4:変身・マスクドヒーロー

 いろいろと誤算であった部分もあり、あの後クレアは私の言葉に返事せず、そっぽを向いてしまったが、なんとか騒ぎも少なくホームルームを終えることができた。先生曰く、次は早速ヒーロー適性検査という各々がどんなジャンルのヒーローに適しているかを調べる授業を行うらしい。

 ヒーローというのは、大まかに分けて2種類のジャンルに分けられる。集団で団結し、怪人に挑む戦隊ヒーロー、単独で行動し、怪人を倒すだけでなく、潜入、調査等も行えるマスクドヒーローだ。マスクドヒーローは、適性検査で優秀な結果を残さなければ、その道を目指すことが出来ず、狭き門である。私の場合は……どうなのだろうか。

 そんなことを考えながら、クラスメイトとは別の更衣室で男女兼用そうな見た目の運動着へと着換え、演習場という外から見ても大きい施設へ向かう。すると、後ろの方から早速、クラスメイトがどちらを目指すか話し合っていた。その中には、私が注目したアチアもいたのだが、アチアはさも入学する前から友達だったかのように他の子と話を弾ませ、笑顔を咲かせていた。


「ねね、アチアちゃんはどっち目指す?チームか、ソロか!」

「んー、私はねー……えーっとぉ、そだ! できるならマスクドヒーロー目指そっかな! だってネトアもソロ活動だったし、色々と都合が良さそうだもんねー♪ うっしゃ、アチア適性検査がんばっちゃいまーす♪」

「がんばれアチアちゃん! 応援するよ!」


 なるほど、彼女にとってマスクドヒーローは都合が良いか……やっぱり、彼女は面白いな。早く友達になれたら、と素直に思ってしまう。ネットアイドルのアチアを見たことは無いが、彼女を見るに、一部の層では相当好かれていそうだな。

 そんなことを思い浮かべ、笑みを浮かべていると、アチアは私に気付き、手を振りながら駆け寄ってきた。

  


「おいっすエレン君! なーんかアチアのこと気にしてたっぽいけど、どうかしたのー? あ、わかった! あなたもどっちにするか迷ってたのね♪ よかったら、エレン君もマスクドヒーロー、目指さない?」


「マスクドヒーローねえ……最初は仮面でも被って戦うのかと思ってたけど、違うみたいだから、たしかに興味はあるな。それに……戦隊だと、私のスキルの特性上チームの子のスキルと被っちゃうかもしれないしね。うん、狙ってみようかな」

「いい! アチアもいいと思うよその考え! にゃはっ♪じゃあアチアと適性検査の点数で勝負だぁ♪ 勿論、どっちもマスクドヒーローの適正認定を受けるのが、条件だからね!」


 アチアは軽い足取りでこの場を去っていった。アチアはすぐにでも友達になれそうだし、積極的に交流してみることにしよう。私はそう決意し、彼女の後を追った。


「さーて、学校生活初の授業且つ、重要な適性検査が始まりますよー! これによって、訓練の内容、ましてや進路までもが変わるので、皆さん全力で挑んでくださいねー!」


 目的の演習場へと着くと、セリカ先生の言葉に続き、クラスメイトが士気を高めあっていた。さて、私も気合を入れて挑まなければいけないな。

 ……と、ここであることに気づく。私は見た目が女子の格好でも、「今のところ」男子だ。女子との体力差などは考慮しなくて良いものか?

 質問しようとセリカ先生へ視線を向けると、丁度彼女がこちらの様子を察し、改めて説明をし始めた。


「そうそう、エレンさんは男子だからと言い、女子とは別の基準で測るつもりはありませんよ? ここはヒーロー育成学校、このようなことでハンデは作りません♪」

「なるほど、だったら私も女子に負けないように全力出さないとだね」

「はい♪ ……では、準備運動を終えた後、早速ですが、検査の方をはじめますよ!」


 私は両頬を叩き活を入れ、気合を十分に注入した。




「では、まずは皆さんのヒーロースキルを一人ずつ見せてもらいます! 私がどのようなスキルの種別なのか判断し、そのスキルを実際本人がどれだけ使いこなせているかを調査します! 尚、スキル自体の効果の恩恵だけで評価する、なんてことはありませんので、安心してくださいね♪」


 最初はヒーロースキルの評価か。私はあの一件もあり、先生の前でスキルを見せているのだが、今回は場所も場所なので遠慮なく発動させてもらおう。

 一番最初に検査することになったのは、私が目をつけていた内の一人、シラ・アルケリックだった。シラはロボットのようにギクシャクした動きで壇上へ向かい、私たちにトマトのような赤面をしながら一礼した。


「わっ……私のスキルはシャイン……悪しき敵を浄化し、天に帰すことが、できる……」

天使のヒーローというなんとも特殊な能力であるが、果たして、どのような戦い方ができるのだろうか。シラは大げさに肩を上下させながら深呼吸をし、意を決したのか独特な構えをとった。真剣そうな表情のまま目を瞑り、更に呼吸を整え始める。


「ジャッジメント、レベル1」


 シラが右腕を上げると、たちまち私の変身のように光のオーラが彼女を包み、場の空気が一変する。まるで演習場が聖域だったかのように重い空気へと変わっていった。


「アタッチメント、プリズムライフル」

 光からシラが開放されたかと思うと、彼女はとんでもない大きさのスナイパーライフルを抱えていた。そして何より、彼女の衣装が変化し、運動着から天使の羽衣のような純白の着物へと変わっていたのだ。彼女の姿とはあまりにも似合わないライフルは、彼女がもつミステリックさをこれでもかと強調していた。


「ふむふむ、換装系のスキルですか……換装の評価点は主に二つ。一つはスキルで具現化した武器、道具等が使いこなせているか、もう一つは換装できる物の数、あるいはその武器の多様性の豊富さです。戦闘中臨機応変に対応できるかが一番の鍵となりますよ!」


 セリカ先生はシラのスキルを丁寧に観察していた。先生が言う換装というものは、ヒーロースキルの特徴みたいなもので、これは戦闘時にスキルを使用することで、様々な武器、防具等を召喚できるというものだった。他にも、自分自身を強化、特殊能力を付与するなどができる『特化』、スキルとして発現したエネルギーを操作したり、射出したりする『制動』、スキルを使用する対象がいて初めて効果が現れる『念波』などがあげられるが、私の場合はどこに当てはまるのだろうか?

 シラの観察に戻ると、彼女はライフルを放るように上へ投げ、次の換装へと移るところであった。


「リプレイスメント、パルスライフル」


 シラの元へ落ちてきた新たな武器は、近未来的な意匠が施されたエネルギーライフルであった。プリズムライフルよりずっと小柄で、見てくれでいえばアサルトライフル程度の射程なのであろう。先生は頷きながら成績を採り、満足そうに微笑んでいた。


「うんうん、これなら大丈夫♪ 学校に入学するまでしっかりと基礎を積んできたのね。後は実践で応用できるようにしっかりと訓練するのみ! マスクドヒーロー志望なら、この時点で合格よ!」


 シラは先生の言葉を聞き、赤面しながらも一礼した。早速、かなり優秀な生徒が現れたが、これが基準点として今後測定されるなら、後続の生徒は堪ったものではないだろう。さて、次の生徒は……


「次は、エレン・レヴォルトさんです!」


 わ、私だったのか……! 順番等は事前に教えられていなかったため、若干緊張する。これも、いざという時のための対応の訓練なんだろう。


「一度教室で見てますが、改めて詳しい説明を交えて、お願いしますね♪」


 私は先生にコクリと頷き、壇上へと上がった。さて、ここで大まかな進路が決まってしまうので、一層気を抜かずに行わなければ。まずはスキルの説明のため、半袖だが体育着の右袖を捲くった。


「私は……一度教室で見せたとおり、チェンジというスキル。この右腕にあるヒーロー・アクターというバングルを使用して、実在するヒーローに変身することができるんだ」


 私は姿勢を低くし、右腕を前に突き出した。私が戦闘しようと意識を集中させると、自動的にバングルが作動する。この段階では、パソコンで言えばOSが起動した程度の段階だ。この後のバングルの操作で、私のスキルは呼び出すヒーロースキルによって多様に変化するという仕組みだ。


『スタンバイ、インクリース・ヒーロー・パワー』


「バングルのスイッチを押す。そうすると私自身に移植されたヒーロー細胞がバングルと呼応して、増殖を始めるんだ。で、バングルがその細胞に、親であるヒーローの心を侵食させる。そうすることで私は晴れてヒーローになれるってわけ!」


 大体こんな感じの説明で良いのだろうか。とりあえず準備も出来たので、右腕を天井へと掲げ、声を上げた。


「……そしてポーズを決めて、こう! 変身!!」


『チェンジ・スパーク・ヒーロー!』


私を中心に風が舞い、放たれたオーラは高い天井へと昇っていった。代わりに私の体に纏われたのは雷電。よく人間がここまで電気を操れるな、と改めて関心してしまった。


「これは実際に仲良かったヒーローのスキル、スパーク。雷光を操ることができるんだ。一番使いやすくて、お気に入りでもあるな」

「……なるほど、現在のエレンさんは制動系スキルのヒーローに基いているのですね……しかし、君自身のスキルは特化系に近い……そして、見た目が完全に女の子になる、と……うーん、どんな位置づけにすればいいのかしら?」


 先生の言う通り、このスキルは私が初めてヒーローから習得した、制動系スキルではある。しかし、私自身のこのチェンジ、あまりにも特殊すぎてジャンルとして分類して良いのかすら怪しい。学校側はそれでも分類しないといけないだろうし、どんな答えが返ってくるのだろう。先生は慌てているというより、私のスキルに興味津々なのか、息を荒くしていた。


「も、もしかして、念波系スキルも使用できたりするのですか……?」

「もちろんできるよ。じゃあ久しぶりに……ヒーローチェンジ!」


『チェンジ・オペレーション・ヒーロー!』


 私が再度腕を掲げると、纏っていた雷は消え、今度は目の部分に鋼質のスコープがかけられた。私が次に変身したヒーローは、相手を分析し、自分の思った通りに近い行動をさせることに特化したヒーローのスキル、オペレーションであった。しかし、これを使用するだけではあまり効果がない。元となったヒーローは重火器に慣れており、それをヒーロースキルで補いながら戦っていたため、そういった知識が乏しい私では同じようには使いこなせない。

 だから、私は私の使い方で、彼女らの力を引き出してあげるのだ。私にしか出来ない荒業でもあり現段階の切り札、複数のヒーローとの共鳴だ。


「今使ってるオペレーションというスキル。これだけでは私は何も出来ない。だから、ちょっとアレンジをするんだ。これを使ってね」


 皆が私のスキルに呆然としている中、私は構わず、バングルのスイッチを押しながら、時計回りに半回転させた。すると、バングルはカチッと固定され光を帯び、私のヒーローパワーが上昇し始めた。


『アクセプテッド、スパーク・オペレーション』

 

 私の周囲を再度強力なオーラが纏う。オペレーションでは銀のオーラだったが、今回はそれに加え、スパークのオーラが加わっていた。


「ちょーっとまだ慣れてないけど、評価は貰いたいし、張り切っちゃうよ!」

『デュアルチェンジ! トラッキング・スパーク!!』


 オーラから開放されると、体の周りには無数の電気の球体が浮かんでいた。これを自由自在に操ることで、スパーク以上の能力が開放され、尚且つオペレーションの強みを引き出すことができるのだ。


「さっきも気づいてたと思うけど、私が変身するヒーローによって、髪の色が変化する。そして、デュアルチェンジだけは特殊で、どうやら二つの色が混ざるらしい。……出来れば綺麗な色同士で混ぜたほうが見栄えも良いし、何となくマッチしてる気がするんだよね」


私が元としたヒーロー、スパークとオペレーションだが、それぞれ金と赤色であった。それらが混ざり合い、現在の色はブロンドになっている。


「ちなみにデュアルチェンジのパワーは通常のチェンジに比べて平均二倍! 強力な反面、精神的な負担が大きいのと、私の呪い、女性化がかなり進行してしまうんだ。まあ、女になることに抵抗を感じていたらこのスキルなんて使えないし、そこは気にしないんだけどね」

「な、なんて掟破りなヒーロースキル……イビル・ソルが対ヒーローとして作り上げた技術なだけありますね……」


 セリカ先生は感服したかのようにへたり込んでいた。他の学生も私のスキルの異端さに、形容し難い表情をしていたのだが、一人だけ、ムスッとした態度で私をじっと見つめているものがいた。その子は無論、クレアであった。彼女はやはり不満そうにしていたが、私のスキルのどこに難癖をつけるのであろうか。


「あのね、エレン。確かにあんたの能力はとてつもない可能性に満ちている。だけど、あんたはそのスキルに蝕まれてもいるの。……女性の体から戻れなくなっていくっていうね。つまり、エレンのスキルが『呪縛』系スキルに該当している可能性が高いってわけ。呪縛系スキルは本当に何もかもが未知数で、それがもたらす弊害と言うものは計り知れないの。何が言いたいかというと……」

「そう、エレンさんはもし別系統のスキルであったとして、『呪縛』系スキルである可能性が高い事実がある。だから、あなたは戦隊としてヒーロー活動ができないんです」


クレアに続いて先生が補足をしてきた。なんだそりゃ、『呪縛』という分類については知っていたが、なるほど、そのために現役戦隊ヒーローには『呪縛』がいなかったのか。……ということはつまり……


「あなたは特例として、マスクドヒーローでのみ、活動が許可されます。これは、教室であなたが説明していた時点で決定していたのですが……どうせなので、あなたのスキルについて詳しく知りたかったので、そのまま適性検査受けさせちゃいました♪」

「あたしにとってはむしろそのほうがありがたかったわ。……シード権で上がれて良かったわね。あたしは実力で証明して、マスクドヒーローの権利を勝ち取るわ。そして鼻を高くしてる貴方に絶対、絶対にスキルで勝ってみせる。震えて待ってなさい」


 クレアの言葉に異を唱えようとしたが、なんだかんだ言いくるめられそうなので口をつぐむことにした。……シード権か。嬉しいのかよくわからないが、元々マスクドヒーローに興味はあったし、その道へ進めるのだとしたら良かったのかもしれない。


 私は変身を解き、ぐっと拳に力を入れた。これで私の大体の進路は決まった。これからは、目指すべき、マスクドヒーローへの道を誠心誠意、進むことに全力を尽くそう。……私は心の奥に強い決意を抱いたのであった。










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