第5話出会いは一目惚れ

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柏木廣一は食品の営業にも慣れて、最近では取引先の問屋も安定して、月に一度東京の営業に二泊三日で来るのだ。

もう髪はすっかり薄くなって、禿げ親父に見える。

東京に出張に行きだして、もう五年の歳月が流れていた。

最近は母の眞悠子も息子の結婚は諦めた様に何も言はなく成っていた。

廣一の頭を見ると、完全に親父の顔だった。

そんな、廣一に楽しみが出来たのは、二ヶ月前からだった。

以前時々ソープで遊んで居た廣一がデリヘルを友人から教えて貰ったのだ。

最初は全く信じてなかったが、二ヶ月前初めて来た(メルヘン)のみどりと云う女の子が気に入って通い始めた。

でもデリヘルでは本番が無いのが普通だ。

今夜は三回目、前回「次回に、村田さんの希望は叶えるわ、呼んでね」と云われて来たのだ。

それが突然の退職のメールに落胆の廣一、デリヘルでは村田廣一と名乗っていた。

丁重に謝る(メルヘン)の係が「陽奈さんも、最高ですよ、みどりさん以上かも知れませんよ」と云って代わりでと云うが、廣一の落胆は大きいのだ。

ソープの機械的な性処理より、世間話しをして気に入れば食事も行けるデリヘルに親しみを感じ始めていた矢先の出来事だったから、期待も無く部屋で待つ廣一「気に入らなければ、六十分ですよ!」と強い調子で言う廣一。

「良いですよ」と係との電話での応対。

チャイムが鳴って入って来た陽奈を廣一が見て、一目惚れをしてしまった。

おまけに美由紀は廣一の希望の本番を「私、フェラ上手じゃないから、ゴム着ければ本番で良いわ」と言ったから、益々廣一は気に入ってしまったのだ。

メールアドレスを聞くと美由紀は簡単に教えた。

廣一はこの陽奈さんが自分に好意を持っていると簡単に解釈していた。

美由紀は以前の失敗から、何人かのパトロンを用意して、三人から五人を交代で相手をして、お金を貰おう、デリヘルで不特定多数の男性とSEXするより効率が良い、デリヘルに勤めて変な噂が出るのも困る。

今度は夜の顔と昼の顔は使い分けしようと思っていたのだ。

美由紀は由美には大体の事を教えてくれたのだ。

この時の事を後で美由紀は「禿の変な関西人だったわ、SEXは意外と合うから、候補の一人ね」と由美に話していた。

翌月も廣一は三時間のコースを美由紀の為に予約してくれた。

美由紀はこの廣一をパトロンの一人に入れようと考えていた。

一晩に七万も使うからお金は持っているのだろうと思っていたのだ。

翌月は遂にお泊まりコースに成って、SEXも合うから決まりだねと考えた。

他に堀越富夫と云う北陸の建築会社の社長も候補に成っていた。

後二、三人は必要だわ、廣一に四回目の時、話しを切りだした。

「店、通さないで会えない?」

「えー!良いのですか?」

「私も店通さない方が、時間も楽だから」

廣一もそれが良かったから、直ぐに話しは成立して、翌月から夕方会って、翌朝別れる事に成った。

堀越も同じ方式で納得して、これで二名が決まったと美由紀は嬉しそうに由美に話した。

話しを聞く由美も、恐い行動の美由紀なのだ。

デリヘルのホームページには顔は写ってはいないが、知り合いなら直ぐに判る写真が数枚掲載されている。

美由紀大丈夫かな?と、この頃心配していたのだ。

久保正と云う九州の運送会社の叔父さんが、三人目の美由紀の客に成ったのは秋の初めだった。

そして続けて、黒岩悦夫が四人目の客として美由紀のポケットは一杯に成った。

最初の廣一とは話が合うから、最初の三回から進んで、旅行に行こうと誘われる様に成っていた。

昼には戻らないと夕方の仕事に間に合わないので、国分寺から行ける範囲は限られていた。

夕方四時から翌日昼迄の近場の旅行に廣一と美由紀は出かけた。

この時美由紀は名前だけは教えて、陽奈と呼ばれても返事出来ないからだが、廣一も村田のままで廣一だけが本名、美由紀と全く同じだ。

美由紀はお金の為、廣一は好みのタイプの美由紀の事を本気で好きになりそうだった。

美由紀は由美の姉の職業の美容師と名乗って誤魔化す、決して看護師とは言わないのだ。

山田真二郎に本名と仕事を喋って大変な事に成ったからだ。

その山田が数ヶ月振りに電話を掛けて着たのだ。

少しの間九州に応援の仕事で行っていたと由美に話した。

依然美由紀は電話には出なかった。

山田は「職場に喋るが良いのか?」と美由紀に伝える様に言ったのだ。

事態は大変な事に成ったのだ。

病院にデリヘルの話しをされる恐怖を美由紀は感じて、仕方無く来月会うと連絡をしたのだ。

美由紀はもう頭の中では、病院を変わろうと考えていた。

山田にもう会って抱かれる気分ではなかった。

美由紀は一度嫌いに成ると、もう戻れない性格だった。

由美は病院を変わる相談を受けて、逃げる事を考えて居ると思った。

そして、自分にも変われと言う身勝手な性格なのだ。

病院には盆も正月も無い、交代で休暇、由美には今年もまた、美由紀に振り回されそうな予感を感じていた。

一月の半ばには、山田の事は忘れたかの様に、柏木廣一と温泉旅行に出かけて、お土産を由美にくれたのだ。

山田は二月に東京に来ると連絡してきた。

美由紀は二月を乗り切れば三月にはこの府中総合病院から、品川の総合病院に変わる準備を着々としていた。

どの病院も看護師不足で、直ぐに採用されたのだ。

由美はこの時、一緒には退職を申し出なかった。

余りにも身勝手な理由だったから、腹が立った由美なのだ。

だが、美由紀は由美に山田さんに会って自分の代わりに、病気で会えないと話して欲しいと頼んで来た。

「自分で何とかしなさいよ」

「冷たいわね、頼みを聞いてくれたら電動自転車あげるよ」と品物で釣るのだ。

それでも嫌だと言うと、床に頭を擦りつけて「由美だけが頼りだよ、お願い」と頼む、由美も美由紀の性格を知っていたから、多分会わないだろうとの想像はしていた。

二月にも柏木と近くの温泉に出かけて、饅頭を買ってくるのだが、山田が来る日に出掛ける周到な美由紀だった。

山田は由美の説得と病気を半分信じて関西に帰って行った。


今由美が乗っている自転車は、その後三月に美由紀が残して行った自転車なのだ。

三月に美由紀が府中総合病院を去った。

山田が再び電話をしてきたが「美由紀さんは、病院を退職しました、今は何処に行ったか私も知りません」と答えた由美なのだ。

でも信用しない山田は病院迄三月の末に尋ねて来た。

相当沢山のお金を美由紀の為に使ったのだろうと思った。

引っ越しの時の電化製品の多さ、多分職員販売で少しは安く買っているだろうが、山田の出費は相当だろうと思われた。


柏木廣一も毎回相当なお金を使っていた。

安月給のサラリーマン、長い間仕事をして貯めたお金を毎回少しずつ使って、美由紀を楽しませていた。

一度旅行に行くと美由紀の小遣いと旅費に相当使うのだ。

廣一には美由紀の恐い部分が見えていなかった。

四月は流石に品川のホテルで会うだけに成っていた。

美由紀もこの病院では新人だから、それと知り合いが誰も居ないのが不安に成っていた。

来月から夜勤のローテーションにも組み込まれて、忙しい美由紀なのだ。

何度も由美を誘う美由紀、此処の病院には綺麗なマンションの寮が有って最高よと言っていた。




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