第4話運命の出会い

 5-4

府中総合病院に就職した二人に、先輩看護師が美由紀に「看護師が医師を好きに成っても、遊ばれて捨てられるだけだから、希望を持たない様にしなさいよ」とまるで二人の気持ちを察した様な忠告を言った。

美由紀が配属された外科病棟の先輩なのだが、この言葉にあっさりと信じて美由紀は佐藤医師を諦めたのだ。

「由美に譲るわ、私、医者とか医療の関係の人とは結婚したくないから」と本当の理由を由美には教えなかったのだ。

美由紀は美容に給与の半分を使う徹底ぶりで、いつの間にか再び整形をしてより美しく成っていた。

唯、歯の矯正には大金が必要な為思案をするのだ。

由美は半年経過しても、佐藤医師との交際の切掛けさえも見つけられない状態が続いていた。

それは初めての勤務も手伝って、中々気持ちに余裕がなかった事も理由のひとつだった。

二人は病院の近くにマンションを借りて共同生活だったが、秋に成ると美由紀が突然「もう、二人共彼氏が出来るから、別々に暮らそう」

そう言って近くの立派なマンションに引っ越してしまった。

毎度の事だったが美由紀は自分勝手で男と付き合って、何か嫌な事が有ると直ぐに別れるを繰り返すのだ。

今回もまた病院に来る薬の営業との関係が出来た様だ。

由美が知っているだけでも十人近くは付き合った男性が居た。

化粧も上手で、整形もしているから、直ぐに男性が声をかけて、気に入ったら付き合うそんな軽い感じなのだ。

半年を過ぎると、夜勤のローテーションに入る。

そうなると、また男性が変わってしまう。

それは、生活リズムが変わるから、世の中の休みは仕事で、自分の休みの時は相手が仕事で、美由紀の彼氏も半年も経過しないで別れていた。

今度はまた合コンを覚えて、由美にも誘いをしてくる。

一人では参加出来ないのでまた由美を誘う美由紀、次々と異なる合コンに参加する二人。

気に入った男性を見つけると積極的に、煙草が嫌いな男性には、吸わないと言い、酒を飲む男性には合わせると云った感じで付き合いを始めるまでは、その様に振る舞っているのは長年の処世術なのだ。


二年が瞬く間に過ぎ去り、結局由美は佐藤医師とは何も無く、佐藤の転院で儚い恋は消えていた。

美由紀はその年の秋に一大決心をして、歯の矯正資金を貯めるのだと風俗の門を叩くのだ。

夜勤を利用して、働くのだと云う。

そして由美に一緒に行こうと誘うのだが、流石に風俗は由美には出来そうも無かった。

断ると美由紀は自分一人でも行くと、デリヘルに働く為に面接に行ってしまうから、唖然とする由美だ。


何人もの男性と経験の有った美由紀には、お金の為に身体を売る事、事態そんなに大きな問題では無かったのだろう。

合コンでは外人の友人とも関係が出来たと笑っていた。

そして、白人は合わないわ、臭いし、サイズも、堅さも、黄色人種が一番良いわと話していたから、デリヘルで働くのに抵抗はなかった様だ。

唯、自分の身元がバレる事を極端に嫌っていた。

それは、まだ良い彼氏が見つかって結婚しようと絶えず考えていたからだ。

高校時代は大柄な由美の陰に隠れて、由美に付いて歩いた美由紀が今では完全に逆転していたのだ。

「デリヘルの仕事はどうなの?」と聞いたら「知らない男のペニスを咥えるのは抵抗が有るわ、だからゴムを被せてSEXをするのよ、その方が楽だし、衛生的よ、男なんて一度出たら終わりだからね」そう云って笑う、フェラが嫌いな美由紀なのだ。

由美には判らない感覚だった。

そんな、美由紀が「良い客捕まえたのよ」

「どんな?」

「大手の家電の重役さんだと思うのよ、今度テレビ貰えるのよ」

「家がバレても、良いの?」

「山田さん良い人だから、大丈夫よ」

山田真二郎、六十歳関西から月に一度東京に会議で来るらしい。

数日後、美由紀のマンションに行くと、大きな液晶テレビが居間に置いて有ったので、話しは本当だったのだ。

「凄いでしょう、良いお客を捕まえれば、給与以上に成るわ、もう直ぐ店は辞めるわ」

「まだ、半年程しか働いて居ないのに?」

「山田さんが辞めてって言うから、お金もくれるのよ」

「それって、パトロン?」

「まあ、そうかも知れないわね」

しばらくして、デリヘルを辞めてしまう、美由紀に由美は困惑した。

結婚に憧れているのに、パトロンを捕まえるとは?

そんな頃、由美には以前付き合っていた巧美がまた近づいて来て、また交際を迫っていた。

相変わらず、定職には就いていなかった。

「就職が安定しなければ、もう何度来ても付き合いませんから!」と強い調子で言うと「何処かで聞いたな、覚えが有るな?」と大昔の電車をお互いが思い出したのだ。

「お前、あの時の高校生?」

「貴方、あの時のチンピラ?」

人間の感情とは不思議な物でその事が二人を懐かしく思わせて、また付き合い始めるのだから判らない話しだ。

美由紀は月に一度の山田の上京は楽しみにしているのだが、今度は時間が余ってまた合コンに行くから、そこでまた別の男性と付き合う、

この頃はまだデリヘルの仕事で知り合った人と、普段付き合う人の区別を付けていなかった様だった。


その半年後、山田が上京した時、美由紀は気分が乗らなくてSEXを断った事から関係が悪く成って、決別の喧嘩をしてしまった。

山田はお金も電化製品も多数美由紀に与えていたので怒りは大きかった。

その後しばらくして、美由紀はまたデリヘルに働きに行くと言い出した。

もう少しで歯の矯正の代金が捻出出来るからが理由だったが、また良い男性を見つけたいが本音だった。

今度は絶対に本名は教えないし、住所も教えないと硬く心に決めて(デリヘル、メルヘン)に勤めるのだ。

今回は自宅マンションから遠い品川のデリヘルに決めて、イメージも黒髪のセミロング清楚系に変身していた。

(メルヘン)のキャッチが清楚な女性、そして何より美由紀が気に入ったのは、客は上客が多いと云われた事だ。

今年で二十五歳、そろそろ結婚の準備も必要だと変身したのだ。

由美はこの美由紀の行動に、唯呆れるだけだった。


その後も山田は上京すると、コンタクトを美由紀にしていたが、着信拒否が続いていた。

山田は病院に電話をしてきたが、由美が代わりに電話を聞いて山田の不満が少し和らいだ。

でも基本的には何とか、美由紀とまたお付き合いをしたいが結論だったのだ。


イメージチェンジをした美由紀は春から(メルヘン)に勤めだした。

以前と同じくフェラよりSEXが楽で、衛生的だと思っていた。

美由紀は殆どの客と本番をする。

月に一度来ていた山田真二郎が全く来なくなった。

連絡も無くなった。

由美も諦めたのか、美由紀は頑固だから、一度嫌いに成ったらもう戻らない事を由美は知っていた。

店の源氏名は陽奈に成っていた。

美由紀はその日、久々にデリヘルに仕事に出た。

「今夜のお客さん、指名のみどりさんが、急に退職されたので、代理で行って貰えませんか?」店の店長が美由紀にその様に伝えた。

「黒髪の清楚が好きみたいだから、今陽奈さんしか居ないからお願いしますよ」そう頼まれて

「私もそんなに、多く入って居ないから、指名も無いから良いですよ」と引き受けた。

「じゃあ、お願い、みどりさんは三時間コースなのだけれど、何分に成るか判りませんので、宜しく」

美由紀はドライバーに送られて、品川のホテルに向かった。

運命の出会いの為に。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る