三千世界の烏を殺し

眩しい日差しを瞼越しに感じる。

一糸纏わぬだるい身体を起こす。

今日も隣はもぬけの殻。

ベッド脇のローテブルから煙草を1本取れば火をつけ深く吸い、胸の燻りと共に細く長く煙を吐き出す。

2人で過ごす熱く激しい夜が終わり朝が来ればいつもベッドには1人きり。

シーツを触れば冷えきっていて夜明け頃にでも帰ったのだろう。

煙草をぐしゃりと灰皿に押しつけ燻りを潰す。

心まで捧げたい相手だというのに実際は身体だけの関係というやつで。

なんと不毛なことだろう。

そんな関係になってしまえば望む関係にはなれないことは分かっていたのに。

でも心が自分に向くことがないこともずっと前から分かっていたのだ。

だからせめて触れてもらえるなら、触れられるなら何でもいいと今の関係を望んでしまった。


しかし、人間というものは欲張りで1つ願いが叶えばまた新たな欲が顔を出す。

触れ合う時はその熱に身を焦がし酔いしれ、終われば虚しさに胸を燻らせる。

互いの欲を満たすためだけの存在。

利害の一致、都合のいい存在。

それでもいいと望んだ筈なのに未だ心臓は握りしめられる。

喉は締め付けられ目の奥が痛くなる。

身体を明け渡す度、心は蝕まれる。

それでも縋りついてしまうのはどんな存在でも隣にいたいから。

いつか心がこちらを向くのを期待せずにはいられないから。


三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい。

昔の偉大な人がそんな言葉を残したらしい。

私も朝を告げる全てのものをあなたから遠ざける事が出来るのなら隣で共に目覚めることができるだろうか。

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