならだ・・・我の十円・・・」


 キラータイガーの頭を消し飛ばすのと同時に蒸発した十円玉を名残惜しそうにしていた。


「ううう・・・我の十えええええええん!」


 ・・・割と本気で。



 閑話休題立ち直った



 異世界だから地球の硬貨って使えないじゃんという基本的な事に気がついたアルスはようやく立ち直った。


(しかし、結構久しぶりに魔力を使ったな・・・)


 先程の「超電磁砲レー〇ガン」、あれはアルスが体に雷属性の魔力を纏わせて十円玉を弾く技である。威力はキラータイガーの末路を見れば分かる通り強力。しかし、デメリットもある。それは・・・


 「ぬう・・・これでは金属に暫く触れられぬな。あのバチッ!と来る感覚はそうそう慣れん」


 アルスは静電気が溜まった服を見て溜め息をこぼす。凄くどうでもいいデメリットだった。

 

「しっかし、やはり魔力を使うと喉が渇くな・・・そこの獣の血でも飲むか」


 アルスは頭の無いキラータイガーの胴体に牙を突き立て血を吸う。


(まあ、人じゃないからセーフセーフ)


 キラータイガーの血を全て飲み干し、力と喉の潤いと保存食を手にいれたアルスはキラータイガーの死体を自分の影に取り込む。流石は吸血鬼、自分の影に物を取り込む事など造作もない。


「さて、あの神である少年によると西に行けば人間の村にたどり着くのであったな」


 アルスは周りを見渡す。前、木々に覆われている。右、木々に覆われている。後ろ、木々に覆われている。左、勿論木々に覆われている。上、木から生い茂る葉っぱで太陽が見えない。

 ゆえに・・・


「西ってどっちだ?」


 アルスが迷うのも無理は無かった。

 そうだ、空を翔ぼうとまるで京阪のCMばりに軽く方針を決めてアルスは翼を出そうとする。


「むう・・・なかなか出ないな。ふん、ふん、ふうううううん!」


 アルスが力むと遂に翼が背中から出てきた。

 ・・・身に纏った制服の背中部分を破いて。


「ああああああああ!忘れておった!」


 ブレザー、Yシャツ合わせて24000円がパーになった瞬間である。

 はあ・・・またセイラに怒られると溜め息をつきながらアルスは空へと飛び立つ。


「痛、痛っ!あ、ちょ、枝が顔に当たって痛いわ!」


 なんというボケの二段構え。どんなときもボケをかます!それがアルスなのだ!



  閑話休題調子乗りました



 心身(主に心)共にボロボロになったアルスは空から森を見渡す。すると、すぐ近くに森が切れている所を見つけた。その方角に進路を合わせ翔んでいると、遂に村を見つけた。


 「いかんな。翼を隠しておかねば・・・よし」


 アルスは降りて翼をしまい村まで歩いていった。


「止まれ!何者だ!」

「ああ、すまない。我はアルス・バーンシュタイン、色々な所を旅する旅人だ。道に迷ってしまってな。歩いているうちにここへ着いたのだ。」

「何か身分を示すものはあるか?」

「・・・ない、な。しかし、お前らに害を及ぼすつもりは無い。それだけは信じてくれ。」

「・・・身なりを見る限りでは山賊ではないようだな。武器も持ってない。しかし、俺だけじゃ対応しきれん。村長の所へ一緒に来てもらおうか」

「分かった」


 アルスは無事、とは言えないが一応村にたどり着く事が出来た。


「何でお前、背中だけ破れてるんだ?」

「な、ななな何でであろうな~?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る