3:渇望・私の求めるモノ

「はい、それでは新入生の皆さん、おはようございます♪ 私はクラスの担任、セリカです♪」

クラスメイト全員揃い、この学校生活初のホームルームが始まった。セリカという名の先生は、おっとりとした口調で、背も低く、子供のようだった。艷やかな黒髪ロングが特徴で、中々に美人であった。

先生はこちらへ可愛らしい笑顔を見せ、ホームルームを続ける。

「早速だけど、始めに皆さんに自己紹介をしてもらいますね♪ 先頭の列の左側から順に自己紹介をお願いします、終わったら後ろに座ってる人が次の番よ?」


 まずは自己紹介と……さて、まだ私が男であることを知らないクラスメイトに驚かれなければいいが……


 淡々と自己紹介する者、変にテンションが高く、スベっている者と、様々なヒーロー候補生がいたが、私の番になるまでに気になったクラスメイトは僅かであった。その中の何人かを、ピックアップしておく事にする。



「……シラ・アルケリック。ヒーロースキルはシャイン。シャインというのは、その……天、使が、アレコレするみたいな、アレだ。……よ、よろしく」


 シャインという能力を持つ少女、シラ。見た目は冷血そうで白のショートカットヘアが特徴的だ。性格は対して面白みはないのだが、何かしら他の生徒とは違うオーラを感じる。ライバルとしていい戦友になれそうかもしれない。



「はっじめましてー♪ 私の名前はアチア・リンスっ! こう見えて、ネトアやってる売れっ娘ヒーロー候補生でーす♪ えと、ヒーロースキルはぁ、フレグランスです♪ 自然の香りで怪人をメロメロにしちゃうぞっ♡ ファンになりたい子、だーいぼしゅーだよっ!」


 髪型はカールさせたピンクのツインテール、腰には一昔前のギャルを彷彿とさせるジャージ巻きと、ある意味一番個性が強そうなアチアという女、彼女は単純にスキルが気になる。一体香りという武器でどうやってイビル・ソルと戦うのか、私には想像できなかった。



「初めまして。私の名はナツメ・キリガヤです。東の秘境から海を越えやってきました。ヒーロースキルは、ヒトタチという武術の派生のようなものらしいです。どうぞよろしくお願いします」


腰に細身の刀を刺し、いかにもな異国の風貌をした少女、ナツメ。彼女もまた特殊なスキルを用いるが、一体どのようなものだろう?



一通り上げていったが、忘れてはいけないあの女も、ピックアップの対象だ。


「あたしは、クレア・ゼラフリーネ。スキルは、アイスバーンよ。私の夢は、この学校の生徒で一番強くなること! 一緒に高みを目指してくれる人、大歓迎よ!」


 彼女のスキルは四大元素に関わるものか。それは大体エリートなヒーローが習得しているもので、強大な力になるがさて、彼女は学校一の生徒になりたいらしいが、相応しい技量が果たしてあるのだろうか? ……まぁそれはそうとして、一通りのおさらいは終わった。次は、何故か順番を最後にされた私の番だ。取り敢えず、変な印象を与えない事に注意しなければ……

 壇上に立ち、笑顔を見せ、愛想よく挨拶を始める。


「初めまして。私の名前はエレン・レヴォルト。知っての通り、この学校初の男子であり、少し緊張しているが、できれば私のことは女子として見てほしい。あ、別に特殊な趣向の為に女子の格好をしているわけではないぞ! 私はただ……男だからといい、特別扱いされたくない。分け隔てなく接してほしい。友達になってくれないかな……?」


 辺りの機嫌を伺うと、意外にも周りの様子は穏やかなものであった。頷いているもの、私のことに興味を示しているものが殆どで、これなら、何も問題なく学校生活を送れそうだな、と安心できる結果となった。


 ただし、覚悟はしていたが、一人だけ眉間にしわを寄せ、拒否の姿勢を見せていたものがいた。


「あたしは無理ね。第一、本当にヒーロースキル使えるわけ? ただ単にアンタがヒーローに憧れているだけで、適当な嘘をついて入学したとかじゃないの? 今ここで、アンタのヒーロースキルを披露してみなさいよ。あたしは肉眼で確認しない限り、この学校の生徒だとは認めないわ」


「ちょっとクレアさん! 確かにエレンさんは男の子ですけど、ヒーロー協会、ジャスティスハートの認可を得てこの学校に入学したのですよ! ここの教室は座学専用です、スキルを使用することは非常時以外控えてもらってます!」


 セリカ先生が私を庇い、クレアを注意するが、彼女はフンとそっぽを向き、言うことを聞いていなかった。……やれやれ、彼女は面白いが、手のかかる女の子だ。


「わかった。私のヒーロースキルは発動するだけでは周りに影響は無いから、今ここで見せてあげる」


 これも平和な学校生活の為、あんまり騒ぎを起こしたくなかったんだけどな……やっぱり、女子として生まれてきたほうが良かったなー……

 私はハァッとため息を吐き、制服の右袖をまくり、隠していたバンクルを露わにする。右腕を前へ突き出し、衝撃に備えて姿勢を低くし、発動の準備を整えた。


「いくよ、しっかり見ててね……」


『スタンバイ、インクリース・ヒーロー・パワー』

バングルから機械的な音声が流れると、全体が輝き、その光は私の全身を包む。力が漲り、私の闘争心を掻き立てる……私の力が最高になった瞬間に、バングルのスイッチを押した。


「……変身!」


『チェンジ・スパーク・ヒーロー!』


 眩い光から開放されると、クラスメイトは私の変化した姿に唖然としていた。私の身体はスキルにより完全に女性になり、肢体から筋肉質な部分は消え、あまり嬉しくはないが、胸もそこそこ大きくなっていた。


「……とまぁ、こんなかんじだね。ヒーロースキル、チェンジをしっかり見てくれた? ……私のスキルは、実在していたヒーローのスキルを借りて、同じ力を得る、またはそれ以上の力を引き出すって能力なんだ」


 クレアの方を向くと、両手をワナワナさせながら、涙目になっていた。いかにも悔しそうな表情であったが、まぁ仕方ないだろう。だって私のスキルは……


「そそそ……それって超チート能力じゃない!! なに万能なスキル披露しちゃってんの!? ヒーローになれたらあんただけで大体解決できちゃうじゃん!!」


 クレアの言うとおり、ヒーロー協会の常識外れなスキルではある。但し、好き放題他者のスキルを利用できるわけではない。まぁまぁ、とクレアをなだめつつ、弁解を試みる。


「確かにそうかもしれないけど、ヒーローのスキルをアレコレ簡単に使えるわけじゃない。私とそのヒーローとの心が繋がり、信頼できる関係になったとき、初めて使用する事ができるんだ。それに……」


私のスキルの一番のデメリットがある。それは私が男「だったから」こそ、発現している問題だった。


「このスキルは呪われている。……使えば使うほど、女性から戻れなくなる。私は、今だからこそ中性的な顔立ちをしているけど、元々は男らしさがあったんだ。 まぁ、性別がどうであれ、私にとってはどうでもいいんだけどね」


クラスメイトが言葉にできないような表情をし、クレアもまた、反論せず私の言葉を聞いていた。真面目に聞いてくれるだけありがたい話なので、さっさと自己紹介を終えることにした。


「最後に一つ。みんなが一番疑問にしているだろう、私が男なのにヒーロースキルを使える点を説明するよ。それはね……」


 バングルのスイッチを押し、変身を解除する。私の体はこれで更に変身後の姿に近づいたのだろう。元の姿の性別までもが変わってしまうのは一体いつになるのだろうか。……さておき、私はクラスメイトへと視線を戻した。私が男なのにヒーロースキルを持っている理由、男なのにヒーローを目指している理由、それは……


「それは、私があの悪の組織、イビル・ソルによって改造され、アンチヒーローとして暗躍する予定だった実験体だから。結局、ヒーローとの信頼を得るというデメリットの重さ故、私は組織に捨てられたんだけどね。……だから、私を物のように扱い、痛めつけ、物のように捨てたあの組織を絶対に許さない」


「エレン……」


「だから、クレア、そしてみんな。男だし、失敗作の私だけど、だからこそ、私と友達になってくれないかな?」


 すべてのヒーローと繋がる。そして、「みんなの力」でイビル・ソルを倒すのが、私の唯一の夢であった。

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