第25話信じられない展開

 5-25

翌日、廣一は優秀な弁護士を探す様に指示して、自らは出来るだけ早く東京に行こうと考えていた。

祖母を始めとして、佐伯と靖子も事態を知っていたので、廣一がどの様に対応するのか心配をしていたのだ。

「予期せぬ結果に成ったわね」

「その様ですね、社長は弁護士を用意して、助けるみたいですが、宜しいのですか?」

「納得いかないと、終わらないでしょう、廣一は立ち直りますよ」久代が佐伯に言った。


その後、初めて由美は廣一に会うのだ。

もっと早く会っていたら最悪の結末は回避出来たかも知れなかった。

廣一の雇った弁護士が由美に会う寸前電話を掛けて来て「美由紀さん、罪は軽く出来ますよ」と言った。

「何故?」

「病院で判ったのですが、子供が出来ていました」

「柴田の子供ですか?」

「そうです、流産してしまいましたが」

「そうか、子供が居た事実は大きいですね」

「はい、美由紀さんの意見が殆ど通るでしょう」

廣一がこれは少し救いだと思った。


由美は廣一に初めて会ったが、もう随分昔から会っていた錯覚に成っていた。

「初めまして、柏木廣一です」差し出した名刺には柏木興産、代表取締役社長の肩書きが有った。

「山下由美です、初めまして、本当に柏木興産の社長さんでしたのですね」

「はい、新米ですが」そう言うと弁護士の話を由美に教えていた。

「妊娠していたのですね、美由紀の罪は軽く成りますか?」

「顧問弁護士の話のまま進めば、罪は相当軽く成るでしょう、世間の評価が今は二つに割れていますが、美由紀さんが柴田に騙されて、MMSの商売の為に付き合いを初めて、上手にお金を使わされてしまった事、渾身的な態度は印象を良くするでしょうね」

「本当に馬鹿な美由紀です、私は最初から騙されているからと注意をしたのですが」

「私は美由紀さんの罪を出来るだけ軽くしたいのです、部屋での話しを出来ませんか?もっと美由紀さんに有利に成る様に話をして貰えないでしょうか?」

「例えば?」

「別れ無ければ殺すと脅されていたとか」

「えー、まあそれに近い状況でしたけれど」

「包丁も最初は、柴田が持っていたとかね」

「指紋が無いから、無理でしょう」

「手袋履いていましたよ」

「あっ、そうでした、その手が有りますね」

「もう、事情聴取は終わって居るでしょうが、まだ何度も聞かれますよ」

「何故?そこまで美由紀に色々してあげるのですか?」

「僕には、初めて好きに成った女性だからですよ」

「えー」由美は驚きだった。

五十歳を超えた廣一が、今まで好きに成った女性は美由紀が初めてだと話した事が驚きだった。

「びっくり、された様ですね、六年もお付き合いした女性は美由紀さんが初めてです」

「彼女とはデリヘルで知り合ったのでしょう?」

「始めは遊びでした、一度別れてから、本当に好きに成りましたね」

「今でもですか?」

「今は、もう諦めました、唯彼女が幸せに成って欲しい、柴田との結婚は許せなかった、騙されて居る事が判りましたから」

「今、彼女の気持ちが戻ったら?どうしますか?」

「最初から、彼女の気持ちは僕には向いていませんでした、お金だけの付き合いと割り切っていたでしょう」

「そんな。。。。」

「じゃあ、何故?此処までしてあげるのですか?」

「それは、自分が好きに成った女性だからですよ」

「柏木さんの自己満足の為にですか?」

「そう、理解して頂いて構いません」

「そんなものですか?」

「もうすぐ、彼女も柴田の事に気が付くでしょう、目が覚めるのですよ」

「でしょうね、私は美由紀の罪が軽くなる様な証言をもっと考えます」

二人は今後打ち合わせをしながら、裁判を進める事で一致した。

美由紀には由美が援助する事にして、廣一は陰に隠れて見守る事にするのだった。

不思議にテレビのワイドショーとか週刊誌にこの事件がその日を境に取り上げられる機会が増加していた。

勿論由美にも取材が沢山来るのだった。

柴田と美由紀の間に子供が出来たのに別れ話が起こった。

それは美由紀に子供が産まれると仕事が出来ないから、中絶を強要した柴田、部屋にて包丁で脅された。

そして当日、別の女性と入籍をした書類を見せられて美由紀が逆上をして、エレベーター前まで追って、刺し殺したに成っていたのだ。

精神障害の疑いも起こったのでは?と成っていた。

柴田の両親も最初は嘘だろうと思ったが、幸宏ならあり得る事だと認めたのだ。

入籍をして、話題の渦に居た筈の戸田由佳子もお金で幸宏に頼まれたと、全く幸宏を弁護しなくて、勿論廣一の手が廻っていた。

由佳子の証言も幸宏が悪行の数々をしている事、美由紀が病院の夜勤のバイトをして、食べる物も食べず、着る物も始末して尽くしていたと証言をしたのだ。

マスコミも美由紀に同情の放送に成って、世間もいつの間にか、美由紀が素晴らしい渾身的な女性に作り上げてしまったのだ。

拘置所にラブレターが数多く寄せられて、犯罪者から哀れな被害者に変身してしまったのだ。


由美はこの現実を美由紀はどの様に思っているのか、久々に拘置所を訪れた。

「お久しぶりね、元気だった」

「ようやく判ったわ、手紙に一杯書いて有ったわ、MMSの事も、私は騙されていたのね」

美由紀はようやく気が付いた様で、廣一の話の通りに成った。

「そうよ、世の中そんなに楽をして、儲かる事は無いのよ」

「私宛に品物から、現金、ラブレター凄いのよ、婚姻届けまで来るのよ、印鑑を押してね!もうびっくりよ」

「良かったね、目が覚めたから」由美が言った。

「由美の忠告をもっと早く聞くべきだったわ、世の中にはデリヘルで働いた事隠さなくても良かったのかも」

「そうよ、柏木さんも貴女の過去には全く拘って居なかったでしょう?」

「柏木?」

「六年も付き合ったでしょう?」

「ああ、禿の叔父さんか、興味無いわ、不細工な爺さんには」

(「そうなの?これは、みんな柏木さんが貴方の為にしたのよ」)そう言いたかったが言葉を飲み込む由美だった。

(「良い人に巡り会っていて、良かったわね」)そう思う由美だ。

すると「由美も一度会えば、私が言う意味が判るわ」

「そうかな?会ったわよ」

「えー、病院に来たの?私が犯罪を、犯したからね、面白がって来たのね、私がデリヘルで働いて居たと病院で喋ってもみんなもう知っているから、無駄だったから、悔しがっていた?」由美は美由紀の言葉に呆れていた。

「貴女を地獄から救った人が居たらどうする?」

「私を地獄から救った人って?」

「だって、貴女は柴田さんを刺し殺した、なのに今では天使の様に世間で云われているのよ」

「そうね、由美の証言かな、ありがとうね、感謝しているわ」

「私以外の人でよ!」

「私、あの時気が動転していて、幸宏に包丁で脅されたのだね、由美の証言の時まで思い出さなかったわ」

確かに人が、それも愛して居た人を刺し殺すには、気が変に成って居ないと出来ない行為かも知れない。

美由紀はあの部屋での出来事は何も覚えていないかも知れないと由美は思った。

血の海に呆然としていた美由紀の眼差しが、何処を見ていたのか判らなかったのは事実だった。

「美由紀、柴田さんとの子供流産したのは、知っていたの?」

「後で教えられるまで知らなかったわ、でも良かったわ、幸宏との子供が流産で」

「戸田由佳子さんも柴田さんに頼まれて入籍していたと証言したから、美由紀の罪は軽減されるわ、世間にも注目されているからね」

そう云うと微笑む美由紀だった。

廣一の事は一時も頭に無かった。

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