第22話知ってしまった過去

 5-22

久々の東京に廣一は来ていた。

取り敢えず美由紀の病院に行ってみよう、以前の廣一とは見違える姿、服装は一流、歩き方まで堂々として、人間を大きく変化させていた。

七階に到着して、もし今の自分に美由紀が会えば、態度が多少変わるのでは?

もし変わって話しを聞いてくれたら、柴田に渡すお金を美由紀に渡そう、もっと沢山でも良い、彼女が不幸から救われるのならと考えていた。

看護師の最上が「何方かお探しですか?」

「あの、須藤美由紀さんって看護師さんは?」

「あっ、美由紀ね、今日は遅番ですよ」、

「そうですか、じゃあ私が尋ねて来たと、名刺をお渡し願えますか?」

廣一は名刺を差し出し最上に渡して、お菓子の包みを「これ、九州のお土産です、皆さんでお召し上がり下さい」そう言って病院を後にした。

「紳士でしたね」最上が饅頭の包みを開けながら話していたら、由美が病室から戻ってきた。

「美味しそうなお饅頭、誰が貰ったの?」

「私が、先程の紳士に貰ったのよ」

「祥子のお客様?」

「美由紀さんよ、この方よ」と由美に名刺を差し出した。

「柏木興産代表取締役社長、柏木廣一」と読み上げて「あっ、何処に行ったの?」

「もう帰ったと思うわよ」

「柏木興産?」

「由美さん、大きな会社よ!」とスマホで調べて加山が言う。

自分が聞いて居たのは確か三流の会社の筈だが、何故?

「それも代表取締役よ、美由紀さん顔広いわね」と言う加山の声に由美は何が何だか判らなかった。

半年前、五百万のお金で苦労していた柏木が大企業の社長?これって?


「今ね、柏木さんが病院に来たわよ」

「えー、また来たの?」

「何か話して帰ったの?」

「何も言わなかったらしいわ、饅頭を持って来たのと、名刺を貴女に届けて欲しいと言ったそうよ」

「変なの、まだ未練が有るの?困った人ね」

「それより、変なのよ」

「何が?」

「凄い、紳士だったって祥子さんが言っていたわ」

「あの顔が紳士?目悪いね、祥子」

「それだけじゃあないわ」

「何が?」

「貴女に渡してと頼んだ名刺よ」

「名刺がどうかしたの?」

「読むよ、株式会社、柏木興産、代表取締役社長、柏木廣一」

「小さな会社の社長に成って自慢に来たの?相変わらず馬鹿ね」

「何を言っているの?この会社大企業よ、加山さんがスマホで調べて驚いていたわ」

「冗談でしょう、半年前五百万で泣いていた禿げ男よ」

「でも、貴女も調べて見たら」

「気味悪いね」

電話が終わると、早速PCで調べる美由紀。

「えー、本当だ、柏木廣一」

美由紀は驚いたが、もしかして自分を取り戻す為に同名の名前を使って来たのだと解釈したのだ。


その日の夕方、廣一は柴田幸宏に会う為にホテルのロビーに待っていた。

ラフなスタイルで柴田はやって来た。

「柴田さん?」廣一は顔を知っていたので声を掛けた。

廣一の服装を一目見て、柴田は金持ちを感じ取った。

「場所を変えましょう」

個室の飲み屋に入る二人。

「早速ですがこれが通帳です」と手渡した。

「貴方の様な金持ちなら、幾らでも綺麗な女は来るでしょう、美由紀に拘らなくても」

「六年近く付き合いましたからね、情が移ってね」

酒と摘みが運ばれて、飲み始める二人。

「どうしたら、別れたと信じてくれるのだ」

「まず、メールも電話もしない、別の女性と入籍する」

「別の女性と入籍?」

「お金を出せば、引き受ける女性は多いでしょう?」

「その分、俺のが減るが?」

「その分は別に支払います、五百万迄なら」

「えー、まだ五百万も貰えるのか、それなら一杯居るよ」

「柴田さんは、美由紀さんを愛しているのでは?」

「愛より、金だよ、村田さんは金持ちだね」

「いえ、そうでも無いです」

「服装を見れば判るよ、一流の生地にその仕立てだ!美由紀はアホだな、こんな金持ちを袖にするなんて」

「私は、美由紀さんと交際を戻したいとは思っていませんので、誤解の無い様に」

「じゃあ、何だ?」

「貴方と一緒に成っても不幸だからです」

「何を言うのだ!」と怒る。

「本当の事でしょう?じゃあ、この話し無しにしますか?」

「いい、確かに俺は美由紀の紐に成ろうとしているから、当たって居るな」

廣一の強い言葉にも柴田はお金と廣一の服装に負けていた。

「連絡は、先日の携帯に下さい」

「村田さん、美由紀をどうするのだ?」

「元に戻してあげますよ、貴方に会う前にね」

「美由紀と何処で知り合ったのだ?」

「デリヘルですよ」

「えー!」

顔色が変わって驚く柴田に、携帯の美由紀のデリヘル時代の画像を見せた。

「あの看護師デリヘル嬢なのか?」

「そうですよ、知らなかった?」

「知らないよ、そんな仕事していたのか?上手な筈だ」

「顔も身体も整形を一杯していますよ」

「えー、女は化け物だな」

「柴田さん、先程教えた事は私から聞いたとは言わないで下さい、それと私に会った事も言わない。もしそれが判ったら貴方にはお金は入りません」

「判った、俺も騙されていたのだから言う訳無いよ」と怒りの表情に成ったのだ。


幸宏には、もう美由紀に対する感情が無くなっていた。

沢山の男性とSEXをして、お金を稼いだ不潔な女以外のなにものでも無かった。

お金を稼ぐ女は幾らでも居るから、結婚の対象からは完全に消えた。

後は村田から一千五百万を貰う為に誰かと入籍をする必要に迫られていた。

柴田は実家に「俺、もう美由紀とは結婚しないから」

「何故?急に、お前には丁度良い女性だと家族で話していたのに」

「あの女、昔、売春していたのが判ったのだ」

「えー、売春?看護師では?」

「看護師と売春していたのだよ」

「何故?そんな、仕事を?」

「可愛く見える顔も、整形の固まりだったよ」

「本当?」

「今でも、サイトに写真が掲載されているよ、誰でも見られるよ」そう言ってサイトを教えた。

「判った、幸司に調べてもらうよ、もう少しで恥をかいたね、判って良かったよ」

「それから、近日中に別の女と結婚するからな」

「嘘、違う女性とも付き合っていたの?」

「まあ、そんな感じかな?」

幸宏は実家にその様に連絡して、入籍の相手に戸田由佳子を選んだのだ。

その日から、幸宏は美由紀にメールも電話もしなくなった。

美由紀から連絡しても反応の無い、美由紀は何が起こったのか?心配になり始めていた。

メールに(連絡無ければ、自宅に行きます)と送ると(何の用?)と味気ないメールが返信されて来た。

(会いたい)と送ると(話しをしよう、病院の近くのいつもの喫茶店で夕方)と返事が来た。

美由紀はいつものメールと異なる気配を感じたのだ。

幸宏に由佳子は「結婚して欲しい」といきなり言われて困惑していた。

「貴方には美由紀さんが居るでしょう?」

「あいつは駄目だ」

「何故?」

「売春していた女だ」

「えー、看護師なのでは?」

「昔、していたのだよ、デリヘル」

「デリヘルって売春じゃあないでしよう?」

「表向きはな、でも美由紀はしていたらしい、それにあの顔も身体も作り物だ」

「ほんとうなの?」

「ネットに今でも掲載されているから、間違い無い」

「それなら無理よね、幸宏嫌いだものね」

「当たり前だ、自分の女が売春して、喜ぶ男は居ないだろう」

「大した、女だったのね」

「だから、お前と結婚したいのよ」

「私も嫌よ、あんな女の後釜」

「入籍をして、あの女に諦めさせるのさ」

「そう云う事ね、美由紀さん普通では離れないからね」

「そうなのだ、だからお前に頼みたいのさ」

「幾らくれるの?」

「金とるのか」

「助けてあげるのよ」

「じゃあ、五十万で」

「もう、一声」

「仕方が無い、奮発して百万だ」

「いいわ、半年で籍を抜いてよ」二人の話は終わった。


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