第24話狂気
5-24
廣一に幸宏が「今日、役所に届けを出してきます、コピーを送りましょうか?」
「写メで貰えれば、大丈夫です」
「美由紀とは週末に彼女の友達立ち会いで決着を付けます」
「おお、そうですか、宜しく頼むよ」
廣一はようやく、美由紀は解放されるのだ良かった、
今後は陰から応援してやれば良いだろう、と考えた。
週末、由美のマンションに早めに到着した美由紀は予想もしない事を由美に言ったのだ。
「幸宏ね、私にあの様な事を言ったのはね、確かめたかったのよ」
「何を?」
「勿論私達の愛情の深さをよ」と嬉しそうに言う。
「何故?」
「だって、私達はもう婚約して入籍を残すだけに成って居たでしょう、急に彼女が出来て入籍の話しに成るのは変よ」
「そうね、入籍待ちの状態が急に別の人と入籍は確かに変よね」
美由紀は幸宏に試されているのだと思っていた。
デリヘルの事も由佳子との結婚も、自分が美由紀に愛されているかを知る為の作り話だと、由美も由佳子との結婚には疑問を持っていたので、今日で決着が。。。。。
由美は美由紀が傷つかないで、柴田と別れてくれる事が理想だと考えていた。
今日話がまた元の鞘に戻るのは嬉しくないし望まないのだ。
「私、先日の柏木さんって、本当に社長さんに成って居ると思うのだけれど」
「由美も騙されたのね、あの禿げの叔父さん私に未練が有るから、今度は有名な人を捜して、所謂成りすましよ、犯罪よ」
「そうかなあ?」
「顔も品が無いでしょう、私に未練だけ有るのよ、そんな会社の社長なら、私に看護師なんてさせないわ、直ぐにでも奥さんにしてくれるわよ」
「それは、貴女が柏木さんを毛嫌いするからでしょう」
「そんな、夢の様な話しは止めよう、早くお金を貯めて幸宏と結婚して、二人は子供産みたいわ」
美由紀が未来の夢を語るその時チャイムが鳴った。
「幸宏だわ」
ソファに座り直す美由紀、扉を開けに行く由美。
「凄い、マンションですね」と驚きながら入ってくる幸宏。
「。。。。」
何も言わずに美由紀を睨む幸宏、微笑む美由紀。
「ソファにどうぞ」由美に言われて座ると「先日の話って私を試したのよね」と美由紀が話しを切りだした。
「試した?何を?」
「私の愛を」
コーヒーを持って由美がテーブルに置いた。
「目出度い女だな、だから自分を本当に愛してくれている男が判らないのだよ」笑う幸宏。
「誰の話よ」
「まあ、沢山男を咥えたお前では判らんか、石ころもダイヤも見分けが出来ないからな」
「何の話し?」
「まあ、俺が石ころ、彼はダイヤだったがな」
「誰の事よ」
「柏木とか云う男の事だよ」
「あの人とは何も無かったわ、彼が一人で私に未練が有るだけよ」
「だからダイヤを捨てて、石ころを拾うなって言っているのだよ」
「何故?禿の年寄りと私が付き合うのよ」怒る美由紀。
「金持ちで、お前がデリヘル嬢なのに、付き合って結婚も考えていたのだろう?」
「誰がデリヘル嬢なのよ?」
「これを、見れば判るだろう」と携帯の画面を見せると、美由紀の顔色が変わった。
「柏木さんが教えたの?」
「知らないよ、話しもしていないよ」
「何故?これを」
「由佳子に言われたのだよ、幸宏!知っていて結婚するのかってね、初めて見た時、我が目を疑ったよ」
「少しの間、お金が無くて働いたのよ、許してよ、半年程よ」
「売春婦を嫁にする程、俺も馬鹿じゃない、あのおっさんとは違うのだよ」美由紀の想像は完璧に外れた。
本当にデリヘルの事が幸宏に知られてしまったのだと思って項垂れた。
「貴方始めから、美由紀のお金が目当てだったのでしょう?」由美が言うと「その通りだよ、MMSの商品を売るのが目的で近づいたのだよ」
「でも、好きに成って結婚を。。。。。」
「違うよ、美由紀の看護師の給料が魅力だったのだよ」
「私から、離れようとして、悪い事を言っているのでしょう?お願いだから戻ってよ、もう私には幸宏しか居ないのよ、お金も少し貯まったから、結婚出来るわ」
「未練がましい事を言うな、お前に未練の有る男には冷たいのに、俺に縋るなよ、もう金には困って無いのだよ」
「えー、どう言う事よ」
「由佳子はお金持ち、と云うより打ち手の小槌に成るのだよ」
「キャバクラ嬢もデリヘルも大差ないでしょう?」と由美が怒って云うと「これを、見れば納得するだろう」テーブルに婚姻届けと戸籍謄本コピーを置いた。
目を皿の様にしてみる美由紀に「判ったか、それ欲しければやるよ、じゃあな、元気で暮らせよ」そう言うと立ち上がって、玄関に向かった。
「これは、何よ!」と大声を上げる美由紀、完璧に逆上していた。
「落ち着きなさいよ」と由美が宥める。
幸宏はさっさと外に出て行った。
美由紀は台所に走って行って「許さない!」と叫んで幸宏の後を追い掛ける。
由美は唖然としていたが、美由紀の手には包丁が握られていた。
「止めて!」と叫んで追い掛ける由美は「止めて」と何度も叫ぶ。
エレベーターの前で待つ幸宏に「死ね-!」と叫びながら襲いかかる。
振り返る幸宏の顔が恐怖に変わる。
包丁で斬りかかる美由紀に「止めろ、美由紀」と叫ぶ。
「許すか!」もう止められない、各部屋から顔を出す住人。
「警察だ」
「救急車よ」と叫ぶ住人。
エレベーターの前に倒れる幸宏、美由紀も同じ様に倒れ込むと、赤い血が廻りに飛び散る。
マンションでの惨劇に成った。
由美が近寄ろうとするが、異様な雰囲気で恐い。
「美由紀」由美が怖々呼ぶ。
「。。。。。」
呆然と倒れて二人は血に染まって居る。
床は血の海に、サイレンの音が近づく。
警察と救急車が現場に到着して、ようやく美由紀は包丁を手から離した。
「美由紀-」と由美が叫ぶと、不気味な笑いを残して警官に抱えられて現場から去った。
幸宏は担架に乗せられて救急車に向かった。
現場を警官が封鎖して、綿密に調査を始めた。
「この、包丁は、貴女の家の物?」
「そうです、大丈夫でしょうか?」
「男性は、出血が多いから、助かるか?」
「そうですか?」
「事情を聞きたいので、来て頂けますか?」
「はい、用意をしてきます」由美は自宅に戻った。
警官が付いて来て「写真を撮らせて下さい」
「はい、此処で話しをしていて、柴田さんが帰ったのを美由紀が追い掛けて行ったのです、包丁を持って」
エレベーターの前は幸宏の血で染まっていた。
それを避けながら由美は警官と一緒にエレベーターに乗った。
「美由紀どうなるのでしょうか?」
「男性が助かれば、良いのですが」
警官はそれだけ言うと、別の警官と色々な話しに成っていた。
警察に連行された美由紀は放心状態で話が出来る状態では無く、病院に収容されて由美が主に状況を聞かれたのだ。
由美は一貫して、美由紀が柴田に騙されて、総てを失った事実、婚約をしていたのに、いきなり別の女性との婚姻の事実を突きつけられて逆上したと、美由紀の哀れさを訴えた。
その日の夜遅く柴田幸宏は亡くなった。
包丁が肝臓を突き刺していた。
名古屋から両親が駆けつけて、宮城からも美由紀の両親も深夜到着したが面会が出来なかった。
由美に事情を聞いて、美由紀の両親はやがてはこの様な事態に成るのではと落胆した。
テレビ、新聞の報道陣が大勢押しかけた。
由美は積極的に取材を受けて美由紀の心情を訴えたのだ。
美由紀の罪を軽くする為に、柴田の両親は息子が看護師の肩書きに惚れたが、事実は売春行為をしていた女に騙されていた。
その事実を知って別れようとしたら殺されてしまったと嘆いた。
夜のニュースに事件が報道されて、廣一はその事実を知って、自分の意図と全く異なる結果に愕然としていた。
「廣一、お前、別れて良かったね、恐い女だったね」と眞悠子がニュースを見て言ったが、殆ど聞いていなかったのだ。
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