第23話デリヘル嬢美由紀
5-23
夕方、品川総合病院の近くの喫茶店で待つ美由紀、十分遅れて柴田がやって来た。
「遅いわね」
「会っただけでも、感謝してくれよ」
「それ、どう言う意味よ」
「もう、お前との結婚は辞めたのだよ」
「えー、今更何を言い出すの?結婚資金が無いから少し延期しただけじゃあないの、何故よ?」
「胸に手を当てて考えて見たら、判るだろう」
「何の話しよ、私が昔の男と浮気でもしたと言うの?」
「違うよ、お前の正体を知ってしまったのよ」
「私の正体って?何よ」
「とにかく別れよう」
「そんな、最近会う回数が減ったのは、結婚資金を貯める為に寝ないで頑張っているのよ、確かに最近は貴方の会社の物も買わなくなったけれど、それも資金を貯める為よ、後半年待てば私達結婚出来るのよ、両親の許しも貰ったし」
「それがね、我が家の両親がね、反対に成って無理だって言うのよ」
「嘘、でしょう」
「疑うなら、此処で聞いて見たら?」
直ぐさま携帯で自宅に電話をする幸宏。
「お袋、美由紀が別れてくれないのだよ、両親が反対だと言っても信じ無いから、教えてあげてくれよ」
そう言って電話を美由紀に渡すと「美由紀さん、幸宏を騙して、結婚するのは辞めて、この話しは無かった事にして下さいね」
「あの?」と話す間も無く電話は切れた。
「騙すって?何を騙したの?私貴方の為に蓄えていたお金も統べて使ったわ、今更何を騙したと言うの?」
「看護師に騙されたのだよ」
「看護師が悪いの?前からでしょう」
「とにかく俺は由佳子と結婚するから、お前とはおさらばだよ」
「何を?言っているのよ、キャバクラ嬢の友達と?何故?急に結婚って?」
「じゃあーな」そう言うとさっさと出て行った。
「待ってよ」と追い掛けると店員が「支払いを」と言いながら追い掛けて来て、支払いをしている間に幸宏は消えた。
何が有ったの?正体って何?幸宏の為に既に一千万以上使っていた。
美由紀は目の前が真っ暗に成った。
喫茶店に戻って、ぼんやりと窓の外を見ていた。
そうだ、由佳子さんに会って話しを聞いて見よう、確か五反田の(ドリーム)だったと記憶を蘇らせた。
「今、別れて来ました」と廣一の携帯に幸宏の電話。
「入籍の女性は見つかりましたか?」
「由佳子にしました、昔からの友達なので、頼み易かったので、五百万ですよね」その言葉に殆ど由佳子にはお金は払ってないと廣一は感じた。
「いつ貰えますか?」
「入籍が終わって、完全に美由紀さんと別れたのを確認してからに成りますよ」
「判った」もう柴田は一千五百万を受け取った気持ちに成っていた。
九州に帰った廣一に久代が「もう、そろそろ、靖子さんと結婚しないのか?ひ孫の顔が見たいわ」
「もう少しで、肩の荷が降りますから」
「百歳迄待てないよ、廣一」
「はい、頑張ります」と笑う。
久代は同じ事を靖子にも眞悠子にも話して催促していたのだ。
廣一にはもう美由紀の事を考える必要は無いのに、どうしても助けたい気持ちが有ったのだ。
夜に成って恐い顔の美由紀が店を聞き歩いて、五反田の由佳子の店を訪れた。
「此処に由佳子さん、いらっしゃるの?」
呼び込みに聞く「由佳子と云う子は居ませんが?(ゆか)なら?」
「その人よ、呼んで頂戴」
呼び込みの男はまだ時間が早かったので客も少なかったので、由佳子を連れて来た。
「由佳子さん?」
「そうですが?貴女は?」と言うといきなり「バッシー」と平手打ちを由佳子の頬に放った。
「何をするの?貴女、美由紀?」
「そうよ、私の彼氏を取ったでしょう」と恐い顔に、由佳子は刃物でも持って居て、刺されるのでは?の恐怖に成った。
「貴女が悪いじゃあないの、幸宏を騙すからよ」
「何を騙したの?」
「此処で、言っても良いの?」
「言いなさいよ」
「売春していたでしょう、幸宏が嘆いていたわ」
「売春って何よ」
「いかがわしい、デリヘルで働いて男からお金を貰っていたでしょう?」
「何の話しよ、知らないわ」
「幸宏ショックで、私に泣きついたのよ」
「。。。。。。。」、美由紀は項垂れて、デリヘルで働いたのが幸宏に見つかったのだ。
判らないと信じていたのに「もう、結婚は諦めなさい」そう言われて、美由紀は踵を返して、デリヘルが見つかったのか?
「み。つ。か。っ。た」とぼそぼそと言いながら、項垂れて歩いていた。
やがてトボトボと駅に向かって歩いて帰って行った。
一番知られて困る人に知られてしまった。
何故?何故?見つかったの?知っている人間の顔が浮かんだ。
由美、廣一、この二人が一番なのだが、他にもデリヘルのサイトは幸宏の友達なら見る可能性は有る。
今更判っても、もう幸宏の気持ちが戻らないと美由紀は思う、どの様に帰ったのか判らない。
寮に帰ると真っ暗な部屋で唯、呆然としていた。
翌日由美は出勤してない美由紀に電話をしたが、反応が無い、不思議に思って寮の自宅に行った。
管理人は外出の気配が無いと言うので、扉を開けて貰う事にした。
「美由紀、居るの?」
呆然と、座って壁を見ている美由紀に「どうしたの?」と言うと「わーーん」と大声で泣き出した。
「幸宏に捨てられたの、もう私には何も無いのよ」
「どうして?捨てられたの?」
「デリヘルで働いていた事が知られてしまったのよ」と泣き喚く。
「彼、知らなかったの?」
「そんな事話す訳無いでしょう、もう彼の実家もみんな知っているわ」
「美由紀、彼の為に尽くしたでしょう?」
「もう、何も残ってないわ、結婚の資金も今必死で貯めていたのよ」
「不思議ね、柏木さんが貴女に総てを捧げて、貴女が柴田さんに総てを捧げたの?」
「今、あんな、禿げ親父の話をしないでよ!」
「でも、これで良かったと思うわよ、あの柴田さんは貴女の事、愛していなかったのよ」
「嘘よ、愛して居たわ」
「本当に愛して居たら、もう随分前に少し働いたデリヘルの事で別れたりはしない筈よ」
そう言われて、泣き止んで美由紀が「そうね、変よ、私がデリヘルで働いて居たのが判って、何故?由佳子って女と結婚するのよ、変だ」と急に元気に成った。
「彼、結婚するの?」
「そうよ、私に別れを言った後、由佳子ってキャバ嬢と結婚すると言ったのよ」
「それは、余りにも手回しが良すぎるわね、美由紀!騙されたのね」
「そうだわ、騙されたのよ、結婚話は始めから無いのよ」
「そうだわ、きっと無いわ」
この時二人は全く反対の事を考えていた。
美由紀は由佳子と幸宏の結婚が嘘だと、デリヘルの事も口から出任せ?
由美は幸宏と美由紀の結婚は仕組まれたものだと思っていたのだ。
由美はお金を巻き上げる為に、幸宏は美由紀に近づいて結婚を餌に釣り上げたと思った。
翌日美由紀は幸宏に(貴方の魂胆は判ったわ、もう一度会って話しましょう)とメールを送る。
(魂胆って何?)
(会った時に、話すわ)
(明日は無理だから、明後日なら)
(その日は、夜勤のバイトだから、週末に)
(判った、先日の喫茶店で良いか?)
(由美の家で会いたいわ、聞いて貰うの)
(何を?)
(貴方の本心を)
(本心????、判った)
幸宏も第三者が居た方が良いと考えた。
二人なら冷静に話せないが、第三者が居たら、意外と冷静に話せると思ったのだった。
美由紀は「二人の話の証人に成って欲しいの」と由美に話した。
由美はもう二人は決着をと思っていたので快く引き受けたのだ。
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