第7話大地震

 5-7

「今度ね、北海道に行くのよ」と美由紀が嬉しそうに由美に話す。

由美以外の人には廣一の話は一切しないので、所詮美由紀には闇の人間なのだ。

病院関係で付き合う人には本名を名乗っているが、パトロン二人には美容師で通していた。

最近廣一は美容師に疑問を持っていた。

それは本気に好きに成っていた廣一が、色々美由紀の事を調べていたから、遊びに行く日が土曜とか金曜が多いのも不思議だった。

遠くに行くには二泊三日だと言うと、日曜日が入れば簡単なのにと言ったから、普通美容院は日曜日が一番忙しい筈だから、不自然に感じていたのだ。

その廣一と美由紀が北海道に二泊三日で出掛けて行った。

自宅では眞悠子が子供の変化に気が付いて「廣一、好きな人でも出来たのかい?」と尋ねていた。

「いや、まだそこまで進んでないよ」と誤魔化したが否定はしなかったので、母は遅い春が来たのかと期待をしていたのだ。

「何処の女の子なの?」

「東京かな?出身は知らない」としか答えなかった。

まさか元デリヘル嬢と付き合って、貯金が大きく目減りしているとは知らない母だった。

レンタカーを借りて北海道を二人でドライブをして、小樽の土産物店ではガラスのネックレス、ブレスレットをプレゼントして、一ヶ月の給料よりも多い出費をしていた。

それでも廣一には最高に楽しい時間だった。

飛行機に羽田から乗り、三日目の夜に帰る新婚旅行の気分を味わっていたのだ。

その後二人の旅行は徐々にランクアップしてゆくのだ。

その間にも美由紀は合コンに参加して理想の男性を捜そうとするから、由美は見ていて廣一と云う男性が気の俗に成っていた。

一度も見た事はないのだが、相当お金を使っているだろうと思われたから、今思うと、一度村田さんに会うべきだったと後悔の由美なのだ。

人の気持ちとお金を弄ぶ美由紀の恐い性格を、もっと早く教える必要が有ったのだ。

残ったのは堀越富夫と云う北陸の建築会社の社長と廣一の二人だけだった。

この頃から、美由紀は誰に云われたのか、最近は風俗を軽蔑する発言が目立っていた。

多少は貞操観念が出来たのだろうか?と由美が不思議に思ったのだ。

しばらくして、原因が判った。

合コンで知り合った一流会社の男性と付き合いを始めたのが原因だった。

この男性伊達尚人が、風俗の女性を軽蔑する発言をしたからが原因だったのだ。

付き合う男で直ぐに変わる美由紀の性格そのものだった。

伊達と付き合い出すと今度は堀越とも別れてしまったのだ。

伊達尚人には、自分は看護師の仕事に生き甲斐を感じていると話して、興味を引こうと努力した。

歯の矯正も後半に入って、完璧に成るまであと少しだと思っていた。


そんなある日「私のビラビラ、大きいと思わない?」と廣一に尋ねてきた。

「よく判らないけれど、大きいかも知れないね」

「そうでしょう、母も大きいのよ、不細工よね」と独り言の様に云う。

それは伊達とSEXの時に良い印象を与えようとする考えから発した言葉で、毎回SEXをする廣一がどの様に思っているのかは、意見として大切だったのだ。

流石に由美には聞けない部分だったから、もう伊達との身体の関係が近いと美由紀が感じていたのだろう。

その翌月廣一が会った時には性器は綺麗に整形されていたのだ。

それは、もうすぐ伊達と肉体関係が有ると云う意味なのだ。

美由紀は伊達と上手に付き合って結婚しようとしていた。

誘われるままに身を任せて、美由紀は恥じらいを見せて、遊んで居ない事を強調する技術も覚えていた。

沢山の男性と体験をしていたし、風俗でも数々の男性を見て来て、男性を見る目は確かだと自負していた美由紀だ。


翌日由美に「駄目だったわ」

「何が?駄目だったの?」

「顔も仕事も家柄も良いのだけれど、あれの相性が悪いね」と笑いながら言うのだ。

「あれって?」

「鈍いわね、SEXが合わないのよ」

「そうなの?」

「駄目よ、SEXが合わないと一生楽しく無いから」と簡単に言うので「村田さんは?良いの?」と聞くと「性格とSEXは良いわ、でも歳も顔も最低ね」と笑う美由紀に恐い部分を見た由美だった。

美由紀はもし伊達と上手く交際が出来たら、直ぐに廣一と別れる予定にしていた様だ。

今月は用事で会えないと連絡をしていたのだから用意の良い事だ。

伊達との相性が悪いと判ると直ぐに廣一に甘えて、今度は九州に行きたいとお強請りをする強かな美由紀なのだ。

由美は時々宮城に帰るが美由紀は殆ど帰らないで、時間が出来れば合コンか廣一との旅行に行くのだ。

由美が知っているだけでも、もう十カ所以上行っている。

驚いたのは、地元に近い中尊寺に連れて行って貰って、初めて来たのと言うと廣一が喜んで、色々説明をしたと笑った。

小学校の旅行から何度も行ったのに馬鹿みたいだったと由美に話した。

「そんなに、からかって面白い?」と聞くと「本人が喜んでいるから良いのでは」と笑う、何だか廣一と云う人が可愛そうな気持ちに何度も成った。

美由紀は男が居なくなると、廣一に甘えて、優しく接する。

男が出来ると、いつでも捨てるよといった態度に変わるのだ。

美由紀に振り回されている中年の叔父さんそのものなのだ。

由美はそれでも長い間、二人は続くと驚いたのは九州の土産を貰った時だった。

美由紀が同じ男性とこんなに長く付き合ったのは初めて見たと思った。

九州の話しを楽しくする美由紀に「村田さんとは合うのね」と尋ねる。

「そうね、話しは楽しい、肩が凝らないからね」

「独身だから、結婚すれば?お金持ちでしょう?」

「違うと思うわ、今回ね九州に行った時ね、祖父母は九州の出身で彼の両親は親に勘当されて出て来たみたいでね、田舎には彼は一度も行った事が無いから、場所も知らないらしい」

「じゃあ、良い会社の役職?」

「それも、違うみたいよ、それにお母さんと二人で暮らして居る様よ」

「じゃあ、相当無理して美由紀と付き合っているの?」

「多分」

「そうなんだ」

由美はその話しを聞いて、尚更村田廣一と云う男性が可愛そうな気がした。

「由美、あんな年寄りと結婚何て言わないでね、もう会えなく成るからね」

「性格が合うのが一番だって、美由紀が言っていたじゃないの?」

「大金持ちなら別だけれど、中年の叔父さんで禿げの不細工じゃあ、駄目よ」

「妥協の余地、無かな?」と笑った由美なのだが、内心この後どうするのだろう、の疑問も有った。


年が変わって、また美由紀は合コンで知り合った男性と付き合いだした。

由美は付き合いで美由紀に付いて行ったが、そんなに良い男性とは思わなかったが、村田より数段良いと嬉しそうなのだ。

そう言いながら来月も村田と丹後半島に行くと言う。

蟹を食べに連れて行って貰うのだと、そして一緒に東京に来て、村田はそのまま仕事をするらしい。

美由紀は村田には吸血鬼だよ、由美は毎度の事だがそう思うのだ。

美由紀には由美以外の人間には村田は存在していないので、影の様な存在だったのだ。

珍しく、美由紀がお土産を丹後半島から送ってきた。

それも、由美の実家に「驚いたわ、蟹を実家に送ってくれるなんて」

「両親喜んだでしょう」

「それは驚きの連続よ」

「私の実家にも送ったのよ」

「美由紀がこんな事をすると天変地異が起こるわよ」

「でも、最高だったよ、旅館も料理もSEXも」

「それで?送ってくれたの?」

「まあ、そんな感じかな」と病院の廊下で話していたら、突然、大きな音と共に病院が揺れた。

「地震だ、大きいわ」

「恐い」

長い揺れが続く、叫び声が院内に響く、東日本大震災だった。


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