梅雨
六月は大嫌いだ。
梅雨で雨は続くし蒸し暑いし天気も変わりやすい。
この日も朝までは真っ青に晴れ渡り、降水確率は0%なんて言っていたのに帰宅途中激しい雨に襲われた。
バチバチと地面を叩きつける雨は私を濡らし髪と夏服になったばかりのシャツが肌に貼り付き気持ちが悪かった。
商店街の屋根の下まで走り空を見上げるがなかなか止む気配のない雨にため息を一つ零した。
傘を買おうにも近くにコンビニは無く、家までは少し距離がある。
仕方ない、走って帰るか。と意気込み足を鞄を頭の上に乗せた時、私の目の前を通り過ぎるはずだった誰かの足が私の前で止まった。
誰だ進行を邪魔するのは。ふと顔を上げると私の頭より少し高い位置に見慣れた顔があった。
「悠一?」
「お前ずぶ濡れで何してんの?」
家が隣同士で生まれた時からずっと一緒、言わば幼馴染みの"神崎悠一"が呆れたようにこちらを見下ろしていた。
「傘持ってこなかったの?」
「…だって降水確率0%だったし。」
「はぁ?夕方から降水確率90%って今朝言ってたぞ?」
「午前しかみてない…てか、午前が0%でいきなり90%って何よ!」
「知らねぇよ!」
「帰ってる途中に降り出さなくてもさぁ…」
「おぉ…今日は水色か。」
「は?」
悠一の視線を辿ると私の濡れたシャツを見ていて、もっと正確には胸元辺りを見ていた。
「〜〜〜〜〜ッ!!?」
「水色かー、清楚で俺は好きだな。」
「アンタの感想なんか聞いてないわよ!!」
「イッテェ!!殴ることないだろ!?」
「うるさい!バカ!変態!!」
半泣き状態で胸元を押さえてしゃがみこんでいると悠一も屋根の下に入り、仕方ねぇな。なんて言いながら部活のカバンを漁りだした。
目的の物を見つけたのかそれを引っ張り出すと私の顔に投げ付けてきた。
「ぶっ!」
「それ使えよ。」
「…タオルと上着?」
「その格好で歩いたらただの痴女だぞ。」
「う、うるさい!」
悠一にタオルを投げ返し、上着に腕を通す。
男と女の体格差によりかなりダボダボだけど今回は大きくて助かった。
余った袖の部分をくるくると折り込んでいると悠一は持ってたタオルを私の頭にかけガシガシと乱暴に拭き始めた。
「え、な、なに?」
「…風邪ひくぞ。」
「…ありがとう。」
「よし、さっさと帰るぞ。」
「え、でも雨止んでないし…。」
「はぁ?一緒に帰ればいいだろ。」
「え、いいの?」
「何だよ今更。ほら、入れよ。」
「お、お邪魔しまーす。」
悠一の傘の中は狭くて肩と肩がたまに触れるくらい近かった。
いつの間にか身長も抜かされて、あんなに細かった体は男らしい体になっていた。
爽やかで優しいって女の子たちに人気だけどあの子達の知らない意地悪する時のあの笑顔は私だけの物だ。
それに何だか嬉しくなって小さく笑うと訝しげにこちらを見てくる。
何笑ってんだよ。ってちゃんと手加減して頬をつねる悠一に大げさに痛い!って叫ぶ。
わざと言ってるって分かっている悠一はまた優しく笑う。
子供の頃からお姉ちゃんだったりお兄ちゃんだったりする私達。
今日のだってお兄ちゃんとして甲斐甲斐しく私の世話をしたのだろう。
幼馴染みって難しいな。
「あーぁ、特別になりたーい!」
「誰の?」
「秘密。」
「好きな奴?」
「…うん、好きな人。」
「…ふーん。」
「将来の夢はお嫁さん!…なんてね。」
「ぶはっ!ムリムリ!」
「はぁ〜!?」
「お前は誰からも貰われねぇよ。」
「分からないじゃん。」
「いいや、きっとそうだね。」
「そんなに言わなくてもいいじゃん。」
かなりショックで唇を尖らせていると鼻で笑われた。
「ちょっと!!」
「ごめんごめん、そうだなー…お前が売れ残ってたら俺が買ってやるよ。」
「えっ」
「10円でな。」
「そんな安くないし!」
「いやー、お前からかうの面白いわ。」
「冗談だったの?」
「どっちだと思う?」
「どっちー!?」
「教えねー。」
大嫌いな六月の土砂降りの日。
大好きな人と小さな傘の下で大きな声で笑い合った。
六月の雨を見る度、私はあの雨の日を思い出す。
大好きな人の帰りをご飯を作って待ちながら。
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