矛盾

綺麗な物が好きだった。

綺麗な花、綺麗な景色、綺麗な物。

私はそれを形にして残すのが大好きだった。

花を摘み花瓶に生け、写真にして部屋に飾り、物は大切に宝箱にしまった。

幼い頃は綺麗な物は綺麗なまま残ると信じていた。

しかしいつしか終わりがくることを知った。

花は枯れるし、写真は色褪せるし、古い物は新しい物に埋め尽くされて宝箱はいつしか開くことはなくなった。

しかし物語の中の愛とはとても綺麗な物で終わりがないように思えた。

愛し合った男女は様々な困難を乗り越えながら死が2人を別つ時まで永遠に共にいる。

そんな夢物語を信じ憧れて止まなかった。


いつか私もそんな愛を見つけたいと願っていた。

まだ幼かった私は何も知らなかったのだ。

馬鹿で純粋で可愛らしい少女だったのだ。


愛にも終わりがあることを知ったのは中学3年の時だった。

私の両親は元々あまり仲は良くなくていつも喧嘩ばかりしていた。

それでも家族みんなで囲む食卓の中にはいつも笑顔と優しさが溢れていた。

私が誰かと喧嘩する事があるように両親も喧嘩くらいする。

それが少し頻度が多いだけで昔のように笑い合う姿をいつか見れる、そう思っていた。

だから、両親の離婚の話を聞いた時は信じられなかった。

これからは別々に暮らすと、それでも私達はあなたの親であることに変わりはないと両親はそう言った。

だから離婚しても私の中では何も変わらないと安心した。


現実はそうはいかなかった。

離婚した後、母は父を恨むようになった。

私が生まれる前から離婚するまでの私の知らない母の嫌いな父の話を聞いた。

父もたまに会いに行くと私の話を聞くよりも母の嫌いなところを私に話す方が多かった。

お互いがお互いと比べることで私の親として立派なのは自分だと私に認めてもらおうとしていると私は理解した。

ちゃんと理解はしていた。

しかし父も母も好きな私としては知りたくなかった両親の過去にどうしていいのか分からず、いつしか両親を愛することが苦痛になっていった。


そうして高校受験を終え無事高校生になった私はこの世の全てに終わりがくることを知った。

愛も、夢も、命も、友情も。

形あるものはいつか壊れるなんてよく聞くが形のないものもいつかは壊れる。

結局は壊れないものなど人によって作られ人によって修復を繰り返される物なのだと知った。

子供の頃夢中になって読んだあのおとぎ話ように。



綺麗に見えるあの人の顔も、聖女の様な優しすぎるあの人の性格も、作られた物かもしれないのだ。

あの日綺麗に見えた景色だって澱んだ心では同じ景色でも霞んだ景色に見える。

皮肉なことに私が大好きだった綺麗な物は永遠にはならず、永遠の美しさとは偽物でしかない。


永遠の物などないのに人は永遠を求める。

しかし永遠ではないからこそその一瞬が美しく、愛おしい。

この世は矛盾に溢れている。


人を見下し、人と比べ、普通という名の基準を作り順位を着け自分より下を見て優越感に浸る。

世界中の人間の価値観が違うから普通を決めることなど出来ないのに。

普通の意味さえ答えられないのに。

それでも人は比べることをやめられない。

そして今度は平等を唱え始める。

何と浅ましく愚かなことか。

この世は矛盾で溢れかえった混濁だ。


花は何度でも咲き、散っていく。

景色は何度も塗り変わり、この世は新しいものばかりで溢れかえる。

人は別れと出会いを繰り返し、愛を求める。

戦争の果てに未来は生まれ、人の死の上に人は生まれる。

誰かの不幸の上に幸せはあり、誰かの悲しみの上に喜びはある。

つまり、矛盾だらけの世の中に必要の無いものなどはないのだ。


私が幼い頃得た未来への希望も、知った絶望も、愛することの本当の意味も、私の命も、今も。

何もかも無駄なことなど無く、意味の無いものなどないのだ。



だから永遠ではないその中で永遠の幸せを求め生きるからこそ人は儚く美しいのである。


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