ジャスティス・ハート!
Nave
1:未来・私のあるべき姿
「番組の途中ですが、ここで緊急ニュースをお送りします」
大通りのスクランブル交差点すぐ側にある街宣用モニターは、蒼白な顔のニュースキャスターを映していた。彼女は震える手で紙面を確認し、ニュースを読み上げる。
「えー……今日未明第5地区の政府管理エリアにて、多数の”イビル・ソル”を確認したとの事です。彼らは付近で警備をしていた警備員を全員殺害、未だに確保が出来ておらず、現在も犯行に及んでいるようです。当社調べですと、政府管理エリアに直接彼らが出現するのは初めてで、現場は混乱に陥っています。市民の皆様はくれぐれも外出を控え、怪人に注意してください!」
交差点を渡っていた人は皆一度はモニターに気をとられたが、興味を無くしたのか散り散りになっていった。ここは第7地区の政府管理エリアであり、第5地区から10kmほど離れており、平和ボケした市民はここなら安全だろう、と勝手な見繕いを行ったのだ。
だが、交差点の真ん中で立ち尽くす者が一人だけいた。その者はパーカーのフードを被り、何やら怪しげな様子であったが、少女のように子柄で、華奢な風貌であった。彼女はフードの奥でフゥとため息をつき、不満そうな様子を見せる。
「脅威はすぐ側まで来てるってのに、ヒーローが悪者を退治するようになってからは、ずっとこんな様子だなぁ……シェルターに囲まれてたって、意味ないのになぁ」
既に歩行者分離式の信号は歩行者側が赤になっており、パーカーの少女らしき者が妨げている道路は両車線大量に車がたまり、クラクションをしきりに鳴らしていた。
「オイてめぇ死にてぇのか!もう渡りきれねえんだから安全地帯まで下がりやがれ!」
トラックの運転手の罵声にやっと自分が置かれている立場を把握したのか、パーカーの彼女はハッと辺りを見渡した。
「あら、コレは申し訳ない。すぐにどくからそんなに怒んないでね♪」
そう言うと、彼女は額に右手を当て、目を瞑った。しばらくすると、彼女の体になにやら電気のようなものが流れ、バチバチと音を立て始めた。電流は瞬く間に強大になり、彼女の前進を覆う程になった。
「モード、電光石火。えーっと…第5地区だったらどこでもいいかな。適当に……ジャンプ!!」
突如、都会の交差点の真ん中で一瞬目がくらむほど発光し、耳が
同刻、第5地区「ケルティック・アベニュー」は数多くの市民が混乱に右往左往し、混沌と化していた。そんな市民を無差別に蹴り上げたり、首を締めたりする黒い見た目の人間らしきものが数人。ニュースで取り上げられていた怪人達だろうか、彼らは黒いローブの様な衣装を纏っていた。
「我らはイビル・ソル。我らに続く者、歓迎する。逃げる弱者、抗う愚者……我らが深淵へと導いてやろう。終わりなき、暗い魂の集いし深淵へと……」
ローブの男の一人が何やら人ならざる声音で詠唱を始める。極限まで込められた憎悪のような念が彼に纏わりつき、次第に周囲の空気ですら重く、淀んだものへと変化していった。
「異端の蛆共よ。一薙ぎで泡沫の闇と化せ」
ローブの男の手元には、いつの間にか物質化した暗い輝きを放つ異形の鎌が存在していた。筋張った柄が脈動し、あたかも生きているかのようであった。男は構えを取り、鎌に力を込める。力は念により倍増し、刃が闇に隠される。
「ハァッ……」
男が空間を鎌で薙ぎ払うと、刃へと収束していた闇が扇状に解き放たれ、暗い光波として発現した。凄まじい速度で闇は断末魔と共に飛び、それは市民の群れを飲み込まんと大きく、とてつもなく大きくなっていった。
「全ては、主母の為に……」
闇は、全てを飲み込むはずであった。だが、突如反対の方向から暗闇よりも更に強大な光がそれを遮った。
「……なるほど」
光の勢いは留まることを知らず。強大に、より強大になり、闇を飲み込んだ。そのまま雷のような轟音を響かせ、ローブの男へと襲いかかった。男は鎌を持ち直し、再度空間を切り裂いた。先程とは違い、縦に裂かれた空間は、捻じ曲がり、大きな傷口が出来たかのようにパックリと開いた。強大であった光は何の因果か吸い込まれるようにその空間へと導かれていく。
男は息をつき、目の前の視界が晴れ、目の前に現れた人間を睨みつけた。
「私達の脅威……脅威……現れた……
男の視線にいた者、それはフードを被った少女らしき者であった。フードの下で笑みを浮かべ、パーカーのポケットへ両手を入れたまま、彼女は名乗りを上げた。
「ヒーロー。そう、私はヒロインではなく、ヒーロー。イビル・ソル共は何を考えているのかわからないけど、人類にとっては脅威……だから、潰す」
少女はフードを取って、仁王立ちになった。
「私の名はエレン。先ずは裁きの雷光をもって、あなた達を正してあげる!!」
これは、人類の未来を華蓮で勇敢な少女たちに託された一つの英雄譚。
そして、その中で最も固い信念を持ち、戦うヒーローの物語である。
「みんな……力を貸して! ……変身!!」
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