2:入学・ヒーローとしての一歩

「ここが……ヒーロー育成学校……栄華学園……」


 私の目の前には、とてつもなく大きな校舎がそびえ立っていた。最近はとても需要があるヒーローのための育成校のため、見た目も近代的で、最新技術が何処其処に盛り込まれているのであろう。

 新入生である私は、入学式の手続きの為に、体育館へと向かった。体育館の入り口には、私と同じ新入生の子が数列を作り並んでいた。私も早めに並び、手続きを済ませることにした。


 ヒーローが特撮としてテレビで登場していた時代。それは、基本男性が演じていた。しかし、今の時代は違う。現実の世界に突然現れた脅威、「イビル・ソル」に対抗できる力が発現する者、それは全て女性であった。どういった発現条件かも定かではなく、未だに男性のヒーローは確認されていない。 そのため、ここも男子は教師陣しかおらず、事実上の女子校なのだ。

「これじゃあ、ヒーロー育成学校ってより、ヒロイン育成学校だなーこれ」

 学校の現実に苦笑していたうちに、私の手続きの番になった。元々ここの学校を受験した際、どういったヒーローになりたいか等は予め決めることになっていたため、おそらく受付では軽く確認をされるだけで済むのだろう。


「はーい、次の方どうぞー」

 受付の若い女性に笑顔で案内をされる。私は無言で入学証明書を受付へ提出した。

「はい、確かにお預かりしました! ……えっと、あなたの名は……」

 彼女は私の名前を見て、一瞬眉間にシワを寄せた。そして、すぐさま私の性別が書かれているマークへと目を移した。

「……う、うそ……これって本当……なんですか!?」



「あぁ、私の名前はエレン・レヴォルト。性別は男だ」



 私がそう発言すると、会場で談笑していた生徒や教師全員が口を噤み、絶句した。まぁ、ムリもないだろう。私は恐らくこの学校が設立されてから、いや、現実世界に本物のヒーローが現れてから初の男のヒーローになれる存在だからだ。

「た、確かにエレンさんは新入生として登録されています……ですが、男子の生徒は本校初でして、何かと戸惑ってしまいました……」

「ムリもないさ。私だって最初、能力が発現したとき驚いたし」

「……そ、それでは確認出来ましたので、会場内の指定された席へとご着席ください」

「どうもどうも~」


 周りの女子生徒は私の言動一つ一つに釘付けになっていた。何故男子の新入生が?という固定概念からのギャップに悶えているものがほとんどだ。みんなが揃って目を見開きこっちを見てくるものだから、私としても居辛くて仕方がない、当分、こんな状態の学校生活が続くのであろうが、それも覚悟の上で、入学を決意したのだから私にとっては問題ない。


「ありえないわ!!!」


 そして当然、このことに異を唱える生徒も、出てくるものだ。

「ありえない、ありえない!!! あんた、デタラメ言って本当は能力なんて使えないんじゃないの!? しかも何よその格好! 男と言っておきながら制服は女のそれじゃない! 顔立ちも……どう考えたって女よ!!」

 私の前に現れた少女は、金髪のポニーテールで、ツリ目をしたいかにもな風貌であり、スタイルも良く可愛らしいのだが、中々どうして性格が残念であった。

 この金髪は私のことを女と疑っているが、実際私は何度も女性と見間違われたことがある。色々と理由もあるが、恐らく現在は女子用の制服と銀髪ショートヘアのせいだろう。もっぱら、男を強調したいとも思わないし、これで構わないのだが。


「制服は男子生徒用のものは元から作られてなかったし、私も目立ちたくないからこれでいいんだよ。ほら、後ろ詰まってるから私はもう行くからね」

「ちょ、ちょっと!! まだあたしは納得してないんだからねーっっ!!!」

 謎の金髪女はさておき、ようやく私のヒーロー学生生活が、始まったのであった。




「えー、以上を持ちまして、閉式の言葉とさせていただきます」

 入学式も終わり、担当に先導させられ、キレイに清掃された長い廊下を歩き、1-B教室へと向かった。たどり着いた教室は以外にも普通の進学校のように地味なもので、ホワイトボードとプロジェクター以外近代的な物はなかった。ある意味、居心地が良くていいのかもしれない。

 指定された席へと向かう。私は最後列の左端であった。目立たなくて気を抜いても教師にバレそうに無く、窓際で風通しも良い。最高のポジションだ。

 部屋に続々と女子生徒が集まってくる。前に居た学校は8割男子だったために、とても新鮮な雰囲気であった。全員、本当にヒーローを目指しているのかわからないくらい極普通な見た目をしていて、この中でヒーローになれる人間は果たしているのか、と少しばかり不安になってしまうほどであった。


「ななななななななな……!!!!??」


 あぁ、そういえば一人だけ例外が居たんだっけ。声のする方へと顔を向けると、残念な方で目立ってしまっている女子が、仁王立ちをしていた。

「なんであんたと同じクラスなのよーーーーッッ!!!!」

 入学式前、首を突っ込んできた金髪が不機嫌そうに教室へと入ってくる。手をワナワナとさせながら、あからさまな期限の損ね方を見せているが、私が何をしたというのだろう……女子というものは、よくわからない。

そして、入学式に配られたプリントから目を離した金髪は、ずかずかと私の元へとやってきた。

「なんだ? まだ私のことをヒーロー候補生と認めていないというのか? 第一、ヒーローという言葉は元々男につけられるのが常識というものだ。女はヒロイン。私がこの学校に来たっておかしくはないだろう?」

「確かに認めてないけど!! ……今はどうでもいい」

 金髪は、不機嫌そうに音を立てて隣の席へと座った。

「そ・れ・よ・り!!なんで!!!!! 席まで隣同士なの!?!?」

「席順はランダムで決まっているらしい。まあ良いじゃないか。これも何かの縁、仲良くしていこうよ」

 私の言葉に、金髪は頭ヘ血を噴火するが如く登らせていった。

「ぜっっっっっっったいに嫌!!!! あたしはこの学校で楽しく女子の友達と生活をしていくって決めたの!! あんたとつるんで変な噂でも立てられたら困るわ!!」

「何故私と友だちになっただけで変な噂が立つんだ。別にいいだろう? 私もこの学校では一応女子扱いだ。……流石にトイレと更衣室だけは変えてもらうつもりではいるけど」

「知るか!!! とにかく友だちを作るんだったら他を当たってよね!! あたしはあなたと仲良くなんてなりたくない……!」


 金髪は私のことをキッと睨み、そっぽを向いてしまった。


「男のヒーローなんて……絶対に許さない……絶対、絶対に……!!」


 流石にひどすぎるのではと異を唱えるために彼女の肩を寄せると、彼女の顔は悲壮に満ち、体は氷の様に冷たかった。


「私は……私の名前は、クレア。クレア・ゼラフリーネ。氷を司るヒーロースキルを持ってるわ。……エレン、私はあんたの永遠の敵。よく覚えておきなさい」

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