第6話パトロン
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デリヘル(メルヘン)には殆ど出勤は無かったが、正式には三月で辞めていた。
翌月に成ると、仕事にも慣れて美由紀は四人を上手に手玉に取って、小遣いと食事、廣一にはそれプラス旅行、廣一とは気楽に付き合えたので、長時間を過ごした。
外見は禿げた中年の叔父さんと若くて綺麗な女性のカップル、廣一は月に一度の東京出張が待ち遠しいのだ。
一度美由紀と旅行に行くと給料の半分を使っていた。
四十五歳を過ぎた禿で独身の男性、顔も不細工な部類の廣一に、こんなに若くて綺麗な美由紀が一緒に居る事、事態不自然なのだが、本人は全く気が付かないのだ。
他の三人は全員妻帯者で遊びと割り切っていた。
一度美由紀と過ごすと、小遣いと食事、五万から八万の出費だから、社長さんとか、重要なポストの人だから負担も少ないのだ。
だが美由紀から見れば廣一もお金持ちに見えるのだった.
詳しく仕事の内容は聞かないから、唯、服装は廣一が一番安物には見えるのだ。
由美はこの頃はまだ府中総合病院に勤務していて、電話で時々近況を聞く程度だった。
電話の度に「会いたいよ、病院変わりなよ」と懇願するのだ。
本当は寂しい美由紀で、男性とは付き合ってもお金の為と割り切っていたからだ。
しばらくして、矯正歯科に墨田区まで行くのだと由美に連絡してきた。
「幾ら必要だと思う?」と聞くので「五十万位と答えると」
「冗談でしょう、三倍以上よ」と返事が返ってきて、驚いた由美だった。
そんなに、お金を要しても治したいのか?
八重歯が可愛いのにと由美は思うのだが、美由紀は他にも気に成る所が有るのだと笑う。
一体幾らお金を整形に使うのだと呆れる。
由美がした整形は本当にプチの部類に入るらしいのだ。
四人のパトロンには、矯正しているから当分フェラは出来ないからね、と元々嫌いなフェラをしないでも納得させられるから美由紀は喜んでいたが、食事とか不便も多い。
口の中にワイヤーが入って居たから、それに悪い歯を抜くから食事も大変だった。
見かけの悪い矯正なら安いのだが、美容に五月蠅い美由紀は妥協をしなくて、だから高く成ったのだ。
パトロン達全員美由紀が美容師だと信じ切っていた。
化粧が上手で美容の話が多いし、何より右手の薬指が曲がっている。
「ハサミを持つでしょう、だからこの様に成ったのよ」と手を見せるとみんなが納得したのだ。
子供の時の怪我だとは言わない美由紀の強かさだ。
由美もその話には呆れて、その怪我の時一緒に遊んで居たから、笑うと云うより呆れたのだ。
品川総合病院の夜勤勤務を上手に利用して、四人のパトロンをコントロールしてしばらく機嫌良く過ごしていた。
今思えばこの時期の美由紀が、一番落ち着いていた時だったのかも知れないと思う由美だった。
病院のベンチに座ってコーヒーを飲みながら遠い昔を思い出していた。
柏木廣一とは徐々に付き合いがエスカレートして、夕方に会って翌日昼に別れるパターンから夕方から夕方で少し遠方に行く様に成っていた。
「由美、先日ね、ネックレス貰ったのよ」
「へー、恋人出来たの?」
「違うのよ、パトロンの一人の村田さんよ」
「装飾品嫌いじゃあ無かったの?」
「違うわよ、今まではね、実用品を貰ったでしょう、仕事の関係で、身に着けられないでしょうだから、断っていたのよ、でも、やはり装飾品は良いわ」
「勘違いするわよ」
「彼、独身だから、その気にさせれば良いのよ、金持ちよ!きっと」
「何故?判るのよ」
「私と行くと、十五万以上使うから、今回は別に五万もするネックレス買ってくれたから」
「それなら、金持ちかもね、でも本気に成っているよ、大丈夫?」
「大丈夫よ、私何故身体にお金を使っていると思う?」
「判らないわ」
「年寄りを騙す為じゃないわよ、本当に好きに成れる人に愛されたいからよ」
「顔で惚れても飽きるよ、美人は三日で飽きると云うから」
「村田さんは、性格も合うし身体も合うのよね、でも不細工で年寄りだからね、本気に成られても困るよね」そう言いながら笑う。
「好きに成らないなら、程々で別れなさいよ、可愛そうだよ、独身でしょう?」
「中年、独身、禿げ、私は若い、綺麗正反対よ」美由紀は笑いながら云うのだ。
由美は村田と云う人には一度も会った事がないから判らないが、誠実な人で美由紀の事が好きなのだ。
そして何より、風俗で働いている事を許している。
普通は中々許さないのが常識だから、とその時思った。
一年遅れて由美は品川総合病院にやって来た。
山下巧美もようやく定職に就いて、交際を再開していた。
元々家は商社マンの家族で立派で、最近巧美がようやく実家の話しを由美に喋ったのだ。
「貴方、落ち溢れなのね」と笑うと「僻みが有ったからだよ」と笑う。
小さな会社だが、今回は真面目に働いていたが、父俊武の口利きとは知らない巧美なのだ。
病院の寮のマンションは防犯設備も充実して、部屋も広い。
「良いでしょう」
「本当ね」
「だから早く来なさいって言ったのよ」
美由紀は引っ越しで片付け終わった時に由美にその様に言うのだ。
確かに以前は寮が無かったから、待遇は格段の違いだ。
看護師不足を補う為に色々と病院は工夫をしているのだ。
何処の病院も同じだろうが、老人の入院患者が多い。
介護をしているのか、病気の治療か区別がつかない程、重労働、由美も美由紀も身長が有るので良いが、背の低い小さい看護師には厳しい職場だ。
それに夜勤だから、身体は相当疲れる。
由美が休みはゆっくり寝るのが一番だったが、美由紀は違って四人のパトロンとのSEXのバイトに行くのだ。
確かに美味しい物を食べて、お金が貰えるから、良いのだろうが、由美にはとても出来る事ではなかった。
好きでも無い男に抱かれる気分はどの様なものなのか?想像をしても背中に悪寒が来るのだ。
夏休みと冬休みには看護師達は長期の休暇を貰える。
普段お金を使う時間が無いので、この時と海外旅行に行く、美由紀も例外では無かった。
休みの度に海外に昔の友達とか、今の病院の同僚と海外に行った。
由美はお金も使わない。
将来弟の面倒を自分が見る事に成る可能性が高かったから、巧美と休みが合えば近くのレジャー施設に行く。
この頃巧美は由美を初めて実家に連れて行ってくれたのだ。
巧美の母瑠璃子は大いに喜んで手料理をご馳走してくれたのだ。
それは仕事もしないでブラブラが多かった巧美を、由美が更正させてくれたと喜んでいたからに他ならない。
休日で父の俊武も居てそれはもう喜びようが最高だった。
それ程巧美には手を焼いていたと後日語っていた。
もうすぐ東京に来て八年の歳月が流れて居たのだ。
相変わらず美由紀は廣一とは続いて、由美は珍しい!あの美由紀が幾らお金の為とはいえ旅行に行ったりする。
男性とこんなに長く続くのは珍しく、パトロンの内二人はもう別れていたのだ。
流石に仕事が疲れるのと「一緒に短時間居るだけでも肩が凝るのよ」そう言って別れていた。
廣一は肩が凝らないから、長続きしているのだ。
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